自分の商品を売りたいか、顧客の役に立ちたいか
朝日新聞が「夏の甲子園」に支援を求めたクラウドファンディングが絶不調だったというニュース。最終的に、1億円目標に対して約1,300万円と、13%の達成率というのが、いろんな意味で非常に象徴的な出来事でした。
1,300万円も集めたとはいえ、目標に対しては大きく下回ったことで、端的に言えば「失敗」した企画と言えます。失敗こそ学ぶ価値がある、ということで、その失敗要因を6つ考えてみました。
1.社説でオリンピック中止を求めた朝日新聞が、甲子園はやるのかという批判。
これは10人いれば10人違和感を覚えるでしょう。そのうえで、無観客で儲からないからクラファンを、というのは虫が良すぎるのではないかという意見は極めて自然です。
2.そもそも朝日は甲子園でどれくらい儲かってるのかがわからないところ。
放映権料も払ってないということで、今回が無観客だったとしても、これまで十分儲かってるのでは?というイメージ。
3.目標額1億円の根拠と、その使途。
朝日新聞は、サイト上で
・第103回全国高等学校野球選手権大会の運営費用
・都道府県高等学校野球連盟の運営支援
に充てるとして、『目標額を上回るご支援をいただいた場合も、すべて高校野球のために使わせていただきます』と明記していますが、書いているのはそれだけです。具体的にどこにどれだけかかるのかが不明です。
4.寄付型のクラファンで、見返りがほぼない。
見返りは、A-Portサイトへの名前掲載と感謝のお手紙。3,000円であろうが、50万円の寄付であろうが、それは同じです。感謝のお手紙です。ぶっちゃけ、いらんですよね。
それなら、かつて甲子園を沸かせたヒーローたち、例えば清原氏や田中マー君などのサインボールとか、そんなのを考えられないのかと。
感謝のお手紙でも寄付しようと思うのは、出場選手のOBや親御さんくらいかなと思いきや、
5.単独で寄付を募っている出場校もあり、それなら学校に寄付するわいと。
それでなくても、甲子園出場にはお金がかかるもので、学校側はファンドレイジングに必死です。当然、選手の親御さんやOBたちには寄付をお願いしますよね。そのうえで朝日新聞にも、とはならないでしょう。
ちなみに、出場校単独のクラファンで朝日新聞以上の金額を集めている学校もあるらしいです。
6.また、本当にお金が必要だったとしても、寄付以外に方法があるのではないかという疑念も残ります。
夏の甲子園は、教育の一環なので、表立ったビジネスができない、という建前はもういいじゃないですか。私は新聞社系の広告代理店に勤務していた時に、主催者からの紙面の押し付けを毎年経験していました。毎年、主催者の広告部の連中と一緒に、大手企業を回っていました。
これをビジネスと言わずして何と言う。毎年、どれだけゴリ押しの広告を集めてたんだ、という話。
・・・結局、コロナ禍でその売り上げが見込めないなかで、その代わりにお金を集めてるだけじゃねえのかと。これ、たぶん見た人の8割がそう感じると思うんですよね。
クラウドファンディングっていろんな形態がありますが、どんな形にしても、お金を出す人にとってのベネフィットを先に考えないと、お金なんて集まりませんよね。
私は、今回のクラファンに1,300万円もよく集まったなと思います。だって、寄付型とはいえ、上記のような疑念がある中で、見返りは「感謝のお手紙」ですよ。何度も言いますが。
マーケティングって、自分の商品を売りたいってだけじゃ、うまく行きっこありません。どう顧客の役に立つかという視点がないと、お金を出そうという気にはなれないですよね。
その典型事例を、わかりやすい形で見せてくれたのが、今回の朝日新聞だったと、私は思います。