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ALBUMS OF THE YEAR 2022 by 高橋アフィ

 2022年はありがとうございました&2023年もよろしくお願いします!2022年の私的ベストアルバム10枚+αです。

#10
John Carroll Kirby "Dance Ancestral" 
(Stones Throw)

 昨年(個人的)1位だったJohn Carroll Kirby、今年もよく聞きました。前作は「アンビエント的な目線では語られてこなかったダンサブルなニューエイジ」という感じだったんですが、本作はそこから更に深化。よりジャジーに、いやむしろフュージョン感すら漂う雰囲気になってます。大袈裟なキメが入る面白さとか、ヴィンテージシンセのなまった気持ち良さとか、絶妙なところをモダンに掘り下げています。
 といいつつ、本作の(というか、どの作品においても)John Carroll Kirbyの一番の凄さは、曲調のトレンディさや音色への感性など音楽オタクそのものみたいな曲なんですが、そういう意図を全く感じさせない、超シリアスでスピリチュアルな雰囲気なんですよね。vaporwaveしかりhyperpopしかりエモしかり、俯瞰目線で過去や現在を再編集する音楽がここ数年のトレンドだという印象なんですが、John Carroll Kirbyは「あえて使ってます」みたいなネタ感が皆無なんですよ。かつ、使い方はちゃんと更新されている。
 別の言い方をすると、SNS的な磁場から(自然と)逃れている雰囲気が素晴らしかったです。現在としてトレンディでありつつ、後々聞いてもいつ作られたかわからない名盤感ありますね。来年リリースであろうEddie ChaconのALも期待。

#9
SAULT "AIR"
(Forever Living Original)

 ファッション・ショーの動画を観るのが好きで、そこで良い曲を探すんですが、選曲として個人的に印象的だったのが『The CHANEL Fall-Winter 2022/23 Haute Couture Show』。

 1曲目と4曲目がSAULT『AIR』収録曲の'Air'と'Time Is Precious'。ソリッドかつヨーロッパ的なハイカルチャーな空間で流れる、今まで(少し)聞いたことのない「クラシック」的音楽に衝撃を受けました。Pitchforkの『AIR』レビューが説明としてわかりやすく、「ヨーロッパ的と見なされているスタイルの音楽でさえ、Black innovatorsの影響を強く受けていることを私たちに思い出させる。」とのこと。「クラシック」的な映画音楽とか想像するとわかりやすい話かなと思ってます。
 この話は、アメリカ音楽史をラテン目線で語り直そうとした大和田さんの授業思い出したり。

 今年SAULTは7作リリースしており、レゲエテーマの『X』の革新的かつ本質的なプロダクションや5作同時リリースの凄さなど、ずっと驚かされました。その中でも最も歴史的にも重要な作品としてこれを。

#8
Yaya Bey "Remember Your North Star"
(Big Dada)

 ネオソウルの作品を聞き始めた時の感動がありました。プロダクションの自由さとソウルフルなバランスは、Erykah Badu的とも言えるかも。バンド的/ライブエンターテイメント的な方向が入っていったErykah Baduに対し(それはそれでもちろん良かったんですが)、ひたすらヒップホップの核心を掴んでいる感じで、ずっとグルーヴィーでチルい。ドラムの出入りで展開を作っている曲が多めで、ビートの圧で聞かせる曲調じゃないところも面白かったです。
 そしてボーカル・プロダクションが良いんですよね。ピッチとかちょっと外れる時があるんですが、そこ含めて魅力的に聞こえる音の鳴らし方が良かったです。ホームレコーディング感がサンプリングの音像の狭さと相性ばっちりで、むしろ奥行きが出ている感じ。

#7
KMRU "Temporary Stored"
(Self-released)

 ケニアのナイロビ出身で現在ベルリンを拠点に活動するサウンド・アーティスト/プロデューサーKMRUによる、ベルギーにある中央アフリカ王立博物館のアフリカ各地で収集されたサウンド・アーカイブを使用した作品。「文化財」が「美術品」として「盗まれ収集されている」ことが近年問題なっているんですが(映画『ブラックパンサー』でもそういうシーンありましたが、過去の話なんてことは全然無く、2022年の記事もあるくらい現在進行形の話)、その対象を無形文化財にまで広げ、ドローンのシンセ等を重ねることで、その「盗まれた音」をあるべき文脈に戻そうとしています。
 フィールド・レコーディングにシンセが加わることで、むしろ生々しいまでに録音当時の風景や歴史が迫ってくるような音像になっているのが面白いです。手を加えることで原体験に接近する不思議。同時にアンビエントでは(ある意味)軽視されがちなリズムが結構入っている(フィールドレコーディングの中にリズムがある)のが個人的に良かったところです。ダンスミュージックではない形でリズムが鳴っている気持ちよさがありました。
 全体的に超ドープでチルアウト系ではないんですが、歴史と音に向き合うことでアンビエントかつ濃厚な音楽になっていて素晴らしかったです。そのハードさがありながらエクスペリメンタル一辺倒にならない感じもKMRUの良さですね。

#6
Kim Oki "Love Flower"
(Donmansuki Film)


 韓国のサックス奏者/プロデューサーKim Okiの今年2枚目のAL。一歩ずれると、というか割とそのままスムース・ジャズというかラウンジで流れてそうなジャズなんですが、その毒っ気ごと受け入れることでスピリチュアル・ジャズやアンビエントと接続させた怪作です。
 このラウンジ感っていわゆる「ジャズ」的価値観だとダサいもので、アメリカや欧州的な洗練からだと消えていくものだと思うんですよね(Kenny Gのジャズ分野からの嫌われ感と近い気がする)。そこを丹念に掘り下げてることで、アジア的な叙情性を獲得し、ラウンジかつスピリチュアルあるという独自の世界観になっています。
 ベストトラックは素朴な歌が鳴り響く4曲目。この歌を肯定出来る→感動的に聞かせられるところにKim Okiの凄さを感じました。
 ちなみにOkiは沖縄に行った経験からつけたニックネームとのこと。

#5
Koma Saxo with Sofia Jernberg "Koma West"
(We Jazz)

 Petter Eldh率いるコードレス&3サックスのクインテットKoma Saxoによる、フリー系で活躍するボーカリストSofia Jernbergを招いたAL。前作まではその編成の歪さを強調したアンサンブルが中心だったんですが、本作はpianoにKit Downesが参加したり、Petter Eldhがサンプラーを使ったり、多層的なアンサンブルになっています。
 欧州版の「リズムで楽しむジャズ」の一つの完成系ではないでしょうか。ドラマーChristian Lillingerが凄まじく、軽いままグリッドが狂っていく演奏はバグった機械のようだし音飛びしたCDのよう。しかしこれだけビートが強烈でもドラムだけが中心に聴こえないのがKoma Saxoの凄さで、綿密に設計されたアンサンブルがバグ感とシンクロする瞬間がカッコよかったです。
 違う話としてNY的な腕力殴り合いセッションに対しての、ルールがあることでより楽しくなるSnaky Puppy、そこに対しての新世代がKatylistなどLAの調和的なアンサンブルという認識だったんですが、またそれとは違う演奏なんですよね。欧州フリーから華開いた別の/新たな現代ジャズというか。かつ発展性ありそうで、これから一番面白いシーンの一つになるのではという期待もあります。

#4
The Orielles "Tableau"
(Heavenly Recordings)

 パンキッシュで退廃的、バンドサウンドかつエレクトロ要素たくさんで良かったです。前作はヴィンテージファンクやディスコっぽ感じで、今回とは全く違う作風なんですよね。
 「バンドとしてどうやってドープな表現をするか」の中で、エクスペリメンタルに振り切るやり方もあるんですが、ポップへの道を捨てていないしドープへの道も捨てていないのが個人的にツボでした。
 それとシンセを導入しつつもエレクトロ的なグルーヴ感は取り入れていないのが面白いところですね。どうしてもミニマルなビート感だったり、ダンスミュージックへの傾倒を感じさせる方向になりがちなんですが、本当にバンドサウンドそのものにシンセやアルペジエーターが加わった感じ。ありそうでなかったバランスだし、それを実現させるプロダクションの巧みさも興味深かったです。

#3
Ulla "Hope Sonata"
(Longform Editions)

 音を録音する/聴くことの素晴らしさとかけがえの無さが詰まっています。偶然録れてしまったような音の一つ一つが美しい。最も感動したアンビエントでした。
 別の言い方をすると、ノイズ要素の取り入れ方が素晴らしい。録音ノイズもそうだし、演奏自体もとりとめ無い≒ノイズ的で、なぜこれが作品として聞けるのか不思議なほどの自然さ/環境感があるんですよ。合宿に行ったら遠くの部屋で楽器の練習している人がいた→それを聞いている自分、くらいの偶然性と意図の薄さ。ただ、その自然さ/環境感を積極的に/緩慢に聞くことこそアンビエントだと思うんですよね。
 音を音楽として聴くことの良さでした。

#2
Bruno Berle "No Reino Dos Afetos"
(Far Out Recordings)

 リイシューだと思ったらリイシューじゃなかった。ブラジル北出身のSSW/マルチ奏者Bruno Berleのデビュー作。これがデビュー作とは完璧では。ブラジル音楽からハイライフ、ローファイ宅録発掘もののフィーリングまで行き来する音楽旅行。
 弾き語りを中心としつつフィールドレコーディングと混ぜる、みたいな作り方なんですが、昔の録音を再現というよりはわざと時空や場所をずらしている感じで、結果的にありそうでなかった音になっているのが面白かったです。ヴィンテージ・サウンドへの愛情というよりは、「昔の録音のノイズ多すぎて凄い!」みたいなエクスペリメンタル的志向性に聞こえます。
 そのノイズまみれでローファイな音像にすることで、不思議と(いや、それこそが彼のねらい?)歌が前面に出てくるのも面白かったです。

#1
Wilma Vritra "Grotto"
(Bad Taste)

 今年一番聴いた作品でした。ロンドンのプロデューサーWilma ArcherとLAのラッパーPyramid VritraによるユニットWilma Vritraの2nd。聞けば聞くほど謎が深まるALで、気がつけば滅茶苦茶聴いてました。
 ネタ使いとしての面白さってヒップホップの醍醐味の一つだと思うんですが、面白いのが本作はその元ネタを「ヒップホップ」化させないんですよね。違う言い方をすると、頑なにドラムをいれない。
 例えば、この曲はワールドスタンダードのサンプリングをしていて

こちらがサンプリング元

聞き比べると結構元ネタそのまま使いではあるんですが、むしろこの曲をサンプリングしたときに、ビートを入れるよりも(基本)そのまま使う方がヒップホップとしては挑戦的だと思うんですよね。この不思議な状態で定着させるところにWilma Vritraのセンスを感じました。
 そしてもう一つ面白かったのが、異様なまでのハイファイさ。現行のニューエイジリバイバルって、ある程度vaporwaveあるいはローファイ文脈の上で成り立っている印象で、音をなまらせることでモダンにしている印象だったんですよ。アナログで聴くと良いというのもその一環というか(カセットだと更になまりますね)。しかしWilma Vritraはもうギリギリなくらいのハイファイさで、80sのキラッと感すら漂うですが、だからこそ異物感ある音像が良かったです。特に10曲目「Every Evening」は、もはや観光のビデオで流れるような音になっているんですが、そこまでありにしちゃう感じにやられました。
 あとWilma VritraもJohn Carroll Kirbyと同じく、音楽オタクだけれど超シリアスな雰囲気ですね。「面白いネタを使っている」みたいな雰囲気のなさが、かなり解釈が難しい本作に一本筋を通しているように思いました。

最後に雑記

 アンビエントやチルアウトの概念が広まりきったことが一要因だと思うんですが、(意識的にせよ無意識的にせよ)特定のジャンルのルールに乗っかる/壊すことで面白さを出すメタ・ジャンル的な作品が減り、ジャンル越境的な作品が増えてきた印象の一年でした。ざっくりいうと「ロックの歴史を変える」みたいな作品ですね。例えばBig Thief『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』は(自分のランキングには入れなかったものの)今年リリースされた傑作で、ミュージック・マガジンのランキング然り今年のロックとしても重要作なんですが、そのラフな作りの良さはロック/バンドの磁場から降りることから発生したものだったのではないかと。他にも(こちらも自分のランキングには入れなかったけれど)Ezra Collective『Where I'm Meant To Be』やDOMi & JD BECK『NOT TiGHT』とかも、ジャズを更新する気概というよりは本人たちの興味の幅広さが軸にあったように聞こえたり。
 そうなると、部門別のランキングってどうなんだという時代になりそうな予感を感じました。アフロビーツの盛り上がりを考えるとそれで部門作ったり、むしろアンビエント部門がないままクラブミュージックの中にダンスミュージックとノンビートのものが並んでいる現状って、みたいなことになるのではないかと。その解決策の一つしてbandcampの雑食的かつ独特な区分の部門ベストがあるんですが、結構真剣に考えた方が良さそうな気がしてます。
 あともう一つの解決策は、個人のベストですね。結果その人の感性で編集されていて、やはり納得感はあるんですよ。どんどん増えてほしいし、可能なら一言でもいいから選んだ理由を書いてほしいし読みたい。

 というわけで個人の年間ベストでした。個人的であればあればあるほど良いと思っているので、結果自分の一年に考えていたことを振り返る形に。来年もよろしくお願いいたします。

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