副作用による初めての脱毛
去る2020年3月31日に新しい薬を2種類、点滴で躰に入れた。
一つはイリノテカン(抗がん剤)で、もう一つはパニツムマブ(商品名ベクティビックス : 分子標的薬)である。
そのうちの一つイリノテカンの副作用で脱毛が始まった。
4月22日の朝、シャワーで髪を洗っていて、ふと手を見ると髪の毛がまとわりついていた。
ぎょっとして髪を手櫛してみると、けっこうな本数が手のひらにあった。
ついに来たか!
それから、シャワーや入浴ごとの、抜けた毛の後始末が始まった。
排水溝にひっかかった大量の毛をつまみ上げると、哀愁のメロディがどこからともなく聞こえてくる。
2週間ちょっとかけて、ほぼ抜け落ちてしまった。
ほぼというのは、揉み上げや口ひげは残ったからだ。
眉や陰毛は、少し薄くなった程度。
全身の毛が抜けることが多いらしいので、イリノテカンの奴、少し手加減しやがったかな。
おい、腫瘍には手加減するなよ。
たのむで。
ちょうど脱毛の真っ最中に、Zipanguの薔薇のMusic Videoの撮影が重なってしまった。
だから、3曲分撮った映像のおれは、帽子男になっている。
ともあれ、わたくし帽子ファッションを満喫中です。
誕生日には、いろんな人から帽子をもらった。
医療用帽子なんだが、揉み上げや口ひげがあるから、おしゃれ帽子に勘違いする人がいるかもしれない。
「いずれまた生えてくるわよ~」
「毛根はダメージ受けてないからさ」
などと慰めの言葉らしきものをくださる御方もいらっしゃいますが、腫瘍が消滅しない限りは投薬が続くから、そのいずれがいつになるか不明である。
そして主治医は言った。
「奇跡が起こらない限り、ここまで広がった腫瘍が消えることはないと思われます。」
そんなとき、おれはいつも考える。
世界に「奇跡」という言葉がある以上、それはまれに起きているのは間違いない。
自分に起きる確率は限りなくゼロに近いかもしれないが、受け入れる準備はできている。
そんなことをね、考えるんだよ。
希望があれば生きていけるから。