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キオクノート#1 きっかけ

「どうして料理人になったのですか?」

とても良く聞かれる質問。

そのたびに「好きだから」と答えていた時期がありました。

本当はそもそも料理が好きなわけではなくて、人生で初めて料理をしたのは中学の時に父が好んで観ていたテレビの料理番組をみて、見様見真似で作ったチャーハンだったと思う、味など覚えてはいないけれど。

その時を思い出して書いた記事はコチラ。

父も番組が好きなだけでそんなに料理している記憶はないし、母親も共働きだったので休日のときぐらいにしか料理はしない、ぼくの家庭料理の記憶は殆どが祖母がつくる料理、シンプルな焼き魚や葉物のおひたしなど。

実家は昔、ぼくが生まれる前は林業、農業をしているいわゆる百姓で、ぼくの両親はふたりとも公務員、商売をしている親戚はいたが、調理師をしている人は身近にはひとりもおらず、料理の道に進むなんて誰も考えていない、ぼくももちろん家族も誰も思ってもみなかったろうな。

ただ、「家を出て一人暮らしをしたい。」という動機が最初だったのは確かだ。

家族が嫌いだったわけではなく、田舎が嫌いなわけでもなく、故郷以外におおいなる興味があり、外国に行きたいという願望だけは漠然とあったのです。

高校生になって進路を決める時、最初に浮かんだのは芸大に進学することでした。

当時、音楽やデザインに興味がありバンドなども組んで楽器もやっていたのでその分野で技術を身に着けたいと思っていたからだったんですが、この進路は祖母の「芸術でメシは食えん」の一言で考えを改めさせられることになります。

その一言でかなりあっさり「だめかぁ」とあきらめたということは、ぼく自身もそこまで本気で進学など考えていなかったのだろう、前述の「家を出て一人暮らしをしたい」という気持ちが「どこか選ばなければ」という心理に作用して決めさせたものだと今になっては思いますね。

では、ここからどう方向転換して料理なのか、「一人暮らし」という大目的を達成すればなんでもいいわけではなくて、出るからには何かを身につけたいと思っていたので、次の進路はしばらく悩んでいました。

当時、人気のテレビ番組で「料理の鉄人」というのがあって、家族で毎週観ていて、決められた食材を時間内に手際よく仕上げていく料理人たちはかっこよく見えたものです。

特にフレンチのシェフは真っ白のコックコートとコック帽が仕事に誇りをもっている象徴な気がして、フレンチシェフの回は特に注目でした、そして同時にフランスという海外にも興味がでてくることになります。

加えて、これは今も何度も観なおす作品なんですが、ドラマ「王様のレストラン」の存在も料理人、そしてそれを取り巻く環境、つまりレストランというものをぼくのあこがれの舞台として印象づけてくれました。

登場する女性料理長もすこぶるかっこいい、しかもフランス料理のシェフだし、給仕人たちやそれを仕切る給仕長、ギャルソンという言葉もこのドラマで知りました。

テレビの向こうの話だと思っていたのに、進路に迷っていた自分が素直にかっこいいと思えるこの料理人、とくにフレンチのシェフというものが手の届くものに思えてきました。

料理はチャーハンだけ、家を出たいだけのぼくが調理師学校の願書を提出するまで時間はかからなかった、しかも進学先に海外、フランス校というのまである、ここしか選択肢はなかったのです。

家族も応援してくれた、体を悪くしていた父も、厳しい祖母も母も何故かこの選択を喜んでくれて、父などは体調がすぐれないながらも、祖母が続けていた畑の一角にフレンチならハーブを使うだろうからと数種類のハーブをそだててくれたりして。

後付になるけど家族に自分の料理を振る舞う目標も出来たし、そもそも進学、そして一人暮らしは自分のチカラだけではどうしようもないので当時は素直に言葉にはできなかったけど感謝しかないです、ありがとう。

それで、最初の質問には独立してしばらくたってこんな経緯を思い出してからはからは、「かっこいいから」と答えるようになった。

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羽山智基
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