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エマニュエル・トッドから読み解くロシアの運命

『第三次世界大戦はもう始まっている(エマニュエル・トッド著、2022年、文春新書)』の要約

2022年2月24日に始まったウクライナ戦争は、ブロック化した両勢力が支援する構造となり、長期化しそうである。ロシア製武器のメンテナンス機器と原油を、中国やインドにダンピング価格で輸出するロシア。その代わりに半導体等を輸入しているのだろう。一度グローバル化し相互補完が発達した現代世界に二つのブロックが産まれ、それぞれが自己完結化に傾きつつある。とはいえ中印は、西側を怒らせない程度にしか露に肩入れせず、専ら自国の利を最大化するのみ。ブロックは西側とロシア間にしか存在しない。
短期で終わる予測を裏切ったという意味では、この戦争はWW2よりWW1に似ている。歴史は繰り返さないが韻を踏む。空母や戦車不要論が出てきたが、何度も同じようなことを聞いた。この戦争で発達しそうなのはAI搭載のドローン。有効需要の原理が働いているという意味では、正しく戦争ケインズ経済。 
経済といえば、GDPより実態に即したインジケータの提案が興味深い。エンジニアの内製率がそれで、トップのアメリカが、実は中印のエンジニアに深く依存しているのが懸念点。そういえばウクライナ戦争開始後、ロシアのIT技術者が国外脱出するニュースを見た。

家族形態から見える戦争の深層

この戦争を家族形態の視点から論ずるなら、それは共同体家族のロシアによる、ウクライナ主流の核家族地域への同化促進である。

陣営の紐帯としての家族形態

ウクライナの応援団は、核家族という共通項をもつ米英率いる「西側」。絶対核家族の米英は、いわば自由至上主義であり、不平等を容認する。そのため今やデモクラシーというより、“リベラル寡頭政(オリガーキー)”の色が濃くなりつつもある。
対するロシアと陰の最大の支援国中国は、ともに外婚制共同体家族をベースとした、“権威型民主主義(democratism)”を形成しつつある。この中では多数意見を汲み上げた政治権力者が、少数者を圧殺するのも珍しくない。権威者である父親と、その傘の下での子供間の平等を図るシステム。それを乱す自由気儘に振る舞う異分子は、排除される運命にある。

家族形態から見たウクライナの詳細

家族形態からみたウクライナは、核家族地域と共同体家族地域とに分かれる。
キエフのある中部ウクライナこそ、核家族の上にウクライナ語と正教が人口に膾炙する、いわば"ウクライナ中のウクライナ"。
その西のリヴィウ中心のガリツィア地域は、核家族に加えて多くの語彙、さらにカソリックという共通点をポーランドともつ。そのため西部ウクライナは、ほぼポーランド同様にロシアには見える。
残る東部ウクライナはロシア語圏という以上に、共同体家族地域であることが致命的。

共同体家族に変異せざるを得なかったロシアの歴史

原初的な核家族形態は、モンゴル軍に支配された地域では、より軍制に適した父権の強い共同体家族に変異せざるを得なかった。モンゴルによるユーラシア征服は、「人種(肌の色)」「宗教」「言語」の基層にある家族形態にまで影響を及ぼしたという意味で、本当の支配だったと言える。ところでモンゴル支配圏のうち、イスラム教地域は内婚制共同体を形成した。結果的に内婚制だったところは、イスラム教を守り切ることが出来た。それ以外の外婚制地域は、後に共産主義を自発的に採用していった。

ロシアの近未来

もしもこの戦争がきっかけで、1991年のソ連崩壊・分裂の続きが見られるならば、次の断層は内婚制と外婚制かも。チェチェンが内婚制なら、ロシアと同じ屋根の下にいるのは難しい。ロシアに最後まで残るのは、外婚制共同体家族地域ではないだろうか。
ユーラシアを飛び越えアフリカ大陸に目をやると、近い将来、"東アフリカ連邦"が建国されそうである。参加予定地域の家族形態が、ほぼ全てアフリカシステムなのに注目している。


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