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夫婦ゲンカのすえプラクティス(練習)に行ったらバス釣り大会で優勝して25万円の賞品をもらった話(中編)。

 夜が明ける前から、ブラックバスのトーナメントは始まる。自宅を出たのは午前3時だった。家には誰もいなかった。前日の土曜日が七五三だったので、そのままほかの家族は奥さんの実家へ。金曜プラクティス、土曜日七五三、そして日曜トーナメント。「お父さんは七五三を釣りでサンドイッチするんだって〜」と、奥さんが3歳の娘に大声で言っていた。

 天気予報のとおり暖かい。暗いなかでレンタルボートの準備をしていると汗ばむほどだった。だんだん明るくなって、知っているひとの顔がちらほら見えるようになる。あ、タクイトー。関西からやってきた清水盛三さんもいる。このふたりが今回のトーナメントのゲストだ。こういうアマチュアのトーナメントとしては破格の豪華さ。ふたりとも出場して選手と同じくみっちり釣りをするらしい。モリゾーさんの船にはロッドが8本くらい乗っている。ガチやん。

「長靴を履いておこう」と、松村さんが車に戻っていったのを見たのが、私にとって最初の大事なポイントだった気がする。誰よりもはやく松村さんはレインウェアを着込んでいた、しかも上下とも。もちろん雨になることは知っているけれど、気温は20度もあるので着ると暑い。それでもあらかじめ準備できることは済ませておく、そういうタイプだからいつもよく釣るんだなと、妙に納得して私もスニーカーを脱いだ(松村さんはいつもよく釣るタイプのヒト)。

 さて。ぜんぜん釣れない金曜のプラクティスを経て、本番の朝イチに投げようと思って結んだのはシャワーブローズだった。ショーティーじゃないやつ。「浅いけれど硬いモノがゴロゴロしているアシのストレッチを、風が吹いて荒れる前にトップで流す」のをやろうと思ったから。具体的には、このあたり。

 スノヤワラにある、野田奈川の水門から北へかけての一帯だ。アシが生えているだけじゃなくて、沖にゴロゴロと石や瓦礫みたいなものが落ちている。西浦の美浦エリアに似たような有名エリアがあって、アシだけじゃなく水位が落ちても周囲のストラクチャーに魚がつくらしい(というのは前編でも書いた鬼形さんの受け売り)。なんとなくそんなイメージ。

 朝、トップで釣れそうな元気な魚が差してくるのはこういうところかも。いや間違いない。という思い込みだけを頼りに向かうと、ほかに3艇が浮いていた。ほらね! バッティングしたことが嬉しいレアケース。かつては同じストレッチに何艇も並ぶとプレッシャーが掛かるなぁ、いやだなぁと感じることもあった。でもいいこともある。誰かしらに釣られても「ここにはサカナいるんだな」とわかる。食ったのがバンクか沖か、ざっくりポジションもわかる。そして結局、ルアーさえ合ってれば10m横に他人がいても関係なく釣れたりする。これはハードベイトのほうが顕著な気がする。

 3艇が南→北へと流していくので、私は逆に北端からやりはじめることにした。しかし、まったく水面が割れる気配なし。開始30分ほどで北寄りの風が吹きはじめて、ねらっていたストレッチが波立ってしまった。これじゃトップは無理か。モリゾーさんがゲストだからシャワーブローズで釣ったらカッコいいなという邪念があったことは、否めない。

 スノヤワラの北側の真珠棚に風がいい感じに当たりはじめたので、移動してスピナーベイトを巻いてみる(Dゾーン3/4oz。これは邪念ナシ)。沖といっても水深1m強しかない。「真珠棚」は、タイミングさえよければデカい魚が連発すると言われる場所。ただ、魚探にまったくサカナが映らないのが気になった。キャットやレンギョやボラがいてもよさそうなのに。沖じゃないのか、今日は?

 再びバンクに接近する。稲敷大橋の北面はちょうど風裏になっていて、まだなんとかトップで出そうだった。ちなみに、最初のエリア以外は完全にノープランでウロウロしているように見えるかもしれないけれど、いちおう、おおまかな方針はあるのです。「このままヒントがなければ、どこかのタイミングで川(=新利根川)に戻ろう。そして、プラクティスで唯一反応のあったバズベイトを投げ倒そう」という方針が。

 最初からそれをやる手も、なくはなかった。迷った。でもどうせ、たいして確信はないんだから、決めつけずにやったほうがいいだろうと思った。だって、ローライトで暖かくて風のある朝なのだ。これがトーナメントじゃなかったらアゲアゲな釣りしかしてないはずの天気だから。

「ハードベイトしか積んでない? 充分アゲアゲだろ」と言われそうな気がする。でもこのあとに投げたビッグバドは、アゲアゲどころかちょっと凹んでる感じのサカナに効く印象がある。印象というかどこかで読んだ知識。「水が悪いときはバズ、バド、ハネ」と三原直之さんが書いていた。

 稲敷大橋の北面の風裏、つまりミョーギ水道の始まりに、バンクが切り立った護岸になった一角があって、そこでビッグバドを投げはじめた。水は茶色っぽく、ネトっとして、ルアーを引くと泡が長時間残る。悪い水。地形としては流れの当たりそうな一角なんだけど、風のせいで澱んでいるのかもしれない。最初はバズベイトを手に取ったが、水深がわりとあるのでバドにした。岸際で水深1m前後、ボートポジション1.5〜2.0mぐらい。

 風裏とはいえ、オーバーヘッドで投げるとルアーが煽られる。サイドでも投げづらい。ビッグバドを投げる予定じゃなかったので、ちょっと弱めの巻き物ロッド(Basserの30周年記念モデル)に結んでいて、キャストが決まらない。護岸に斜めに投げて、ちょい沖に立つH鋼の脇を通す。

 がちょん。

 護岸の終わりに差し掛かっていたので、よそ見をしていた。アワセは遅かったけれどグリグリ巻いてしっかり乗った。1kgはありそう。いやヨンゴーあるかも。足元まで寄せて、浮上した口元に、ビッグバドが頼りなく掛かっているのが見えた。焦った。ネットは普段から積んでいない。「試合でハンドランディングしたときのバスの脇腹の感触はおっぱいより尊い主義」だから。いったいなにを言っているのか。つまり、そのとき、私は若干テンパっていた。はやく獲らなきゃフックが……。

 落ちた。バスが、手のなかから。いったん左手で抱えたんだけど、寄せるのが早すぎたせいか、ヌルっと暴れて落ちた。手のひらにバドのフックが軽く刺さったまま、思わず二の腕を水中に突っ込んでつかもうとしてしまった。「まじかよ」と、声が出た。もしかすると「うぁぁぁあああ!」とか言っていたかもしれないが記憶がない。そして、後編のつもりが中編になってしまった。次は簡潔に。

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