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ハレの日には コスパよりも満足感を優先しませんか?

昔は「喫茶店では軽食だけでなく飲み物も注文する」「レストランでは一品だけの注文はご法度」と様々な暗黙の了解があったが、今日これらの考え方は徐々に風化しつつある。また意図してこれらを破ることで「コスパの良い使い方」と注目を集める例もあるほどだ。だがそこまでして追求したコスパは、本当に益のあるものなのだろうか。
安さを突き詰めた結果、楽しみが半減してしまうことは往々にして起こり得る。この手の話をすると「古い考え」と思われてしまうかもしれないが、今日は敢えて筆を執る。

そりゃ安くもなるわ……

先日、X(Twitter)で少し苦々しい気持ちになるツイートを目にした。
東京ディズニーシーのイタリアンレストラン「リストランテ・ディ・カナレット」の明細とともに「大人2人と子供2人でこれ(金額) コスパいいと思います」といったもの。
明細を拝見すると、お子さんは小さなゲスト向けのセットメニュー(スープとメイン、デザートがミッキーシェイプのプレートに収められたもの。大人でも惹かれるくらい素敵なお品だ)とドリンクが選ばれていたが、親御さんのお2人はコーラ2杯とパスタ、それからピッツァがそれぞれ1皿のみの内容だった。

「そりゃ安く済むでしょうよ……」が最初の感想だった。
1人1皿で飲み物はソフトドリンクのみ。よほど値の張るスペシャリテを注文しない限り、この内容で高額な明細を目にする方が難しい。もちろんカジュアルなレストランではなんらおかしい内容ではないが、カナレットはパークの中でも高級店に分類される店だ。アラカルトレストランでのオーダーで件の注文は眉をひそめるものであることくらい、誰の目にも明らかだろう。

もちろん、レストランでの注文内容に法的な規制・縛りはない(あったら困る)。
店それぞれでワンオーダー制や注文点数をお願いするケースも近年目にするようになってきたが、それがない限りではどんな注文も来店客の自由だ。
(一応マナー面における話をすると、前菜とメインディッシュの2皿をオーダーすることが望ましい形ではある)
しかしながら、眉をひそめるようなオーダー内容を「コスパの良い使い方」として披露するのは……正直いかがなものだろうか。これではテーブル当たりの単価は落ち、いずれアラカルトメニューが消え、コースのみの店になってしまう未来すら起こり得る。

前菜ってどうしてあるの?

ここで余談をひとつ。
読者の皆様は、前菜やスープが何のためにあるのかお考えになったことはあるだろうか。
手っ取り早くお腹を満たすことが目的の店では特段必要ではない。けれどゆったりと食事を楽しむことが目的であれば、注文しないことがもったいない理由がある。
答えは画像の下に続ける。
(こんなことならカナレットの写真撮っておけば良かったな)

答えは、メインディッシュが仕上がるまでの時間も存分に楽しむためだ。
台所に立ったことのある方ならご賢察頂けるだろう。メインディッシュに相当する料理は注文を受けてすぐに出来上がる代物ではない。パスタは茹でなきゃならないし、ピッツァは生地をのばして石窯やオーブンで焼く手順が必須だ。当然ながらあっという間にできるものではない。

その間ずっと飲み物だけで過ごすのは……正直味気ないものだ。空腹の最中なら尚のこと。
そこで前菜が活躍する。厨房で入念に準備されているから、注文後でもすぐにありつける。またあくまでメインを楽しむための役目であるゆえ、お腹が膨れてしまう心配も無用だ。
そして何より、満喫した後により素敵なメインディッシュを楽しめるため、満足感はより格別なものになる。

S.S.コロンビア・ダイニングルームで提供されているソーセージとチキンのベジタブルスープ。冬場には特に素敵な味わいで大好きな一品だ。

僕はスープを選ぶことが多いけれど、これもありがたい一杯となることが多い。
空腹に沁みる味わいが心地良いことに加え、夏には冷製で涼しく、冬には温製で暖かく食事を始められる魅力がある。パークではS.S.コロンビア・ダイニングルームのソーセージとチキンのベジタブルスープ、パーク外ではザ・ペニンシュラ東京のPeterで提供されている季節折々のスープがお気に入りだ。
(特に後者の魅力については別記事を書けるくらいの思い入れがあるため、いつかの機会に綴りたい)

一皿を加えることで食事がより素敵なものになり得る。確かに予算が増えてしまう点は否めないが、これは正真正銘の「良い買いもの」ではないだろうか?


空腹だけを満たすか 心も満たすか

閑話休題、多くの方にとってパークを訪れることは「ハレの日」つまり日常とは少し違った特別な日だろう。年間パスポートが販売休止中で、高価なワンデーパスポートの購入が必須である今日なら尚更だ。

加えて運よく人気--カナレットは特に人気が高く、なかなか予約が叶わない--のお店で食事を楽しめることとなったのに、コスパを優先して前菜やデザートの注文を控え、リュクスな食事の楽しみが半減してしまうのは……元Twの方には申し訳ないが、正直勿体ないなと思ってしまう。

もちろん狭い予算で安く腹を満たすのであれば、コスパの良い使い方も一興だろう。この点においては元Twのお考えを尊重したい。僕もそうだけれど、パークで使える予算は限られている。値上げが相次ぐ昨今は特に、廉価な楽しみ方が注目されるのも無理はない。

だがFFの皆様をはじめ、パークで楽しいひとときを、レストランではお腹だけでなく心も満たす素敵な一時を所望される皆様へは、本稿による別解をお贈りしたい。

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