気になって調べたこと、その2~MWA賞(アメリカ探偵クラブ作家賞、エドガー賞)の規定~
・はじめに
引用した記事の姉妹編として、世界を代表するもうひとつのミステリの賞であるMWA賞(アメリカ探偵クラブ作家賞、エドガー賞)の選考規定も気になりました。
「MWA」は"Mystery Writers of America"の略です。日本では通例として「アメリカ探偵作家クラブ」と呼ばれています。
ちなみに、余談ですが「PWA」、「アメリカ私立探偵作家クラブ」という団体も存在しています。日本で言うところのハードボイルド小説の作家による団体です。「PWA」は、"Private Eye Writers of America"の略です。"private eye"とは、私立探偵のことを指します。アメリカでは私立探偵という職業は州により公認されたものとなります。
MWA賞を受賞した作品の作家には、エドガー・アラン・ポーの胸像が授与されます。実際に画像を見てみると、なんだか可愛げのある胸像です。
MWA賞にも様々な部門がありますが、まずはじめにそれを見ていきたいと思います。
・MWA賞
MWA賞(エドガー賞)の部門には、主に以下のものがあげられます。
他にも様々な部門があり、例えば複数人で優れた作品を書いた、あるいは優れた作品を出版した会社に与えられる"Ellery Queen Award"やミステリ作家であったメアリ・ヒギンズ・クラークを讃え、その基準を満たした作品に与えられる"Mary Higgins Clark Award"、またミステリの要素があるテレビ番組に与えられるものなどが存在します。全部で十六部門あります。
・MWA賞の規定
では、MWA賞の選考規定や選ばれる作品の基準を見ていきましょう。
以下に条件などを箇条書きしていくと、
・その年に初めてアメリカで出版された作品が対象
・対象期間はその年の一月一日から十二月三十一日まで
・CWAと同じく出版社や作家自身が賞に値すると考えた自分の作品をMWAのサイトから登録しなければならない
・そのとき対象となる出版社はMWA公認の会社である
・作家自身が登録を行う場合はその作家はMWAの会員でなくてもよいが、作品を出版して収入を得ていなければならない
・登録の期限までにその作品により出版社やエージェントから報酬を受け取った作家の作品が対象
・小説の部門は最優秀新人賞を除き他言語から英訳された作品も対象内
・短篇の定義は千語以上~二万二千語以下
・アメリカの市民権を持つ作家のデビュー作は最優秀長篇賞の対象外
・電子書籍のみの出版でも対象の部門と電子書籍は対象外の部門がある
・評論・評伝部門は犯罪実話は対象外(ノンフィクション部門の対象)
・新人賞はデビュー済みの作家の別名義は対象外
・たとえその後に公認された出版社から出版されても、登録時に明らかな自費出版作品は対象外
・翻訳作品はその作家がアメリカの市民権を持っている場合は対象外になる場合もあるが、対象となる条件もある
……多くなりましたが、主なものはこれくらいでしょうか。
こうして見てみると、CWAの基準と違うところも目につきます。なかなか面白いですね。中には賞金付きの部門もあるようです。
・雑記
MWA賞の最優秀長篇部門に初めて日本人でショートリスト(最終選考)まで残ったのは桐野夏生さんでした。その作品は『OUT』ですが、『OUT』はBlack Lizardという犯罪小説の叢書のアニバーサリーエディション(記念出版)に選ばれています。
アニバーサリーエディションは七作あるのですが、その収録作品をあげてみるとダシール・ハメット『マルタの鷹』やレイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』、ジェイムズ・M・ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす』、ルース・レンデル『ロウフィールド館の惨劇』、チェスター・ハイムズ『イマベルへの愛』、ロス・マクドナルド『さむけ』です。
このラインナップの中に収録されるのはすごいというか、さすが日本のミステリの中で一番世界において知名度が高い作品なんだなぁ、と実感できますね。
また、二人目の最優秀長篇部門のショートリストへのノミネートは東野圭吾さんでした。その作品は『容疑者Xの献身』です。
三人目にショートリストにノミネートされたのは湊かなえさんで、それはペーパーバック部門でした。作品は『贖罪』でした。
評論・評伝部門でのノミネートもありました。竹内康浩さんの『マークX だれがハック・フィンの父親を殺したか』でした。
日系アメリカ人の方もペーパーバック部門でショートリスト入りしており、ナオミ・ヒラハラ(平原直美)さんの『ヒロシマ・ボーイ』がそれです。
駆け足になってしまいましたが、今まで知らなかったことも多くあり勉強になりました。
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