【第一回】海外ミステリ情報通信~ジェイムズ・エルロイによる桐野夏生『OUT』評
・はじめに
これから、海外ミステリに関する情報を月に一度程度の頻度で、私の興味がおもむくままに発信していこうと考えています。
第一回の内容としては、以下の記事の内容に合わせて、ジェイムズ・エルロイが桐野夏生さんの『OUT』という作品に寄せた序文について書いていきたいと思います。
・桐野夏生さんの『OUT』とエルロイの評価
桐野夏生さんの『OUT』は、少なくともアメリカではもっとも有名な日本産の犯罪小説といってもよいでしょう。ご存知の方も多いでしょうが、一九九八年には日本推理作家協会賞を受賞し、その年の『このミステリーがすごい!』の国内ランキング一位であり、MWA最優秀長篇賞(エドガー賞長篇部門)の最終候補にも選ばれた、国内外での評価が非常に高く、人気も高い作品です。
『OUT』はアメリカ犯罪小説叢書の老舗、ブラック・リザード叢書のアニバーサリーエディション(記念バージョン)の七冊のうちの一冊として選ばれています。他に選ばれた作品を見てみると、
・ダシール・ハメット『マルタの鷹』
・レイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』
・ロス・マクドナルド『さむけ』
・チェスター・ハイムズ『イマベルへの愛』
・ジェイムズ・M・ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす』
・ルース・レンデル『ロウフィールド館の惨劇』
ですから、錚々たる面子の中に選ばれたことになります。喜ばしいことですね。
この七冊には、今ではアメリカミステリ界の大御所となったジェイムズ・エルロイが、個々の作品に一ページから二ページ程度の、内容の異なる序文を寄せています。
桐野夏生さんの『OUT』についての序文は一ページあるかないか程度ですが、ここからはエルロイが『OUT』に対しどのような評価をしているか見ていきましょう。
まず最初にエルロイはこう言い切ります。
「『OUT』のような小説は今までまったくなかった。……(中略)……なぜなら、著者の精神や魂の中の大きな奥行きが体現された本の手触りがあるからだ」と、最初から『OUT』を絶賛しています。
また、作品について
「桐野夏生は、物語を創造するうえでハードボイルド文学の正典全体や、『悪くなる可能性のあるものは悪くなる』といった系列のフィルム・ノワールの小集合を通してふるいにかけているように思える」と分析しています。
言われてみれば納得できる分析です。
その上で、
「(承前)しかしながら、『OUT』は社会的抵抗の研究書のようには読まない。桐野によるハードボイルドの正典それ自身のまったく新しい子孫のように読む」と述べています。
エルロイにとって『OUT』はハードボイルド小説の正典(エルロイによるとハメットなど)の後継者であり、そう読まれるべきだとしているのです。
最後にエルロイはこう述べます。
「『OUT』は真に創造的な犯罪小説である。彼女の芸術性とこの不朽の物語の中の勇気に対し桐野は称賛に値するように、『OUT』は正に大きな名声に値する」
……ここまで見てみると、エルロイの『OUT』と桐野さんに対する称賛具合がわかりますね。
エルロイは『OUT』を「社会問題に対して鋭い分析を与えた書」としてだけでなく、ハードボイルド小説、あるいは犯罪小説の傑作として認め、絶賛しています。
『OUT』の内容を考えれば、エルロイの小説に関する嗜好と非常にマッチしている作品だったのではないでしょうか。
短い序文でしたので、コンパクトな引用で終わってしまいましたが、最初にリンクを貼った記事のように、ハメット、チャンドラー、ロス・マクドナルドに負けず劣らない評価を下していますね。
それでは、第二回でお会いしましょう。記事については試行錯誤の真っ最中ですので、色々と変化がこれからあると思いますが、何卒よろしくお願いいたします。
※2024/08/24追記
ブラック・リザード叢書の『OUT』のリンクを貼っておきます。
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