#52 my favorite things ②|pp56 Chinese Chair
特に愛着のある椅子
木の椅子が好きで、いくつか使っている。どれも思い入れがあり大好きなのだが、自宅で自分用として使っている、デンマークの木工房ppモブラーの「pp56 チャイニーズチェア」に特に愛着がある。
🇩🇰
10年ほど前にその存在を知り、いつか手に入れたいと思っていたら、3年前ご縁があり、中古で購入し家に迎え入れた。
シンプルでどっしりしたたたずまい、
座りやすい広い座面、
なでなでし続けたくなる肘掛けを支えるツカの曲線、
肘掛けと笠木(背もたれ上部)が曲木で一体になっている丈夫な構造、
そしてチャイニーズチェアのストーリー、
などが特に気に入っている。
about Chinese Chair
チャイニーズチェアはデンマークの家具デザイナー、ハンス・J・ウェグナーがデザインした椅子だ。過去に最低でも7つのプロトタイプが作られていたらしい。チャイニーズチェアが完成してからもその流れは続き、名の知られている「ザ・チェア(1949年)」や「Yチェア(1950年)」ができあがったと聞く。
確認されている7つのプロトタイプのうち、製品化されたのが、フリッツハンセン社のチャイナチェアmodel 4283( 1944年)とmodel 1783(1945年)、ppモブラーのチャイニーズチェアpp66(1976年)とこのpp56(1989年)。現在も販売されているのはmodel4283、pp66、pp56のみ。
ちなみにフリッツハンセンは椅子の名称を「チャイナ」チェアと呼び、ppモブラーでは「チャイニーズ」チェアと呼んでいる。正式名称は品番であり、これらは俗称なのかもしれないが、同じ系統の椅子のはずなのに呼称で差異を設けているところが興味深い。
フリッツハンセンはまあまあ大きな会社(webで調べると従業員は300名ほど)、ppモブラーは世界に名の知られた木工房だがそれよりずいぶん小さい(従業員30名ほど)。双方が自分たちのあり方を意識しあっているのだろうか…。考えすぎか?
話を戻して詳細をもう少し。
pp66はmodel 1783を1976年にppモブラーが復刻させたもの。座面はペーパーコード張り。pp56はそれをさらに発展させたもの。構造がpp66と少し異なる。分かりやすい違いは、座面が革張りになっていること。
model 4283はppモブラーのpp66、pp56と形が大きく異なる。笠木がフィンガージョイントで継いであり、その強度を保つためツカの数が多い。
肘掛けの形状は複雑な曲線をしていてとても美しい。
ただ僕はppの型の方が好きだ。
より単純化された美しい造形で、丈夫なつくりであることが好みなのもあるが、ppモブラーに行く機会があった際、工房や職人さんの様子を拝見し惹かれたこと、チャイニーズチェアに関するウェグナーの逸話(ppのチャイニーズチェアのデザインを気に入っていたという内容)を聞いたと、などで思い入れが深くなった。
detail
所有しているpp56は刻印の種類から1990年代に作られたモノだと思う。
木材はチェリー。仕上げはラッカー塗布。サンディングしてオイル塗装に変えようかと思ったが、とりあえずこのまま使っている。使い込んでいくうちにラッカーが剥がれてきたら、オイル塗布を始めようと思っている。
シートは張り替えをし、ウレタンを増してクッション性を上げた。
毎日食卓で腰をかけることを幸せに感じている。
これまでで3年間使ってきた。まだまだ短い。ここから先、何年一緒にいられるのか。40年くらい? できるだけ長く付き合いたい…。
北欧家具は比較的価格が高めだが、一生心地いい着座体験が続くことを考えたら、悪くない出費だと思う。なので、なるべく早めに満足いく椅子を手に入れることには賛同する。
また、メンテナンスさえちゃんとしておけば、二代、ひょっとすると三代まで世代を超え使われ続けるかもしれない。そうなったら最高だ…。
そういえば、デンマークの人は社会人になったら初任給でちょっといい椅子を買い、ずっと使い続けるという話を聞いたことがある。裏を取っていないので、ただの作り話かもしれないが…。
まあ、デンマークではそのくらいいい家具が作られ、かつサステイナブルな生活が身近ということだろう。
ちなみに、ppモブラーへインターンに来ていたデンマークの学生と話す機会があり、その学生が学校の先生からこうアドバイスをされたそうだ。
「腕を磨きたかったらppモブラーか日本の岐阜県に行きなさい。そのどちらかにいけば最高の技術が学べる」と。
岐阜に限らず、日本の家具職人の方々は素晴らしいと思う。遠く離れたデンマークでそのような話が聞けて、驚き、かつ誇らしく思えた。