祖父とロシアとデジタルの力
私の祖父は1900年生まれで戦時中は軍医として従軍し、終戦後はシベリア抑留を経験しました。
子供の時、私は祖父からシベリアでの武勇伝をよく聞いたものでした。
ただ、不思議と祖父の口からロシアやロシア兵の悪口は聞いたことがありませんでした。
時は流れ、私は海外留学し、スイスやアメリカの大学では学生寮に一時期入りました。そこで同じく留学していた、多くのロシア人や他の旧ソ連の学生と友人になりました。
当時は学生会館や寮でのホームパーティーが主流で金曜夜などは夜通しロシアのポップ音楽をかけながら国際交流するということがお決まりでした。多い時には100人近くのロシア人が集まるこのようなパーティーに私もよく参加していました。
そこでよくかかっていたバラード風の歌が私は大好きで、そしたら親切なロシア人がその曲が入っているカセットテープを私にプレゼントしてくれました。他にもいろいろな歌手のいろいろな曲が入っていましたが私は何か物哀しいその同じ曲ばかり聞いていました。ロシア語はもちろん話せませんでしたが、その曲は口ずさめる程度にまで聴き込みました。
1999年春(5月)に一時帰国した私はその歌を当時98歳9ヶ月の祖父の前で何気なく口ずさんでいると、祖父が「君を。。見ている。君を、見ている、どうやら私に、どうやら。。。あとはなんだべな」と言います。私が驚いていると、祖父は「そのくらいのロシア語はなんとなくわかんだ。。。」と言うではないか。凄いなおじいちゃん!と私はびっくりしたものでした。
その後、私は一時帰国からスイスに戻るのですが、2ヶ月後、祖父は永眠することになります。あのロシア語の歌が私との最後の会話になりました。
そのカセットテープもその後の私の度重なる国際的引っ越し(スイス→フランス→イギリス→フランス→ドイツ)の中、いつか無くなり行方知れずとなりました。
あれから月日は流れ、ここ数年、私はこの歌をもう一度聞きたいと思い、仕事などで出会うロシア人にこの曲を知らないかと口ずさんで見せるのですが、大使館、ロシア企業、ロシア語の大学教員などいろいろな人に聞いても、在東京ロシア人が誰もが知らないと言われ、おそらく無名の歌手の曲だったのだろう。もうこの歌を聴くことはないと思っていました。
今日、たまたま私は海外の文献を読んでいてGoogle Translate を使っていました。最近は文章をマイクで入れられる事に気づきました。ふとあのロシア語の歌を思い出して、私はGoogle Translateのマイクにまだかすかに覚えているあのロシア語の歌を口ずさみました。
すると、ロシア語で意味を成すではないですか!
それも I see you, I see you, It seems you will only give me 〜 と英訳が出てきます。おじいちゃんの訳が当たっている!
私はそのロシア語をYoutubeで検索してみました。
すると
https://www.youtube.com/watch?v=mBcQEhG_NYI
そうです! これは確かに私がよくアメリカのロシア人寮でよく聞いていた歌、私が祖父と最後の会話で口ずさんでいた歌、確かにこの歌でした!
もう22年前に亡くなった祖父とのあの最後の春の日の思い出が鮮烈にこの音楽と共によみがえってきました。
Google 凄い Youtube 凄い そして祖父との最後の思い出を生き返らせてくれてありがとうございます。
PS この曲を歌われていた歌手はTatyana Snezhinaさんという旧ソ連の歌手で1995年に交通事故で既に早逝されているとの事でした。私がちょうどこの曲をよくリピートして聞いていた頃の話なんですね。
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