観察からはじめよう 【デザイン思考の道具箱】
「だれも見たことのない、今までになかったもの」
創り出すにはどうすればよいのだろうか?
そんな問いから始まったであろうデザイン思考も、市民権を得ることばになってきました。
デザイン思考のプロセス
スタンフォード大学のDスクールや、シリコンバレーのデザイン会社、IDEOはそのプロセスを六段階に分けています。
1. EMPATHIZE(共感)
2. DEFINE(問題の定義)
3. IDEATE(アイディアの産出)
4. PROTOTYPE(試作)
5. TEST(実験)
その中でも、特にこの最初の段階の「共感」が「誰も見たことのないものやサービス」を創り出すことに繋がります。
では、そもそもここで言っている「EMPATHIZE」とはどういう意味なのでしょうか?
Empathy=共感?感情移入?
漢字も英単語も語源が面白い。
ボキャブラリービルダーの Word Power Make Easyも、Etymology(語源学)に基づいて作られている大変覚えやすいことばの本です。
さて、Empathyですが、Em-部分と、pathy部分の2つに分けられます。
Empower, Emcourage, Emのつく有名なワードはいくつかあります。
Emの意味は「中へ」という意味。
そして
pathyは、ギリシャ語でpathein。「苦しむ」という意味です。
「相手の中へと入っていって、同じ苦しみを味わう」
ということが「Empathy」です。
なので、「共感」よりもむしろ「なりきり」や「感情移入」のほうが意味合いとしては近いかもしれません。
相手の中へと入っていくには?
では、「Empathy」のために最も大切なことは何でしょうか?
そこで立ち現れるのは、「観察」が徹底的に必要だということ。
「観察」の語源は実は仏教に繋がっています。
智慧によって対象を正しく見ること、それが「観察」だとしています。
この「正しさ」が肝になってくる所です。
このことについては、アメリカの心理学者ウィリアム・ジェイムズが述べている「純粋経験」を元にして考えてみましょう。
純粋経験とセンス・オブ・ワンダー
ウィリアム・ジェイムズが言っている「純粋経験」とは、
「反省を含まず主観・客観が区別される以前の直接経験」
ということです。つまり、ありのままに感じ取られたものそのまま
こそが、私達の純粋な経験であるということなのです。
これは、バイアスによらず、物事をありのままに感じるということではないでしょうか。
同じようなことを環境学者のレイチェル・カーソンも感じていました。
著書「センス・オブ・ワンダー」では下記のように述べています。
「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない
観察は、感じることから始まり、それに徹底的になる営みなのです。
そして生まれる新しい観点
よく「クリエイティビティ(創造性)」の話となると、
「創り出す」(クリエーション)派か、
「見つけ出す」(ディスカバリー)派か、
という二分になりがちです。
ただ、これはどちらかがあって、どちらかがないという話ではなく、
まず、「徹底的な観察から人間の行動の癖を見つけ出す」ことで新たな視点を発見し、
次に「その癖に基づいたものを創り出す」ことで、産出する。
この2つのプロセスこそが、デザイン思考で起こそうとしているイノベーションには必要不可欠なのではないでしょうか。