現実世界とユートピア 【エンツォ・マーリ著 プロジェクトとパッション】
工場による大量生産の時代。
私達がもっていた職業的知識を失わせ、
自立の余地もない画一化された住居をあてがわれ、
商品と広告にあふれかえり家庭生活や社会生活は貶められた。
現実世界の中で、私達には「プロジェクト」が残されている。
そんなことを伝える書が、エンツォ・マーリの『プロジェクトとパッション』です。
プロジェクトとデザイン
プロジェクトは、イタリア語で「progetto」
「design」という英語に先立って使用されていた言葉であることを著者が脚注に記しており、designすることを意味します。
脚注には更にこう付け加えられています。
プロジェクトということばの語源は、pro前へ ject投げる、つまり「投影する」という意味である。
イタリア語の表記はprogettare(動詞)progetto(名詞)となる。
意外なことに、イタリアで「デザイン」「デザイナー」という言葉が一般に使われるようになったのは80年代以降のことだ。
それまでは「プロジェット」「プロジェッティスタ」と呼ばれていた。
3つの地平で広がるプロジェクト
よくできた仕事、プロジェクトを目指すために必要なこと、それは明確な問い(必要)です。
プロジェクトとは、他者や自分が投げかけた欲求から生まれる、明確な問い(必要)に対する答えである。
まず、その「明確な問い」の点からはじまる。
明確な問いから解決策を策定するのだが、その方向は様々だ。
そのときに3つの地平から広がりをもたせていると述べています。
A:生産関係の地平
B:自然科学の地平
C:表現の地平
A:生産関係の地平
生産関係とは、「必要性」を意味しています。
問いかけるならば「なぜそれをするのか」、倫理的な問題に帰着されます。
今日のモノ、みんながほしいと思うものはほとんどすべて「非人間的な条件」から生まれいづるモノです。
私たちはモノをほしいと思うものの、自己実現できる仕事を望んでいるのです。
B:自然科学の地平
自然科学とは、「技術・素材」を意味しています。
すべてのわかっていることはパラダイムによって始まり、パラダイムによって管理されます。
誰でも繰り返すことのできる理論を活用することができますし、さらに新しい実験のたびに説明をすることができます。
こうしてどんどん変化し変動していく自然科学による「技術と素材」は
プロジェクトを洗練させる上で必要不可欠と言えます。
C:表現の地平
表現とは、「かたち」を意味しています。
自分たちが感じたもの、目にしたもの、耳にしたもの、
五感を通じて得たことや、頭の中で思いついたことを、実際に伝えるために、「表現」すなわち芸術は動き出します。
すべてのものを「受肉」させる表現の地平なくしてはプロジェクトは成立しません。
3つの地平が広げるプロジェクト
E:表現、S:自然科学、B:生産関係・必要性
で、それぞれいろいろな方向に広がっていきます。
広がっていくとさらなる問を見つけることになります。
問いを繰り返すプロジェッティスタ
プロジェクトの語源は「投影する」ということでした。
私たちは様々な観点からプロジェクトする、つまり
「問いを投影し続ける」
ことになります。
「自分たちは何者なのか?」
「自分は何がしたいのか?」
「何を目指すべきなのだろうか?」
問いを生み続けることで、私たちのカタチを保ちつづけることができる。
工場生産よりも、動的な恒常性を目指して、
生物学的な動的平衡を目指して、
プロジェクトする「存在」であることが、プロジェッティスタなのです。
ただ続けることを目的に、毎日更新しております。日々の実践、研究をわかりやすくお伝えできるよう努力します。