今こそNPOの間接経費を捉え直す時!:オーストラリア発のキャンペーン「Reframe Overhead」が示す実践知
日本のNPO・公益法人にとってもファンドレイジングをする時の悩みの種である間接経費(オーバーヘッドコスト)。
オーストラリアにおいても、多くの非営利団体が財政的に苦戦しており、主に間接経費への不十分な資金供給が原因となって「非営利団体の栄養失調サイクル(Non-Profit Starvation Cycle)」が生じています。
そんな状況を変えていくためのムーブメント「Reframe Overhead」が、問題意識を持つオーストラリアのファンドレイザー及びファンドレイジング関係の組織が主導して始まりました。
本記事では、このキャンペーンが発行しているNPO向けガイドブック「NFP GUIDE 2024」の内容を中心にまとめています。
ちなみに、オーストラリアでは「NPO」と呼ぶことはほぼ無く、NFP(Not For Profit organization)の略称の方が使われています。もしくは、Charities(チャリティ団体や活動のこと)。
なお、このキャンペーンの活動資金は、理解のある一人のフィランソロピストからの大口寄付で賄われているそうです。(一体どれだけの額を寄付されたのか...)
間接経費(オーバーヘッドコスト)の定義
本キャンペーンが発行したガイドブックNFP Guide 2024において、オーバーヘッドコストの定義は「特定のプロジェクトに直接かつ容易に帰属させることができず、組織によって発生するコスト」「間接経費(オーバーヘッドコスト)には、管理、ファンドレイジング、IT、財務、人事、学習と開発、測定と評価などが含まれる」と記載されています。下記が原文です。
事前リサーチから得られたインサイト
このキャンペーンが始まる前段階として、文献調査や各非営利団体のコミュニケーションの分析、ファンドレイザーおよび寄付者への調査などの包括的なリサーチが行われ、より明確な全体像とオーストラリアのソーシャルセクターに対する具体的なインサイトがレポート「Pay What It Takes Charity Campaign Report」にまとめられました。
また、ガイドブックには下記のサマリーが掲載されていました。寄付者について「初めて寄付をする98%の人々は、間接経費にいくらかかっているかを知らない」「新しい非営利団体に寄付する際、80%の人が間接経費を調べない」「新しい非営利団体に寄付する際、42%が経費負担を調べたことがない」という傾向が見えてきたそうです。
一方で、ファンドレイズをする非営利団体側では、ほとんどが依然として間接経費を最小限に抑える必要があると捉えているそうです。94%のファンドレイザーが団体が間接経費をどのように表現し、またはそのためにファンドレイズされているかに問題があると考えています。
また、リサーチ対象となったファンドレイザーの56%が、間接経費と事業への使途を視覚化するために単純な円グラフを使用していました。この単純なフレームワークは寄付者には好まれず、円グラフで表された場合、3倍の項目が含まれる複雑なものの方が寄付者は肯定的なことが分かったそうです。
間接経費について寄付者にどう話せるか
ガイドブックには、寄付者とのやり取りの際に間接経費に関する伝え方の例が掲載されていました。下記の画像が原文なので、筆者の意訳とあわせてご確認いただけたら幸いです。
リフレームすべき3つのこと
①使用する言葉(Reframe the language we are using)
広範で不明確な言葉やフレーズを使って経費負担を表現するのを止めるよう提唱されています。ガイドでは、特に寄付者から評価されない言葉が下記5つであると書かれています。
一方で、寄付者に好まれる言葉もトップ5で掲載されていました。
また、日本の寄付者は違う感覚を持っているように個人的には思いますが、ガイドでは、オーストラリアの寄付者の大半は非営利団体がインパクトを生み出すためにファンドレイジングが大切であると感じており、ファンドレイジングとそれによるインパクトについて情報を充実させ、頻度高く寄付者に報告していくであるとレポートでは述べられていました。
その参考事例として、オーストラリアの経済的困窮家庭とその子ども達への支援を行うThe Smith Familyのアニュアルレポートでの言葉選びが紹介されていたので、興味のある方は下記リンク先からご覧ください。
②間接経費の視覚的な見せ方(Reframe how we visualise overhead costs)
支出の表現の仕方として円グラフが使われることが多いですが、その表現の仕方として、ガイドブックでは事業に割り当てられていない資金の割合にフォーカスしたり、「事業」と「間接経費」を強調することを止めるように記載されています。
その代わり、対応策として挙げられているのは、間接経費をさらに細分化してそれぞれの細かい費目で表現することです。こうすることによって、組織運営に必要な様々な事柄にきちんとお金が使われていることが可視化されるとガイドブックで言われています。
それに加えて、既存のグラフなどに乗数を付けることもガイドブックでは提案されています。75%の寄付者が寄付をする際に、乗数を使用したビジュアルを選択することを好んだそうです。
その参考事例として、南オーストラリア州でがん患者のサポートや治療研究のサポート等を行うCancer Council SAのアニュアルレポートの下記の部分が紹介されていました。
下部の説明テキストで、「過去1年間において、ファンドレイジング活動に1ドル投資するごとに、リサーチ活動やがんの影響を受けている南オーストラリアの人達の予防および支援プログラムに投資するための4.32ドルを集めることができました」という文言が載っています。
Cancer Council SAのアニュアルレポートについて、興味のある方は下記リンク先からご覧ください。
また、イギリスで誕生した世界最古の動物福祉団体であるRSPCAのオーストラリア・クイーンズランド州支部のアニュアルレポートでの表記の仕方も参考事例に挙げられていました。1ドルあたりどのように使われているかを詳細に記述していて、表現手法として興味深かったです。
③アニュアルレポート(Reframe our annual reports)
3つ目にレフレームすべきこととして、年次報告書(アニュアルレポート)が挙げられていました。ガイドブックでは、年次報告書を義務的な報告書に限定するのを止め、上記のThe Smith FamilyやThe Cancer Council SA、RSPCA Queenslandのように、組織の成果や社会変革に関するインスピレーションを与える「インパクトレポート」に変換していくことが提唱されています。
まとめ
2024年2月、オーストラリアのファンドレイジング協会主催のカンファレンスにて、キャンペーンのリード役でもあるThe Smith FamilyのファンドレイザーLisa Allan氏に話を伺うことができました。このキャンペーンを他国にも広げていけたらと考えているようで、必要であれば、このキャンペーンの画像などを使っても良いと許可はいただきました。日本でもソーシャルセクター発信で、「Reframe Overhead」の意識を広げていきたいですね。
なお、今後もこのムーブメントの動きをウォッチしていきたい方は、下記のキャンペーンサイトの「Add your name」で自身の名前やメールアドレスを入力すると、不定期で進捗情報が届くようになるので、入力してみてください。
ちなみに、本キャンペーンの推進メンバーやその所属組織の取組みは、過去の記事で取り上げているので、ご紹介します。
Lisa Allan氏のThe Smith Familyの取り組みを紹介した記事がこちら。
キャンペーン推進メンバーの一人であるRichenda Vermeulen氏がCEOを務めるntegrity社は、オーストラリアの非営利組織を中心にデジタルマーケティングや寄付キャンペーン等のオンラインファンドレイジングの戦略づくりをサポートしています。なお、Reframe Overheadの事前リサーチをリードしたのは同社。
キャンペーン推進メンバーのMartin Paul氏がリサーチャーとして活動するmore strategicでは、ソーシャルセクター関係の様々なリサーチを行っています。
最後に
記事をお読みいただき、ありがとうございました。
私は、海外のソーシャルセクターに関する有意義な事例や知見を日本のみなさんにシェアしていけるように日々活動しています。
インターネット検索等だけで得られる情報には情報の質と量に課題があり、ファンドレイザーをはじめ海外のソーシャルセクターの人達とつながるためにカンファレンス(約15~25万円の参加費)をはじめとする有料イベントに直接参加したり、なるべく正確かつ信頼性のある情報源から情報を得られるように有料のレポートや書籍を購入しながら知見を集めています。
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記事をお読みいただき、ありがとうございました!もしよろしければ、サポートいただけると日々の活動の励みになります!これからも日本の非営利活動のお役に立てるように、様々な機会に参加して得た海外のソーシャルセクターの情報や知見を発信していきますので、今後ともよろしくお願いいたします!!