プロデューサー大矢が解説する綾戸智恵ニューアルバム「Hana Uta」その2
That's Life
1曲目の「I Dreamed A Dream」と同じ日に収録したのが、フランク・シナトラのレパートリーで有名な「That's Life」でした。メンバーは渡嘉敷祐一(Dr)、鈴木正人(Wb)、宮川純(H-Org)。渡嘉敷さんと綾戸さんは初共演です。渡嘉敷さんのキャリアは凄まじく、レジェンド・ドラマーの一人と言っても差し支えないと思います。でも、いわゆるバック・ミュージシャンですから、よほどの音楽ファンでない限り、知らない方が多いのではないでしょうか。そんな方はとりあえずDiscogsあたりで調べていただくと、その輝かしいキャリアに驚くと思います。1976年からプロとして演奏活動を開始して、現在も引っ張りだこのセッション・ドラマーです。
渡嘉敷さんは僕がマネジメントしている笹路正徳さん(アレンジャー・プロデューサー・キーボード)と同い年で親しいので、今まで何度も演奏をお願いしています。先ごろリリースされた渡嘉敷さん自身の2枚のリーダー・アルバム(Chord Less Night/ ジャズ研部長 渡嘉敷祐一)でも制作をお手伝いさせていただきました(ストリーミングで聞けるのでぜひ聞いて下さい)。今回、満を持したように綾戸さんとのセッションをお願いしたのは親しかったから!ということではなく、かっこいい8ビートが欲しかったからです。もちろん、そういうドラマーは他にもいらっしゃいますが、JAZZも叩けて(知っていて)8ビートも両方叩けるドラマー、しかも綾戸さんと合いそうなドラマーは誰だ!想像して妄想して考えたら渡嘉敷さんしかいないなと。知り合いだし(結局そこか笑)。それでお願いしました。
今回のレコーディングもアレンジ・デモもなどは無く、資料はネットで購入したあり物の譜面とそれを僕が1枚に短く書き直したものだけ。後は綾戸さんがイメージをスタジオで直接ミュージシャンや僕に伝えるという綾戸流。「渡嘉敷さん、頭で長いフィルやって!もっとやって!きゃー、ええなあ、ソロはやっぱりオルガンやな、純ちゃん」などと言いながらセッション。結果出来上がったのが今回の「That's Life」です。歌はもちろん同録。後で歌い直したり、パンチ・インもエディットしたりもしていません。ベテランの渡嘉敷さんでもそうそうは経験しないレコーディングだったとのことでした。オルガン・ソロもいいですね。グイーと引っ張られるというか巻き込まれるというか。嵐のような演奏です。ズンズンと突き進んでいくようなグルーブのベースにもワクワクします。楽曲の内容を表現した見事な演奏で、2曲目にふさわしいと思うんだけど、どうでしょうか。
シナトラのバージョンだと女性コーラスが賑々しく、ブラスだ、ストリングスだととてもゴージャス。でもこちらは少人数でスッキリと。でもちょっとだけニギニギしたかったんで、後日タンバリンを振ってみました。綾戸さんはこの曲についてシナトラはもとより、映画「ジョーカー」での使われ方に強い印象を受けたようです。それはCDのライナーでたっぷり語っています。そのことはレコーディングが終わってライナーの原稿を読むまでは僕も知らなかったんですけどね。
ミュージカル「レ・ミゼラブル」の「I Dreamed a Dream」で幕を開けアリシア・キーズの「If I Ain't Got You」やこの時代にもう一度歌いたかったマービン・ゲイの「What's Going On」、自身のリスタートと重ね合わせた「Let Me Try Again」、スキャットを軽快に聞かせる「Billie's Bounce」、ブルース・ロックに挑戦した「I Love You More Than You'll Ever Know」など、JAZZ、Blues、Gospel、Soul、Pops、バンドあり弾き語りあり、綾戸知恵が65歳でお届けする節目のアルバムです。11月18日(金)にはグローリアチャペル キリスト品川教会にて共演者に宮川純を迎えリリースライブを行うことが決定!チケットはイープラスにて好評発売中。