今、日本人の作るアコギが凄くいい
いま、日本人のギター製作家(ルシアー)の実力、ハンパないです。ハンパないほど上がってます。
*見出し画像は最近一番のインパクト、Mukae Guitars RC Blue-G 20th anniversary custom (2020)
数年前までは一部の大御所さんをのぞけば、かなり停滞感がありました。製作家さんが集まるフェスに行っても”家具は作ってたんですけど、楽器はどんな音が良いのか分からないんです。僕、木工が好きなだけなんです”とか、”いろいろ(な手の入った加工を)てんこ盛りにしたんですけど、これ以上どうすればいいですかね?”とか、音楽を奏でる道具を作ろうとしている人間としては、ビックリな発言がポンポン飛び出して、唖然とさせられると言うか、凄く暗い気持ちになった時期がありました。当時は欧米のルシアーが凄く客光を浴びていたときで、新人が最初から1台100万オーバーという、ちょっと考えられないような金額で取引をしていたりしましたから、それをみて結構多くの製作家が日本にも現れたように感じました。
通常は40~50万くらいからスタートして実績とともに徐々に上がっていくものだと思うのですが、売り手市場と言うか、作る本数が限られていることもあり、なにかの拍子に火がついて、売れ子になってしまうと数年待ちが当たり前のような状況になるので、海外では買い手が投資目的で青田買いのように買っていくようにもなりました。その中には”これ、大丈夫なのかな?”という作品も弾いたことがあったので、経済的なことはさておき、あまりいいことではなかったですね。
NISHIHARA GUITARS Pado OM custom (2020)
ところが!どこに隠れていたのか、2016年あたりから続々と実力を備えた日本人の製作家が現れてきました。彼らは日本にとどまること無く積極的に海外のショーに参加して、自らの作品をプレゼンテーションしたり、海外の製作家と技術交流をしたり。彼らの中には実績ある製作家のもとで修行をしたものも少なくないので、発想がこれまでとは違うのだろうけれど、とにかく意欲が旺盛。そして、良い楽器&自分のサウンドという当たり前な部分を芯にしっかり持っているようで、とてもたくましく、未来に期待感を抱かせました。また、彼らの話を聴いていると、ベテランの大御所さんはとても面倒見がよく、彼らの成長に大いに力になっているなと感じました。言ってみれば”商売敵”になるわけで年上で実績があると言ってもなかなかできることではないと思いますが、業界の発展にとってはとてもステキなことですね。
Sunami Guitars OM cutaway custom (2020)
先日、神保町から渋谷に移転したアコギショップ Blue-Gで日本人ルシアーの作品を何本か試奏させていただきました。前の週にネットでCONNECTING LUTHIERSというルシアーギター試奏企画で演奏されていたルシアーさんのギターも2本ありました。西原悠紀さん製作のNISHIHARA GUITARS Pado OM custom (2020)、角南裕平さんのSunami Guitars OM cutaway custom (2020)です。ネットだと当たり前ですがマイクで拾うことになるので、マイクの個性も合わせてのサウンドになるし、実際ギターを抱えて弾くときはサウンドホールに対峙して弾くわけではないし、楽器の振動も体が感じるので印象が変わることが少なくないです。今回もSunami Guitarsに関しては若干そういうところがあったのかもしれません。それは楽器に問題があるわけではなく、マイクの特性がギターの個性を引き出せていないのだと思います。実際、レコーディングではサウンドがイメージと違えばマイクを交換します。生配信という現場ではそこまでは難しいですね。
Akira Acoustic A3 cutaway custom (2020)
その他にも名匠Greenfield Guitarsを彷彿させるシェイプのAkira Acoustic A3 cutaway custom (新堀彬さん製作2020年)や、越前亮平さんのハカランダモデルを弾かせていただきました。みなさん、それぞれに個性を持った楽器です。数年前と違うのはそのレベルが総じて皆高いこと。ふと思い立って併売してあったアメリカ人人気製作家Kevin Ryan氏のスタンダードモデル(1990年代製)を弾きました。以前であれば、欧米の製作家のギターがサウンドやデザインで1ランクも2ランクも上に感じたものでしたが、もはやレベルは同じだと感じました。横並びになったんだなと。もはや日本人製作家のギターと欧米の製作家のそれは好き嫌い、個性で選べる時代がきたんだなと感じました。これからはマーチンやギブソンなどの老舗メーカー、テイラーやメイトンなどの新興メーカー、Collingsのような小規模メーカー、そして各国の個人製作家、この中から本当に自分のお気に入りの楽器をチョイスできるしあわせな時代になりましたね。とても喜ばしいし、いま20代から40代の日本人製作家がどのように進化&深化していくか想像すると将来がとても楽しみです。
Echizen Guitar (Used)