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松尾大社展のみどころ

京都文化博物館と鳥取市歴史博物館での松尾大社展ですが、天下人の書状だったり神社の神事を全うするための営為だったりと様々ポイントはありますが、注目していただきたいのが、科学分析及び修補です。
私が下っ端としては参加している東京大学史料編纂所の渋谷綾子さんを代表者とする科研「「古文書科学」の応用実践」(基盤A)や編纂所の共同研究の知見をふんだんに盛り込んでいます。料紙を科学的に分析し、データを集積していくという取り組みについては、渋谷綾子・天野真志『古文書の科学』(文学通信)https://amzn.asia/d/4F0ID6g
があります。ぜひ御覧ください。
松尾大社所蔵史料のすごさは、状態の良さにもあります。
神徳かと思わせるほどの状態のよさ。天皇・将軍・天下人と発給者はきら星。しかも未指定。
巻子に成巻した時期が江戸期から戦後直後くらいまで様々ですが、そのなかでも戦後直後と考えられるものは修補の質が悪く(それは時代的にやむを得ないと思いますが)、修理が必要になっています。
1号文書の1巻、2号からの1巻、89号からの1巻と計3巻については、詳細な調査をさせていただくため借用し、東京大学史料編纂所の修補室で巻子から一点毎に戻し調査をしたのち、成巻し直してします。修補室の高島晶彦さんの手によって、とても美しく直されています。
修補をする道具類、科学調査をする道具類も今回は展示させて頂いています。仲間内では渋谷さんコーナー・高島さんコーナーと呼んでいますが、そうした研究成果・修理の成果も御覧いただける展示となっています。

そして修補するためには質の良い道具・具材が必要です。
保存・修復に必要な具材として膠があります。日本では鹿膠が古く使用されてきましたが、近年では入手が困難になっています。また化学的な薬品を使わずに膠を永続的に作成することこそが、文化財の保存・修復には必要不可欠です。
大学の日本画研究室など個別で、少量を作成することや研究がなされていることはありますし、作成して販売されている組織もいらっしゃいますが、頒布する取り組みはまだまだ少ないといわざるを得ません。
そうしたなかで、奈良県五條市を拠点として鹿膠を造る取り組みを一般社団法人 日本文化資産支援機構(http://www.jcpso.org/)が行っています。
表具師の稲﨑昌仁さんにお声がけいただき、私も法人の末端に加わっています。
松尾大社所蔵史料の修補でも、法人で造った膠が使用されています。
法人では安定的かつ永続的に鹿膠を生産する取り組み(というか仕組み)を構築できるように考えています。取り組みを知っていただくため、松尾大社展では鹿膠を展示しています。
紙・墨・膠・筆・刷毛などは、文化財の保存・修復のみならず、日本画などの絵画作品にも必要不可欠な道具・具材です。これらは文化財や作品を支えている大切なものです。
さらに保存・修復を行い、また作品を守り伝えるために行う表装を担う表具師の存在も欠かせません。こうしたヒトやモノを下支えする法人として存続していきたいと願っています。

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