ひとりのあさ
(近藤夏子「Dear you」
https://www.youtube.com/watch?v=zLRgCiwYZE8&feature=youtu.be
を聞いてイメージしたショートストーリーです)
天井。朝だ。
何も無い朝。誰もいない朝。始まってしまった。
なんとなく、まだ感覚がある。腕枕されていたときに感じていた体温が宙をさまよっている気がする。
起き上がる。洗濯機の音がする。開けられたカーテン。
差し込む日差しが、視界を邪魔する。見えなくなる。
母親は、部屋に入り、娘を起こすことなく、カーテンを開けて去ったみたいだ。
一人だけど、一人じゃない。
悲しいもので、腹は減る。きっと何かしらあるだろう。
髪も、顔も、気持ちもそのままでベッドを降りる。段ボールの山を避けて歩く。
荷物にまとわりついた思い出もとりあえずは避ける。後回しだ。
準備されたコーヒーとフルーツとヨーグルト。洗濯機は動き続けていても、母親はいない。
すきあらば一人が攻めてくる。責められている。
彼は甘党で、やたらと砂糖とミルクを入れる人だった。
そのままで飲んだ。黒はきっと強いはずだ。他の色をきっと消してくれる。薄めてくれる。
「起きたの?ゴミ捨てて来た。」
母親が来た。そっか、捨てて来たのか。
「トーストでも食べる?」
また、一人が攻めてきた。彼は朝ご飯を食べない人だった。
「要らない、大丈夫」
自分の大丈夫が凄く不自然に聞こえた。口から耳に辿り着くまでに何があったんだろう。
ブラックコーヒーを飲みきれずに諦める。今、黒は強すぎた。まだ、消せないんだ。
あらためて思い知らされる。
部屋に戻って、ベッドに収まった。出たくなかった。
収まったままの荷物。出したくなった。
苦かった。
ブラックコーヒーの話だ。