コンテチーズ:ジュラの雪とコロナ禍の記憶
ジュラ地方でのコンテチーズ撮影は春先から始まり、厳しい雪の中でジュラを撮るために何度も通い撮影を続けました。元々はフレンチコースを展示しようと始めたのですが、ベテラン熟成士のジャン=シャルルに「コンテは簡単に一度で取りきれるものではない」と言われ、最終的にはコンテチーズを追いかける作品となりました。
この展示がRoonee 247 Fine Artsで2020年5月に決まり、写真も揃い、いよいよプリント作業に入りました。今回はすべての作品をファニーさんにお願いし、エリオグラビュールで仕上げることに決定しました。主題となる写真は、ジャン=シャルルがジュラ山脈を背景に、厳しい冬の雪の上に置いた右手と、自然が生んだチーズを人の手でコンテチーズに仕上げる過程を示す左手が置かれたもの。最初はこれを1枚の写真として仕上げる予定でしたが、ファニーさんが「この二枚は一枚にくっつけず、ディプティック技法を使うべきだ」とアドバイスしてくれました。この技法は、教会の祭壇画などにも使われ、力強さを生み出します。
重要だったのは、左右の写真の間隔。近すぎても遠すぎてもダメで、最も力強く見える距離を見極めなければなりません。作業は順調に進んでいくはずでしたが、そこにコロナの波が襲ってきました。フランスでは「これは戦争だ」というマクロン大統領の演説を受け、厳しい外出禁止令が出されました。ちょうどその時期に私の予定していたファニーさんのアトリエでのテストプリントができなくなってしまいました。
幸い、ファニーさんはアトリエでの作業が許可されており、版を作り試し刷りをすることができました。しかし、微妙な色合いをオンラインで確認するのは難しく、ファニーさんが数パターンをプリントし、宅急便で送ってくれることになりました。しかし、サンプルが届くまでに10日以上かかり、このままでは間に合わないことが判明しました。
それでも、最適な色が決まった後は、写真一枚一枚の仕上がりについて細かく指示を出さなければなりませんでした。外出禁止令を破ることができない中、私たちはアトリエ近くの公園で密会し、細かい指示を出し合いました。その状況はまるで占領下のパリでパルチザンが隠れて行動しているかのようで、冒険的な雰囲気でした。
公園に広げられたサンプルを見ながら、声を潜めて指示を出し合い、最終的にすべての方向性が決まりました。その日、無事に解散し、ファニーさんは本番の刷り作業に入ることができました。彼女は後に、この特別な環境下での刷り作業を一生忘れられない特別な経験だったと話してくれました。
つづく