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240メートルの回廊から:コンテとエリオグラビュールの共鳴
この蔦屋での展示の時に額装を頼んだRoonee 247 Fine Artsから、「うちで作品を展示してみないか?」というお誘いを受けたのは、翌年2019年の2月のことだ。
エリオグラビュールで作品を作る良いチャンスだと思った。せっかくなので、新たに撮影にも行こうと決意した。そんな思いを抱きながら、パリまで来てくれたRooneeの杉守さんとビストロで昼食を取りながら話をした。食いしん坊だと見抜かれた僕に、杉守さんは「食をテーマにしてみては?」とアイデアをくれた。
展示する作品をフランス料理のフルコースにして、見る人が「お腹いっぱいになる」ような展示にしよう。こうして新たなプロジェクトが動き出した。
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フルコースはいいが、さて、何をテーマにしようか?なんと言ってもお酒には強くないので、普段アルコールを飲まない僕にとって、ワインは分からない。でも逆に、チーズならば迷いはなかった。コンテチーズだ。
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コンテチーズとの出会いや撮影の経緯は別の機会に話すとして、一通り撮影した写真を持ってファニーさんのアトリエに向かい、「これを作品にしてほしい」と相談した。すると、ファニーさんは吹き出した。彼女は食事にまったく興味がなく、それを知る人も多いらしい。そんな彼女がガストロノミーをテーマに作品を作ることが可笑しかったのだ。
撮影した写真を見せ、僕がいかに作品にしたいか、なぜコンテチーズなのかを、たっぷり時間をかけて話した。その日は結局、ファニーさんは「イメージが湧かない」という結論に至った。それでも、僕がコンテについて、ジュラで見てきたことを熱く語ったことで、ファニーさんは「そんなに言うなら、それを私に見せなさい」と言ったのだ。つまり、僕が心を打たれたものを彼女も同じように体験すれば、作品に取り掛かれるということだ。そして、ファニーさんとともに再びジュラへ旅立つことになった。
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コンテチーズの製造で使われる銅の釜は、どこかエリオグラビュールとつながるものがあった。そして、最も反響を呼んだコンテチーズが積み上げられた240mの回廊に、ファニーさんが訪れた時、彼女もまた、僕と同じように「何かを残さなければいけない」という気持ちになったようだ。特に、熟成庫の湿気、温度、匂い、光が、彼女の中でスイッチを入れた。
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その後、訪れた熟成庫のオーナーであり、代々チーズ工房の家に生まれ、熟成士でもあるジャン=シャルル・アルノー氏が、パリ近郊のファニーさんのアトリエを訪れることになる。この日は、アトリエで僕の写真を作品に刷るためにコンテを撮影するジャン=シャルル氏、それを撮影する僕、そして写真を作品に仕上げていく摺師のファニーさんが、それぞれの思いやアイデアをぶつけ合った。このキャッチボールは熱く、何とも楽しい時間だった。作品の方向性が決まり、いよいよプリントの準備に入ることになった。しかし、その矢先、コロナ禍が襲った。フランスには厳格なロックダウン(戒厳令)が敷かれてしまったのだ。
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つづく