海外MBAから海外就職はもはや古風
最初に申し上げると、これまでの記事でも示唆している通り、海外MBA卒業後、海外で就職され、日本の資本の入っていない会社で日本にあまり関係がない仕事をされている方を特に尊敬しています。
その方たちを否定することが本趣旨の記事ということでは全くありません。
実際、以下の記事を寄稿した1年半前よりも海外MBA受験生、特に米国校狙いの方の海外就職意欲が増している印象を受けます。
為替とインフレーションのダブルパンチが、欧州等その他の地域と比べて米国においては一層顕著であることが、その理由のうち最たるものと思われます。
日本の一般的な物価・賃金水準に則った形で決められている外資系企業の日本拠点の賃金水準では、高騰した学費と生活費の元が取れず、そういった企業を卒業直後の就職先の最優先候補としては考えにくいという思考が根底にあるのでしょう。
それゆえに海外MBA受験生の間で、海外MBA卒後、海外就職している方への尊敬の眼差しがかなり高まっている印象があります。
その因果には十分納得感はあるものの、一方で、他にもやりようがあり、そちらの方がむしろ時代の先駆けではないかとも思うわけです。
私は大学で西洋史専攻だったこともあり、最先端より古風なものを何かと好む傾向さえあるので、いわゆる従来型の海外就職を否定する趣旨も感情も特段ありませんし、尊敬しています。
他方、それに対しての憧れは特にありません。
どういうことでしょうか。
私自身の事例
昨年、私の日本に対しての仕事は、感染状況を踏まえ完全にオンラインだったこともあり、それなりの数の方にIESE(イエセ)本キャンパスのあるバルセロナ在住だと思われていたようですが、私は、当時も今も東京在住です。
その前提で世界中を飛び回りつつ、ここぞという時は対面で仕事を、それ以外の時はオンラインでどこでも仕事をできる環境を作っています。
個人的に、職業人として、バルセロナ(を含む多くの外国都市)には定住できない理由と定住したくない理由がそれぞれ複数あります。
詳述すると色々面倒なことになりそうなので控えます。
また、海外MBAの学校選定をする上で、バルセロナ自体が特に生活面の質において偏差値上最高級であろうことは、別の土地の他校の方にも殆ど反論されないであろう点と、私自身にとってもそうだった点は念のため申し添えておきます。
但し、ここに書いて差し支えないこととしては、例えバルセロナだとしても拠点に縛られる働き方になるくらいなら、魅力が劣る都市に拠点を構えるとしても実態は拠点に縛られない働き方を優先したいという思いが強いことがあります。
また、私自身が最も優先している点ではないですが、外貨で稼いで物価の安い日本の地方暮らしが生活の豊かさという意味で最強という説もありますね。
私自身、報酬はユーロで支払われています。
私は、昨年、入学審査チームの某プロジェクトで、モザンビーク在住のブラジル人を私にとっての主たるカウンターパートとする、誰もバルセロナやスペインに住んでいないブラジル人だらけのコンサルティングファームと濃密に仕事をしていました。
「お互いにスペインにいないのにスペインに関わる仕事をごりごりやってて、変な感じだね 笑」みたいなことを話しながら、あれこれ議論をしながら一緒に仕事をしていたことをよく覚えています。
さて、そろそろ言いたいことが見えてきたでしょうか。
新型コロナウィルスのおかげで、このような働き方の可能性は一気に増えました。
確かにそれ以前から仕事の性質上それなりにリモートワークをしていましたが、そんな私にとってもやれることの範囲が一気に広がりました。
厳密には、本キャンパスのあるバルセロナに比べて若干の劣後は確かにありますが、ニューヨークとサンパウロ拠点の同僚も含めた入学審査チーム全体を巻き込む某プロジェクトを今率先しているのは東京に拠点のある私ですし、バルセロナにいなくてはできないことはだいぶ減りました。
2ヶ月ほど前には、東京発で、チュニス→バルセロナ→フィレンツェ→イスタンブール→ボルチモアに1週間ずつ滞在し、計5週間飛び回った後、東京に帰ってきました。
バルセロナとボルチモアは概ね対面の仕事で、イスタンブールはごく一部対面の仕事で、それ以外は未消化だった有給休暇を一部使い、稼働を2割程度減らしながら、現地のあれこれも楽しみつつ、通常通りリモートワークしていました。
各地での拠点選定にあたりネット環境には細心の注意を払いつつ、必要な仕事のパフォーマンスは平時から一切落としていませんので、悪しからず。
更に言えば、私にとって重みのある中東の仕事をカバーする上では、時差的な意味での合理性は若干増したくらいです。
海外MBAという起爆剤
ちなみに、以下の記事の通り、IESE MBA Class of 2022の某日本人学生(当時)も、マドリードのデザインファーム向けにストックホルムからリモート勤務で昨夏のインターンシップに参画していました。
こうして見てくると、就労ビザという概念もある程度形骸化した感があります。
されど、多少はリモートワークが進んできているとはいえ、一般的な日系企業では不可能な芸当だというご指摘もあり得るでしょう。
例外はあるでしょうが、確かに、私が認知する範囲でも最先端と言われるそれは、日本国内であればどこで働いても良いというものです。
海外志向のない人であれば、これで十分かもしれませんね。
私も、確かに地方のドーミーインやらを楽しみながらリモートワークということを時々しているので、それはそれで快感として理解できます 笑
しかし、海外志向の強い方にとって、この国境という制約がついている状況はおそらく不十分でしょう。
職種次第ながら、私だったら、せめて時差が2-3時間以内の範囲の国であれば海外からリモート勤務をしても構わないという条件をつけて欲しいと思ってしまいます。
ただ、新型コロナウィルスで鎖国ぶりが更に加速した日本社会にどっぷり浸かる日系企業にこれ以上を期待するのは、望み薄でしょう。
では、どうすればいいか。
万能な解だと言う気はありませんが、やはり海外MBAは起爆剤になる可能性があります。
頭を柔らかく
私の特殊な仕事はさておき、一般的には、海外MBA卒業直後、まずはいわゆる海外就職をしないとそういう仕事にありつくのは難しいんじゃないのか、というご指摘もあるかもしれません。
それに対して思いつく例としては、直近、IESEの最近の日本人卒業生で某外資系戦略コンサルティングファーム(東京オフィス)勤務の方が、4ヶ月程度、本人の希望に即し欧州から平時の業務を継続することを許されている例があります。
また、直近、とても素敵な他校の海外MBA卒業生と話をしました。
彼は、海外MBA卒業後2年間は、日本で2つの会社で働いていましたが、その後、コートジボワール(*)に移住し、そこでご自身で立ち上げた会社を経営し続け、人生の伴侶(現地の方)にも出会いました。
同国が子どもの教育に最適ではないという2人の暫定的な結論を踏まえ、ゆくゆく子どもが生まれたらフィンランド(*)に移住し、そこからコートジボワールでの現業をリモートで継続するつもりのようです。
*本人が特定され不要な迷惑がかかることを避けるべく、これらの国は実際とは異なるものを使っています。
やや本筋ではないながらも、ここからのもう1つの示唆としては、海外MBA卒業直後に一旦日本に戻ってきても海外に拠点を移す道は十分あるということです。
いわゆる王道ルートだけを見ていては厳しい、つまり頭を柔らかくする必要はあるかもしれませんが、色んな制約を切り離して考えれば、やはり十分可能です。
この頭の柔らかさも、色んな人に会って世界が一気に広がる海外MBAで得られ得る果実の1つかもしれません。
必要な柔らかさの度合いは異なりますが、私も上記の働き方はこの仕事をしていて自動的に手に入るものということでは必ずしもなく、色々戦略的に先を読んで動いてきた結果としての側面もそれなりにあります。
海外MBAの世界の外から学べる事例
海外MBAとは無縁な方と理解していますが、私が動向を興味深く注視している女性起業家に「旅する起業女子」杉野遥奈さんという方がいます。
私と彼女で違う点はいくつかあり、そのうち書いて差し支えないものとしては、自分の家を一切持たなくて構わないと考える彼女とは異なり、私は自分の家は東京に欲しいと思っています。
ただ、働き方の大枠としては、彼女の路線は私が志向するものに近いです。
おそらく彼女が実際に手掛けているwebデザイン関連の仕事・会社は、海外MBAを志向する方が最も優先して求めるものでは必ずしもないでしょう。
しかし、彼女は海外も飛び回りながら、自分で立ち上げた会社を概ねオンラインで運営されていますし、働き方としては憧れる方もそれなりにいるのではないでしょうか。
なお、海外MBAの世界では、まだ必ずしもこういった前例が多くないのかもしれません。
しかし、その一因は、今この瞬間が、いわゆるコロナ世代の第一陣が漸く卒業したばかりの黎明期だからです。
前例の有無に左右されるのではなく、起業家精神を以て自ら道を切り拓く気概も必要になってくるかもしれません。
そういう意味では彼女もそういった起業家精神を多角的に体現していると思いますが、方向性はどうあれ海外MBAを志す以上、起業するかはさておき、その精神の一面くらいは見習いたいですね。
蛇足ですが、職業柄、いわゆる王道に優秀とみなされ得るプロフィールには慣れすぎて不感症気味なので、むしろこういった方にこそ海外MBA受験して頂きたいな、と思ったりします 笑
「周囲」と「自分」
ビジネススクール(キャリアサービス)は、ランキングやブランドの観点から、卒業直後の就職先を大変重視しています。
トリプルジャンプ(土地・業界・職種)をしたり、トッププライベートエクイティやトップ戦略コンサルティングファーム等に入社すれば、学校からも周囲の同級生からも称賛されます。
私のような入学審査チームの人間からも、受験生向けイベント等に出て頂きたいアンバサダーとしてもてはやされます。
しかし、これらは「周囲」からどう思われるかということに過ぎず、主語は「自分」ではありません。
勿論、「周囲」と「自分」の理想が美しく合致する場合も多数あるでしょう。
しかし、「周囲」には認められにくくとも「自分」を優先する道もあるのではないでしょうか。
働き方の柔軟性を突き詰めると、この道に行き着く可能性はそれなりにありますし、その一環で、昇進等とのトレードオフにぶち当たることもあるかもしれません。
それを受け入れるべきか・受け入れられるかは個人次第です。
私の場合は、答えはおよそ明確で、昨今有難いことにいい意味で色んな声を戴きますが、たぶん殆ど「周囲」は考慮していません。
実際、最近とある経緯で、某ドイツ人の方にエグゼクティブ・コーチングを受けているのですが、先日、「本当に自分に正直に生きているね」と言われました。
まとめ
いずれにせよ、この記事で強調したかったのは、従来型の海外就職あるいは住んでいる土地に囚われなくとも海外就職に類似する道は模索できるし、世界規模で働き方の柔軟性を追求する手段としても海外MBAは大いに使えるということです。
どんな働き方・分野にせよ、海外MBA卒業後、世界で活躍している日本人の皆さん、引き続き頑張っていきましょう。
個人的には、これまで何らかの接点が直接あった方で、海外MBA卒業後海外就職されている方の動向は、特に私から連絡せずとも、卒業校に関係なく、大変興味深く注視しております。
また、更に先を行った働き方の事例が他にもあれば、是非知りたいですね。