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ショートショート|ちちまるだし

 深夜。鈴虫の音が闇を彩るなか、人工的な白光を放つコンビニへと私は向かった。突然、ビールが飲みたくなったのだ。

 最寄りということもあり、既に幾度となく足を運んでいるので、ビールのならぶ棚を見つけるのには雑作もなかった。二本の缶ビールをもち、レジカウンターへ置いた。バーコードを読みこまれ、袋に入れられてゆくビールを目でなんとなく追っていると、その視界の端で店員のむき出しの乳が揺れていたので、混乱する思考はそのままに、極めて冷静を装いその場でかたまった。

 直視することのできない私は、視線はビールへ注いだままに、視界の端でぼんやりと揺れるそいつを観察した。制服についた中腹のボタンを二三開けており、まるでポテトチップスをパーティ開けするように豪快に開け放たれたそこから、豊満な乳がまるだしとなっていた。大きいということだけはわかったものの、肉感的な詳細はわからない。直視することは、できないからだ。

「四百六十円になります」

 無機質な声が私を焚きつけたので、ビールを注視したままポケットをまさぐってみると、財布がない。焦った私がつい上げてしまった視界の中心には、至って普通の女性店員がこちらを訝るようにのぞいていた。乳なんて、出ていなかった。

「すみません、財布、家に忘れてきちゃって。これ、戻しておいてください」

 くすくすと妖しくわらう店員を尻目に、私は逃げるようにコンビニを後にした。それにしても、いったいなんだったのだろう。女日照りのつづくあまり、とうとう幻覚でも見たのだろうか。

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