1「チャックまに出会った日」 (05)
■チャックま その2「仕事って、なんだろう」
チャックま たちは時空を飛び越え、新しい世界にやってきました。
「さてさて、ここはどんな世界かな?」
ジッパンダがつぶやきながら周りを見渡します。
「木がたくさん生えていて、草も生えていて、緑がいっぱい。空が青くて太陽が照っていて、なんだかとっても気持ちがいいニャー!」
どうやらファスニャンはこの世界が気に入ったようです。
「ゴミがたくさんある世界を念じたのに、あんまりありそうに見えないねぇ…」
チャックま は少し不安そうに言いました。だいたいにおいてチャックま は心配症でしたからね。
「まぁ確かに気持ちがいい世界だし、仕事のことは少し忘れてちょっとのんびりしてもいいんじゃないか?」
ジッパンダもこの世界がまんざらでもない様子です。そこで三人は日当たりが良くてふんわりと草が生えている広場に寝そべって、しばしまどろみました。
みんなもう気づきましたか?そう、チャックま たちが飛んできたのは、みんなが生きているこの世界だったんです。確かにこの世界では、毎日毎日大量にゴミが生まれているので、チャックま たちは仕事のし甲斐がありそうです。でもたまたま山奥のど真ん中に降り立ったために、ゴミが少なかったんですね。
「ふあぁ、さてそろそろ遊びながら少し仕事をしようか」
ジッパンダが言うと、他の二人ものそのそと起き上がりました。
ゴミ拾いだけやっていてもつまらないので、遊びながらゴミ探しするのが三人の習わしだったんです。
「明るいうちに少しゴミ探しをしてみよう」
気持ちのいい日差しの中、三人はしりとりをしながらトコトコ歩き始めました。
「すもう」
「ウェア」
「また〝あ〟なのかニャー!…あ、あ、」
きれいな森の中を通りかかると、ファスニャンが声を上げました。
「あんなところにゴミがあるニャ!」
見ると木の根元に、人間たちがピクニックでもした後のゴミでしょうか、コンビニのレジ袋に入ったお惣菜の空容器が放置されています。ファスニャンはそれを拾うとお腹のチャックの中にしまいました。
「何でこんなに気持ちのいい場所にゴミが落ちているんだろうねぇ…」
チャックま たちは疑問に思いました。三人には気持ちのいい場所をゴミで汚して平気な感覚がわかりませんでした。
「あ、あそこにもあるぞ」
今度はジッパンダが茂った木の間から壊れた電気釜の残骸を引っ張り出してきてお腹にしまいました。
「ボクも見つけたよ」
チャックま は木の枝の間に引っかかっていたボロボロの紙ヒコーキを背伸びして掴むとお腹に入れました。
こうして三人は、最初はただきれいなだけに見えた山の中で、次々とゴミを見つけては片付けていきました。
しばらくそうして歩き回った後、三人は通ってきた場所を振り返りました。徐々に日が傾いてきた時刻、ゴミがなくなった森や草原や川は、最初に見た時以上に夕日に照らされてキラキラと輝いていました。いろいろな世界を見てきた三人でしたが、こんなにきれいな光景を見たのは生まれて初めてでした。
「………」
三人は言葉もなく(おしゃべりなファスニャンですら一言も発さず)その風景を見ていました。そのうちだんだん誇らしい気持ちになってきました。今見ている美しい風景は、自分たちがゴミ拾いをしたお蔭で余計にキラキラ輝いているのだ、と思ったからです。こんな気持ちになったことは、今まで一度もありませんでした。
三人はいつも仕事だからと思ってゴミ拾いをしていました。それに疑問も感じなかったし、嫌だと思ったこともありませんでした。他の世界ではゴミを拾ってきれいに片付いても、美しくなったとは感じません。整理はされても、美しさを感じるような場所はありませんでした。
三人は思いました。この世界をもっときれいにしたい、美しくしたい、と。
「あれ、あそこに何かがいるよ」
ふいにチャックま が川岸の辺りを指さしました。
そこに倒れていたのは、一匹の小さなくまでした。
(06につづく)
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