「くまのぬいぐるみ」(10)
手紙の表書きには『ぬいぐるみを拾ってくれた方へ』と書かれています。チャックまとコグマは、おそるおそる手紙を開きました。
「クマを拾ってくれたやさしい方へ
クマ(ぬいぐるみの名前です)を拾って、こんなにきれいにしてくださってありがとうございます。クマは、今4歳の娘が小さい頃からの一番の友だちなんです。
先日、娘が熱を出してしまって病院に行った帰り道、娘を抱っこして家まで歩く途中で落としたようです。娘は絶対にクマを離さないので、クマを持って寝てしまった娘を抱っこしていたのですが、気づいたときには娘の手から離れてしまったようです。
その後は熱を出していた娘から離れることも出来なかったので探しにも行けず、警察に落とし物の電話をしたりもしましたが見つからず…という状態でした。
熱がある上にクマがいないと娘が泣き続けるもので、私の母に娘の面倒を頼み、ようやく昨日バス停からの道のりを見回りに行くことが出来ました。
最初は地面ばかり見ていたので全く気づかず、2往復してやっと気づきました。落としたものが、まさかこんなに素敵に帰ってくるなんて思ってもいませんでした!
娘は片時もクマを離そうとしないので、クマを洗うことも出来ていませんでした。だからかなり汚かったと思います。それをこんなにきれいにして頂いて…本当にありがとうございます。
改めてお礼がしたいので、もしご不快でなければご連絡ください。お待ちしております。」
最後に電話番号が書いてあって、手紙は終わっていました。
「ものすごく喜んでくれたね!良かったー!!」
コグマは晴れ晴れとした顔で言いました。
「本当だね!良かったね」
チャックまはちょっとだけ涙ぐんでいました。こんなに喜んでもらえるなんて、さすがに思っていませんでしたから。
「ねぇ、連絡する?」コグマが訊きました。
「コグマはどうしたい?」チャックまが言いました。
コグマは両親を人間に殺されています。それからずいぶん経ち、だいぶ心の整理は出来てきましたが、今でもやはり、人間には近づきたくない気持ちが強いんです。チャックまはそれをわかっているので、コグマの気持ちを心配したんですね。
「ボク…」コグマは苦しそうな顔になりました。心の中ではいろいろな気持ちが渦巻いているみたいです。
「ボクは…連絡してみたい」ポソっと言いました。
「人間のことは怖いけど、お手紙の人は優しそうだし、くまさんと繋がっていたい気もするし…」
「そうかそうか、じゃあお家に帰ったら、電話してみようか」
チャックまはニッコリして言いました。
(11につづく)
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