「くまのぬいぐるみ」(11・完)
落としもの箱と手書きのお手紙を大事にしまって、チャックまたちはお散歩を(今度は羽が生えたように軽やかな足取りで)続け、家に帰ってきました。
「お腹へったね!」もう12時を大きく回っていました。何しろお散歩に出るのも遅くなったし、お散歩の前半もノロノロと歩いていましたから、だいぶ時間がかかりました。
でも後半は打って変わって、嬉しい気持ちで走り回るように余分に体力を使ったお散歩でした。ですからお腹も空くわけでした。
ということで、二人はまずお昼を食べることにしました。今日はスパゲティです。お腹の減り具合に任せて、ずいぶん大量につくってしまいましたが、それでも二人はあっという間に食べてしまいました。
「おいしかった!ミートソースって、どうしてこんなに美味しいのかな」
二人は満足して笑いました。久しぶりの、心からの笑顔でした。
お昼ごはんを食べ終わって片付けてから、二人は改めて手紙を読み直しました。チャックまが踏んづけてしまったくまさん、二人で洗ってきれいになったくまさん、ネットに入れられて風に揺れていたくまさん…そんなくまさんとの思い出が、どれももっと輝く、キラキラした思い出になっていく気がしました。
「ねぇ、くまさんのためにやってあげたこと、ぜんぶ喜んでくれたねぇ」
コグマは言いました。
二人がくまさんのためだけにやってあげたことが、もっと大きな喜びに繋がったんです。二人は今まで感じたことがないほど嬉しい気持ちが広がって、気持ちよかったんです。
二人はその場で草の上にバッタリ倒れて、晴れ晴れとした笑顔で青空を見上げました。なんだか自然に笑いがこぼれていきました……
その後、二人は書いてあった番号に電話をしました。お母さんには代わる代わる何度もお礼を言われ、せっちゃん(クマさんの持ち主の女の子)にもかわいい声でお礼を言われて二人は有頂天になってしまいました。
「そのうちぜひ家に遊びに来てくださいね。クマもせつこも待ってますから」そうお母さんに言われて電話を切りました。
その日の夜、コグマは夢を見ました。
コグマが抱えていたクマさんがスルッと腕から抜け出すと、タタタッと走り出しました。
「クマさん、危ないよ!」
構わずクマさんは先へ先へと駆けていきます。その先にはまばゆく光るゲートがあります。クマさんはそのままそのゲートに飛び込みました。
すると、まばゆい光の中からクマさんを抱えた人間の女の子が出てきました。そして「コグマさん、ありがとう」と言ってコグマに腕を回して抱きしめました。
コグマは胸が熱くなってドギマギしました。
「だ、大丈夫です、大丈夫ですから…」コグマはジタバタしました…
「…あれ」
朝になっていました。今日も窓から眩しい朝日が見えています。
「夢かぁ」
夢でしたが、抱きしめてくれた人間の女の子のプニプニしたほっぺたの感触は本物みたいに憶えていました。
「人間にもいろんなのがいるんだな、きっと。ボクが好きになれる人間も、たくさんいるのかもしれない」
コグマは晴れ晴れとした心持ちで、本気でそう思うようになったんです。
〈次のお話しへとつづく…〉
最近SUZURI始めたので、よかったら見てってくださいm(_ _)m
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