「くまのぬいぐるみ」(02)
チャックまが見つけた時には、そのくまのぬいぐるみは既にずぶ濡れでした。濡れたおかげで体の茶色が一層濃く見えて、余計に泥みたいでした。チャックまは踏まないように、ちょっとよけて道の右側を歩いて通りました。
散歩も『やせ我慢』ながら随分歩いてきました。チャックまは意外と頑固なので、やると決めるとちょっとやり過ぎる時があるんです。天気のいい日ならこのまま歩き続けて、ぐるっと一周して家に帰るルートを歩くのですが、今日はどうしようかと迷い始めました。
それにしても憂鬱な雨でした。シトシトと降っていた雨も、気のせいかだんだん大粒になってきたようです。チャックまの傘に当たる雨粒の音も、さっきより大きく響いています。時々手や足に当たる雨粒が、なんだかちょっと痛いくらいです。
突然チャックまが踵を返して、もと来た道を引き返しだしました。我慢して歩き過ぎたことをもう随分前から後悔していたのに、自分でも気づかないふりをしていたんです。それがついに限界に達したんですね。
「ああ、もうやだ。散歩に出るんじゃなかったなぁ!コグマと一緒にハチミツ入りのホットミルクでも飲んで過ごしていたら、もっと楽しかったのに!」
いつもは本当に散歩が大好きなチャックまですが、天気が悪すぎて今日はホトホト嫌気が刺したようです。水たまりの水を飛び散らせ、雨が顔に当たるのも意に介さず、戻る足取りは精一杯の早足になっていました。何しろ数十分の道のりの中で、身体中がもうすっかりびしょ濡れになってしまっていましたから。
テクテク、テクテク…泥に足を取られそうになりながら、チャックまは帰り道を急いでいました。視界は相変わらず見通しが悪く、昼間だと言うのに時々横の車道を通るクルマが点けているヘッドライトが薄ぼんやりと霞の中を通り過ぎていきました。
と、泥にしては妙な感触に足を取られてチャックまは転びそうになりました。
「わぁ…ととと」危うく転ぶのを免れたチャックまが足元をよく見てみると…
「あ、くまのぬいぐるみさん…」
先ほど横を通り抜けたくまのぬいぐるみがこちらを見上げていました。チャックまが踏んづけたのはそのぬいぐるみの右腕だったのです。
チャックまは反射的にぬいぐるみを拾い上げました。チャックまが踏んづけたせいで余計に泥がついてしまいましたが、幸い傷んではいないようでした。
「……」
しばしチャックまはそのぬいぐるみと顔を見合わせました。そして抱っこするとそのまま歩き出しました。
心のなかでは「踏んづけちゃってゴメンね」と誤りながら…
(03に続く)
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