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1「チャックまに出会った日」 (12・完)

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■エピローグ

 三人がチャック界に帰ると、あとにはコグマが一人残されました。

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「…帰るところがあっていいな」
 コグマがさっき『この辺り全部がおうち』と言ったのは強がりでした。
帰る場所がないと答えるのは弱気な気がしたし、そんな風に言えばみんなが帰り辛くなると思ったからです。
でもみんながいなくなると、一人になったコグマは寂しさでいっぱいになってしまいました。考えてみれば前の前の夜まではお父さんとお母さんと一緒に寝ていたし、前の夜はチャックま が膝を貸してくれました。一人で夜を過ごすのは、生まれて初めてだったんです。
「でもこれからは、こうやって一人で夜を過ごさなきゃいけないんだぞ」
コグマは自分に言い聞かせるようにつぶやき、手近な樹の根元にうずくまりました。

「なぁに、寝てしまえばすぐ朝が来るし、朝が来ればまたみんなが来てくれるよ」
今度はもう少し大きな声で言いましたが、その言葉とは裏腹に心細さが顔に現れていました。目をつぶると血に染まったお父さんとお母さんが寝ている姿を思い出してしまって、慌てて起き上がりました。
「おとうさん…おかあさん…」
泣いちゃいけない、一人で生きていくんだから。そう思えば思うほど、涙が出そうになります。考えてみればコグマはまだまだ本当に小さなくまの子で、一人で生きていくなんて難しかったんです。

 これ以上一人でいたら涙が止まらなくなりそうなその時、何にもない空間にさっきのチャックが現れて中から誰かが出てきました。それはチャックま でした。
「どうしたの?忘れ物?」コグマがビックリして言いました。驚いた拍子に涙は引っ込んでしまいました。

「ゴメンゴメン、ちょっと家族に話をしていたら遅くなっちゃって…ボク、ここに住むことにしたんだ」
チャックま は言いました。
「そろそろ独立しなきゃいけなかったから、いいタイミングだと思ってね。よければコグマも一緒に住もうよ」

 チャックま は一心不乱に何かを念じていると思ったら、やにわにお腹のチャックに手を突っ込むと、エイヤッとばかりに巨大なモノを引っ張り出しました。地響きを立てて地面に着地したものをよく見ると、なんとそれは人間の家でした。ログハウスだったんです。

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「これはチャック界の家とは違うなぁ。この世界の家かしら」
チャックま が言うと、コグマがこの世界の人間の家はこんな形だよ、と教えてあげました。納得して家の中に入ると、そこには大きなベッドと小さなベッドが並んでいました。ふかふかの布団が引いてあって、もう寝るばかりになっています。

「寝る前にお風呂に入った方がいいんじゃないかな」
コグマが言いました。その家にはお風呂もちゃんとついていました。
「今日はいろいろとありがとう!」
一緒にお風呂に入って、コグマはチャックま の背中をゴシゴシこすってあげました。コグマに出来る、精一杯のお礼でした。

 二人ともお風呂でポカポカにあったまりました。すっかり気持ちよくなってチャックま はベッドに入りました。
 コグマはそれを見ていましたが「ボクは床で寝るよ」と言いました。今まで地面にじかに寝ていたので、コグマにはベッドは逆に落ち着かなかったんです。

 そこでチャックま は、どこからかふかふかの床敷マットを出してきて引いてあげました。直接板の間に寝るよりもずいぶん暖かそうです。コグマはよろこんでその上に寝転びました。
「草の上みたいにふかふかで気持ちいい!」
横になったコグマの上から、チャックま は薄手の毛布を掛けてあげました。
二人は『おやすみ』を言い合って眠りにつきました。

 横になったまま、コグマはジェットコースターのようだったこの二日間を振り返りました。さっき一人でお父さんとお母さんを思い出した時の辛さは、不思議と今度は感じませんでした。逆に、お父さんとお母さんの〝心〟が近くにいる、そんな気配を感じました。

 お母さんが教えてくれた事に間違いはありません。お父さんとお母さんの心は、きっと今でも見守ってくれている。コグマはうなずきました。
「おとうさん、おかあさん…チャックま たちは優しいよ。だから心配しなくても大丈夫だよ」

 ログハウスの大きな窓からは、今日もまあるいお月さまがよく見えています。その光に包まれて、今日のコグマは安心して夢の世界に落ちていきました。
コグマがチャックま たちと過ごした最初の一日は、こんなふうに終わりました。

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(次のお話しへとつづく…)


あとがき

 これで「チャックま ものがたり」第一話、「チャックまと出会った日」は終わりです。今後は第二話、第三話と書き綴っていく予定ですが、執筆中なのでしばらく間が空くと思います。よろしければぜひ『こんな話が読みたい』とか『こうすればもっと面白くなる』なんていう叱咤激励をコメントしていただけると嬉しいです。

この第一話は足掛け4年くらいかけて熟成(?)してきたお話しで、最初はもっと短いお話しでした。それを『デジタル紙芝居』として、各地でイベント上映させていただいてきたものが基になっています。目標は大きく『日本のムーミン(!)』。文体もそんなイメージを意識しています。

最後にコマーシャルで恐縮ですが、BASEとSUZURIで“チャックま”グッズを販売しています。

今回のお話しを簡単にしたストーリーブックも販売しています。興味があればお立ち寄りくださいね。まだ種類が少ないですが、これから順次増やしていきます。

ではまた次のnoteでお会いしましょう!!!  (tomoart)


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