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「ちきゅうがゴミになっちゃうね」

3連休の中日。
今朝は雪もぱらつき、一段と寒い。
いつもよりも少しゆっくり目に起きて、家族みんなで家の掃除。
家もさっぱりして、一段落した午前10時。

「少し、外に遊びに行こうか?」
連休前から熱を出してしばらく外遊びを禁止していたからと思い、娘に声をかけた。
外で遊べる喜びで大はしゃぎする娘。妻にお昼ご飯の買い物をお願いして、娘と共に外に出る。

「寒いねー」
ぱらぱらと降っていた雪はもうやんで、冬らしいスッキリとした青空が広がる。
(寒いから、30分が限界だなー)
そんなことを思いながら、徒歩5分ほどの小さな公園へ向かう。

***

いつもは近所の小学生達がはしゃぎまわっている公園も、今朝はまだ誰もいない。小さいとはいえ、公園を独り占めにできる娘は滑り台を陣取ったり、ブランコを贅沢に乗り回したりしている。
30分が過ぎ「そろそろ帰ろうかー?」と声をかけた。

「いいよー!」と、ある程度満足したのか、自分の自転車に向かって駆け出す。

そのまま自転車に乗ろうとして、ピタリと止まった。

「どうしたの?」と近づいてみると、何かをジッと見つめている。
「なに見てるの?」ブロックの壁を見たままピクリともしない娘を見て、この時期には珍しく虫でも見つけたのかと聞いてみると、
「これ、わたしがすきなグミのふくろ?」
と落ちていたお菓子の袋をつまみ上げた。

「ああ、そうだね。それゴミだから置いときな」
なんのことはない、自分が大好きなグミと同じ袋を見つけただけのことだった。そんなことよりも、すっかり身体が冷えた僕は、一刻も早く家に帰りたかった。

「これも、おかしのゴミ?」

今度は、別のプラスチックの入れ物をつまみ上げながら娘が聞いてきた。

「そうだね。これもゴミだね」
「ゴミがいっぱいあるねー。なんで?」
「なんでだろうねぇ。誰かが捨てて行っちゃったんじゃない?」
会話を交わしながら、少しずつ嫌な予感がしてきた。

「ゴミ、じてんしゃに入れてもっていこう!」

彼女は、世紀の大発見をしたかのように大きく宣言した。

***

周辺に落ちているゴミはひとつやふたつじゃない。
今朝少し降った雪のせいか、濡れて泥だらけになったお菓子のゴミを、いまここで拾って持って帰って捨てるのは、控えめに言って、相当気が引ける。

「いやー。ゴミを拾うのはいいことだけど、今日は辞めておこうよ」
「えー。なんで?」
「いや、ちゃんとゴミ拾ってくれる人が拾ってくれるよ」

ん? ちゃんとゴミを拾ってくれる人って誰だ? 誰も拾ってないから、ここにこうしてゴミが溜まってるんじゃないのか?

娘に説明している自分の言葉が、ひとつも正直でないことに気がつく。
正直に言えば「汚いし、面倒くさいから放っておきたい」だけなのだ。
全然納得できなさそうに首をかしげる娘との間に、少しだけ気まずい沈黙が流れた。


「このままじゃ、ちきゅうがゴミになっちゃうね」


まっすぐと僕を見つめながら、娘が沈黙を破る。
いったい誰が、4歳の子に「ちきゅうがゴミになっちゃう」なんて表現を教えたのだろう。幼稚園で誰かが言っていたのか、You Tubeで見たのか。

僕の完敗だった。

所詮は「汚くて、面倒くさい」というだけのチッポケな気持ち。
方や、地球規模の問題提議と来たもんだ。

「あー! 面倒くさいよー!」

心の中で大きく叫び、公園にゴミを捨てていったであろう誰だかわからない奴らに思いつく限りの罵詈雑言を思い浮かべ、3秒後に僕は心を決めた。

「やるからには、ちゃんと綺麗に拾い尽くそう」

と。もちろん、理由も倫理もなく「いいから、帰ろう」と無理やり連れて帰ることはできる。別に難しいことじゃない。
だけど、急いでいるならいざしらず。
自分が面倒くさいから、というだけの理由で彼女の無邪気な正論を潰す気持ちにはなれなかった。

***

一度家に帰り、ゴミ袋を取って娘と一緒に再び公園へ向かう。
相変わらず、風は冷たく寒い。
ひんやりと真っ赤に染まった小さな娘の手を、少しでも暖かくしようと僕はぎゅっと手で包み込んだ。

腹をくくったからには、楽しくゴミを拾いたい。
娘にとって、この体験がいい思い出のひとつになればいいと思う。

少し急な下り坂を娘と僕は、笑い合いながら公園へ向かった。



今日も、見に来てくれてありがとうございます。
娘の無邪気な言葉に、いつも翻弄されながら自分と向き合う日々です。
子育てって、時に自分を映し出す鏡のようになるなぁ、なんて思いながら。

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三木智有|家事シェア研究家
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