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挑んでしまう、ということ

「パパ〜、足がブルブルする」

公園にある網トンネルの中。見上げたぼくの身長の倍くらいのところに娘は登っていた。娘の横を小学生くらいの男の子がヒョイヒョイと通り過ぎていく。

トンネルの一番高いところ。そこまではなんとか登ることができたのだけど、足がすくんで降りることができない。

「パパ〜。助けてよ〜」

泣きべそをかきそうになりながら頼んでくる。

「いまいくよー」

しばらく見守っていたのだけど、もう動けなさそうだなと思いぼくも網トンネルの中に入っていく。

「高いの怖いねん。足がブルブルして動かへん」

近くにたどり着くと、安心したようにそうつぶやく。


無事に下まで降ろす。
すると間髪入れずに娘が言った。

「めっちゃ怖いけど、もう一回行こーっと!」

え? 降りたそばからもう?

ちょっと驚くぼくを尻目に、娘はまた編トンネルの中に入っていく。「足がブルブルすんねんよなぁ」と言いながら。

※※※

足がすくむほど怖いのに。そして誰かに強要されたわけでもないのに。なんども繰り返し挑戦するなんて、ぼくはいつからしなくなったんだろう。

仕事のように、やる理由がある場合は怖くても挑戦することは確かにある。

でもそこには、誰かのためだったり、売上のためだったり理由がある。

娘の挑戦は、誰かや何かのためではない。

そこに理由なんかなくたって、純粋な挑戦や好奇心というのはこんなにも強いのだと、魅せられた。

大人が、あれやれ、こうしろ、もう一回やってこい、なんて言わないでも自分のなかに芽生えた挑戦する気持ちは、とても強い。

挑戦するための理由なんかなくたって、挑んでしまうのだ。

そういう純粋な挑戦に水をさすようなことだけはしたくないなと思う。

※※※

さっきと同じ、網トンネルの頂上で娘の足はピタリととまった。
一歩を踏み出そうとするが、身体が思うように動かない。網を握りなおし、足をソロソロと伸ばしては引っ込める。

娘と同い年くらいの男の子が、娘を追い抜いて降りていった。

その姿を娘はジッと見つめている。

男の子がいなくなった。
娘は覚悟を決めたように、その子が降りていった方に向かって足をゆっくりと出す。

伸ばした足は、いままでで一番下の網に届いた。足を踏みしめ、体制を整える。

次は。

下を見据えながら、娘は躊躇なく足を踏み出していった。


では、また明日。

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三木智有|家事シェア研究家
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