【新型コロナに感染しないために】~必要なことと不要なこと 7/21/20版
コロナの感染予防について考え直してみました。全般に必要なことは繰り返し伝えられていますが、不要ないし重要でなくて許容される行動は明確にされておらず、ストレスが増えるばかりになっている気がします。過大な負荷は、結果的に反動で多くを放棄する結果を生んで第2波の増幅を招きます。そこで、本稿では危険度の相対性をできるだけはっきりさせてみます。
根本的に肝に銘ずるべきは、無症状(発症前)の人からの拡散が相当に多いことと、感染者の約10%が平均の数10倍のウイルスを拡散している(スーパーエミッターと呼ぶ)ことで、周囲の元気に活動している誰が多量のウイルスをまき散らしているのか全く分からないという事実です。PCR検査も感度が今一つなので、感染3日後でも20%くらいはマイナスだとされています。このことは、発症自体がインフルエンザなどと比べて緩徐で、治癒も数週間以上時間がかかることがあるのと関連します。だから、基本誰もが感染者でありうる、という前提に立ちましょう。だから、相手が誰であれ、家族以外とマスクなしで対面で話すのはもってのほかです!でも、一定数以上(数はまだ不明)のウイルスが口や目の粘膜に侵入することが感染に必須だから、希釈の起きる戸外で人口密度が低ければは基本的に安全で、室内では換気が重要であることになります。
大前提として、ウイルスの侵入経路は口、鼻、目の粘膜で、皮膚は透過しない。手洗いは、汚染した手で目や鼻を触るから必要なのです。食べた場合の感染力はおそらく大変低い。でも血液などを介して糞便に排泄はされます。でもトイレで舞い上がるという証拠はない。
【とるべき対応策】
Ⅰ 飛沫感染に対して:感染者の呼気への暴露の程度×時間が重要。
1. 対面で話すときは十分間隔を置いて、大声を避け、マスクをきちんと(!)着用する。2m以上ならマスクなしでも大きな飛沫を避けられるが、マスク着用ならもう少し近くてもいいかもしれない。逆に小さな飛沫を考慮すると、エアロゾルが流れてくるので2mは完ぺきではない。前方に放出されたエアロゾルをパーソナルファンなどで頭上に移動して、相手に吸わせないのがベスト。
2. マスク着用なら同一人物と10-20分程度までは危険度が非常に低いと考えられるが、それ以上の時間は要注意。JIS規格のマスクは大きな飛沫の90%以上をブロックするが、それ以下は60%程度。布はデータがないが大きな飛沫も60%程度?やはり呼気の頭上への移動が重要。
3. 補助的にメガネなどで目をガードすることも必要。
4. 歌は大きな飛沫も小さな飛沫も咳と同等に多く、極めて危険度が高い。フェイスシールドは直接飛沫を95%程度遮断するが、エアロゾルにはほとんど無効。その上音がこもったりして困る。一方でアクリルのクリアマスクは装着感も楽で音響もよく、大きめの飛沫には一定の効果を持つ。クリアマスクの裏に霧吹きしたペーパータオルを張ればより安全?エアロゾルはたくさん漏れるので、会話と同じでパーソナルファンでそれを頭上に上げてしまう。その後の換気は部屋に依存するが、設備が不十分なら20分に一度程度、窓を対角線で開放する。カラオケボックスは換気が速いのでかなり安全だが、エアロゾルの移動方向をその風向きに合わせる。通常の練習場は機械換気がかなり不十分なので、窓の開放で対応するか、サーキュレーターなどで常時換気する。前の人の髪や衣類などにかかるウイルスは、危険度が低いはずだが、触れないようにして、帰宅後洗う。このウイルスは石鹸に15分程度さらすと死滅する。帰宅途上で日光消毒もいいかも?
5. 逆に誰とも空気を共有していない自家用車の運転中にマスクをする意味は全くない。同じことは戸外でのジョギングなどにも言えますが、感染者とすれ違って一瞬呼気を吸うかもしれないので、エチケットとして簡易なマスクをする。途中で知人と話しこむのは別です……。繰り返しますが、感染者の呼気への暴露の程度×時間が重要。
Ⅱ 接触感染に対して:ウイルスが自然に消滅することを考慮
1.基本的に不特定多数が触れたものは危険があると考える。ただ、一人が触れている時間が短ければ危険度は低いはず。だから、店頭の個々の商品はリスクが低い。買い物かごは一定のリスクがあるので、持つ前にアルコールで除菌する。
2.プラスチックやステンレスはウイルスが残りやすいが、感染者が触った後、24時間経れば1/10になっているし、日光が当たればもっと激減しているはず。洗剤でのふき取りでもかなりの減少が期待でき、実質的な感染力は殆どない。問題は感染者が触った直後数時間で、ジムなどで長時間特定の人が触れた後は人ごとに毎回消毒する必要がある。カラオケのマイクはできれば個人持ちにして、ほかの人にわたす場合は、その前に消毒する。マイク、スイッチなどをティッシュなどを介して触れるのも一案。
3.トイレなど、リスクの高い場所で何かに触れたら、自分の目や鼻を触らないように気をつけて、落ち着いたら丁寧に手を洗う。もちろん消毒薬が理想的ですが、そこまで完璧にしなくても、石鹸を使った30秒間の正しい(!)手洗いでウイルス数は1/1000くらいに減らせるはず。指の間、爪の間も忘れない。手首は不要かも?トイレはエアロゾルの残存にも注意が必要だから、誰かの直後であれば手や「うちわ」などで空気を払うことも無駄ではない??
4.マスクの表面にウイルスがついていることはありえますが、実際には不織布の凹凸の中に埋もれているウイルスがさらに手に移る確率は低い。大量に飛散させている感染者との対面対話がなければ、実質的に心配する必要はない。つまり、普通に買い物をしたりした後のマスクは、そのまま再利用可能。
Ⅲ マスクの再利用など
1.基本的に裏と表はきちんと守って使う。通常、サージカルマスクはひもの付着部を内側にして、金属部が上になるように装着し、呼吸でパコパコ動くくらい気密であることを確認する。外側はリスクがあるから、外すときは不潔な外を下にして、気になるようならティッシュを敷いたテーブルなどに置く。テーブルにウイルスが付着しているリスクは多少あるが、通常食堂などでも人が変わるごとにふき取りが行われているので問題にならない。
2.特定の人と長時間対面対話をしたマスクは、日光に十分さらしたり、車の中の50度以上の高温にさらせば相当死滅するはずなので、天気のいい日に車のダッシュボードに日中置いておくのが手軽かもしれません。ある大学スタッフも、同じマスクを1週間くらい使いまわして大丈夫のようです。毎日交換の必要は全くありません。
3.衣類の処理はふつうの洗濯で大丈夫。高温乾燥が理想ですが、ふつうに飛んでくる飛沫の数を想定すると、相手がマスクをしていれば、衣類全体についたものをすべて集めて吸入しない限り、伝搬しないはず。感染者の介護で無防備で暴露した場合はこの限りではありませんが、直後に着替えて全身を洗えばほとんど大丈夫でしょう。
【理論的背景】
Ⅰ 飛沫感染に関して
インフルの場合一分当たり約20個のウイルス、しゃべるとその10倍以上のウイルスをまき散らすとされているので、マスクなしで60分しゃべれば10000個以上のウイルスが空中に飛散されていることになります。スパーエミッターであればこの10倍以上になるわけです。このコロナの場合に感染が成立する最小数は特定されていないので、よくわかりませんが、韓国のコールセンターの同じフロアの広い一室で、約半数の人に広がったクラスター事例(右上図)からも、通常はかなりの時間感染者と同じ空間にいないと伝搬しません。このケースでは、エレベーターやロビーで短時間一緒になっただけではほとんど感染していませんし、長時間仕事を共にしていた人も、半数は無事だったわけです。もっと狭い、中国のレストランでのクラスター事例からは、右図のようにエアコンの気流に沿って感染が広がったことがわかります。下半分は感染者からの気流がほとんど流れず、発症していません。下半分は別のエアコンの気流である程度遮断されていたと考えられます。このケースでは無症候の人が、9人の友人と1.5時間くらい食事をしました。
しかし、大声や咳、くしゃみは飛沫の飛散量を劇的に増加させるので、危険は格段に増加します。アメリカの合唱内(ゴスペルを練習していた)でのクラスターのケースでは、お互いにある距離を保った2時間半の練習で、発症3日目の人からメンバーの3/4に伝搬しました。6月というみんなのSocial distanceに対する意識が十分高いはずの時期に、ドイツの教会で150人ほどの参会者のうち、115人に広がったクラスターも、飛沫、その中でも小さめのものがエアロゾルになって部屋中に広がった可能性が考えられます。このあたりの事象は、欧米の建築基準での換気要求が低いこと(古い建物でもともとなかった?)が関係していて、日本のライブハウス、カラオケ喫茶、(歌舞伎町も??)などと呼応すると想像していますので、日本の新しいホールで過度な心配をする必要はありません。
実際にアクリル板に向かって講義をしたり、フェイスシールドを深くかぶって歌ってみたりすると、大きめの飛沫の主成分は約30-45度下に向かって飛んでいるので、これらのクラスターケースは小さな飛沫からなるエアロゾルが漂ったことが主な原因であることになります(「空気感染」とも呼べる)。インフルエンザなどと比較してエアロゾルによる感染が起きやすい背景は、空気中でのウイルスの安定性の高さで、それは下の図の一番左にデータがあります。エアロゾルによる感染は、Social distanceやアクリル板などで完璧に防御できないことになり、むしろ気流の把握と頻回な換気が重要であることになります。
飛沫が肺から口にかけてどこで発生するかは断定的には言えませんが、肺は細い気管支などを空気が通るときに小さな飛沫、声帯が振動するときに中程度の飛沫、口の舌や軟口蓋、歯根部、口唇などで大きな飛沫ができると考えてよいでしょう。インフルだと、鼻咽腔への感染ですから、中等~小さめくらいが主なのですが、コロナは唾液にも含まれて、且つ肺炎も早期に発症することから、かなり広い範囲のサイズの飛沫に分布すると想像されますが、いまだデータはありません。でも、そう考えると、接待の際の密接での巨大飛沫、教会などでのエアロゾルの寄与を同時に説明できることになります。
Ⅱ 接触感染に関して
いわゆる感染症専門家の中で、ウイルス感染と細菌感染を混同して過剰な要求をする方がいますが、ウイルスは細菌と違ってヒトの細胞内でなければ増えず、体外では一定時間で死んでいきます。コロナは比較的丈夫で、プラスチック上では3日程度残ります。でも、指数関数的に減って行って、3日後には約1/1000になるので、8時間程度で半分、1日で1/10くらいになることになります(下図赤丸)。もし最初の付着量が比較的少なければ数時間程度(?)が問題かもしれません。和歌山のトイレの継承使用による院内感染事例でも、一人にしか伝搬していません。つまり、感染の成立には10000個とかのウイルスが必要で、おそらく軽く触れただけでは100%は皮膚に移動しないということでしょう。また、日光の紫外線でも死は加速するので、環境で生き残ってすぐに自律的に増殖できる細菌と違って、道路や日の当たる壁を、時間を経た後に消毒する意味はないし、日が当たらなくても、週末を超えた会社の椅子やドアノブを消毒する必要はほとんどないわけです。時々そういった映像がTVに流れるのは、ペストなどとの勘違いで、滑稽ですらあります。太陽光の影響は、最近の権威ある雑誌の論文によると、空中に浮遊しているインフルエンザウイルスの半減期を約30分から3分以下に短縮するそうです。物の表面ならもっと加速することが想定されるので、1時間で100万分の1以下になる計算です。このデータのコロナへ演繹は、UVの作用機構が遺伝情報の破壊(塩基の変形)であることを考えると、たとえ粒子としては比較的安定とはいえ、同様の効果が予測されます。
一方で、次亜塩素酸の効果があまりないのは、これがタンパク質の変性、つまり酵素などの破壊しかしないからです。つまり、コロナウイルスは、ダメージを回避した遺伝情報が細胞内に入りさえすれば感染が成立して、ウイルス粒子の酵素を必要としないのです。これは、(親ウイルスからもらった)粒子内の酵素などが必要なインフルエンザやノロとは対照的で、それらでは一定の効果が証明されています。このように、ウイルス固有の特性をきちんと理解して、必要十分な対応をしていくことが重要なのです。
こういった接触感染の危険はあくまで感染者が触れた場合の話なので、家族で一緒に行動していて感染リスクがほとんどない場合には、家庭のドアノブの消毒などは全く不要です。また、上記のように翌日の朝消毒する意義はあまりなく、もし消毒するなら日内にこまめにふき取りをすることが必要で、むしろ個々人が手洗いなどで防御すればいいのです。一瞬の接触で100%のウイルスが二段階で移行することはありえないことを思い出しましょう。
ほかにも、家庭内の高齢の方がデイサービスに行っている、子供が学校に行っている、誰かが夜の街に行っているなどの場合は注意が必要なので、その人が素手で(!)触れた場所はすぐに消毒して回るべきかもしれません。でも、そんなことは大変なので、リスクのある方が気を遣って、ティッシュでノブを覆って操作するなどが合理的な対応かと思います。最初からティッシュの表裏を決めておいて、どちらをノブに当てるかを決めておけば再利用も可能です。もともと、ティッシュは親水的なので、疎水的なウイルスは手やプラスチック表面からは移ってきにくいはずです。実際、段ボールへの移行はプラスチック表面より少ないようで、プラスチック表面へは疎水性相互作用で比較的しっかりついていると想像されます。プラスチックメガネについた皮脂が取りにくく、ガラスだと取りやすいことを思い出してください。
【まとめと演奏活動再開に向けて】
全体に、すべての人が感染者である可能性を意識して、自らが広げない、もらわないという方針で、特に口、鼻、目という粘膜面への付着について細心の注意を払うことで、かなりの防御ができるはずです。県を超えない、家にこもるというのは、不用意に普段の生活圏の外でウイルスを広げないための象徴的な方便にすぎません。真に遮断すべきは感染経路であって、移動そのものではないのです。逆に移動規制が緩んでも、上記の一連の心がけは必要です。大きめの飛沫についてのポイントは、声の大きさ(笑い?)×対話時間/対面の距離で、2mという数字に惑わされたり、安心したりするのは正しくありません。長時間の会話の途中で大声で笑う、マスクがずれてウイルスをもらう、広げるなどの可能性があることを忘れないようにしましょう。また、エアロゾルはかなりマスクを素通りして自分の前方に広がっており、話し続ける間に相手に向かって押し出されていることを意識しましょう。
オーケストラの場合の正解はまだ誰も知りません。でも、多少深呼吸状態になっているとはいえ、しゃべっていない、歌っていない状態で大量のウイルスを拡散している可能性は低いです。管楽器の場合も、多少のエアロゾルはベルから出ているにしても、ほぼ湿度100%の管内では、大部分のウイルスは水滴にトラップされて床に落ちている可能性が高く、あまり神経質になる必要はないと思われます。しかし、エアロゾル感染防御のためにエアコンの空気の流路のチェック、舞台から客席への気流の排除、などは必要だと思います。客席相互の気流もチェックして、不十分な場合には補助システムや自然換気を考慮しましょう。
合唱の場合は飛沫の拡散が格段に多いので、飛沫をできるだけトラップするために、アクリルのクリアマスクを装着して、それらの内側に濡れたペーパータオルを張るのがよいでしょう。エアロゾルはパーソナルファンで連続的に頭上に移動して、隣の人への拡散を防ぎましょう。頭上にためておける量や時間は部屋に依存するのでわかりませんが、設置された機械換気をフル活用して、不十分ならサーキュレーターなどの活用や自然換気の実施が必要です。そうすれば、横は1mほどの間隔でもよいと思われます。
全体として、ウイルス排出量予測とエアロゾルの流れの予測が重要です。
藤田医科大学医学部生物学 吉田友昭
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?