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戦略とは何か ~エディンバラ授業ノート#2~
こんにちは、サイトウです。
今回の授業ノートは「戦略とは何か」というテーマについてまとめようと思います。
ここで言う戦略は基本的に経営戦略のことになります。
経営学を学んだ方なら一度は聞いたことがある話ではないかなと思いますが、専門外の人にも楽しんでもらえるように書いてみるので、ぜひ読んでいってください。
「戦略」とは
今回のメイントピックは「戦略」ということですが、一般的に「戦略」とはどういう意味なのでしょうか。響きがかっこいいですよね、戦略って。
多くの大学で経営戦略のゼミって人気なのではないでしょうか。だってかっこいいですもんね。「専門は何ですか?」「経営戦略です」ってかっこいいですもんね。合コンとかでもモテモテ間違いなし。
そんなイケメンの戦略くんですが、一般的には
「目的達成のために最善の道を計画し実行すること」を指しています。
もっと細かく分けると、下記の形に分解できるかなと思います。
目的設定:何を達成したいのかを明確にする
環境分析:周囲の状況がどうなっているかを知る
内部資源の評価:いまできることは何か、何を持っているかを知る
競争優位性の構築:ほかの人には無い自分の持ち味を作る
計画実行:目的達成のための計画を実際に行動に移す
なんか漢字が多くて読みづらいなという方のために、わかりやすい例を用意しました。
具体例:トイレにおける戦略
あるところにO君がいたとします。
O君はトイレに行きたくなりました。
ここでO君は「トイレに行く」という目的を設定しました。
そしてそのためにどのトイレが最も近いか、最も居心地が良いか、ほかにトイレに行きたそうにしている奴はいないか、肛門括約筋の活動限界時間はどれくらいかといった諸状況を分析します。
状況分析を終えたO君、次に自分にどういうことができるかを整理しました。トイレまで歩いていく選択肢のほかに、走っていくという選択肢もありそうです。ちょっぴり人見知りですがコンビニでトイレ交渉をできれば最短トイレを変えるということもできそうです。
ここでO君、先ほどの状況分析でほかに二人トイレに行きたそうなやつがいることに気が付いていました。
「ネゴシエーター」として有名なT君、「肛門括約筋の鬼」という名をほしいままにしているK君の二人です。
クラスでも一番の俊足を誇るO君、T君にもK君にもスピードでは負けません。俊足がO君の強みということになります。
O君はその俊足を活かしてスピード勝負を仕掛けるという計画を立てました。
あとは実行するだけです。O君はトイレに向かって走り出しました。
上記の例で挙げた、O君のトイレに行きたいという課題意識から実際の行動までの一連の流れを戦略と呼びます。
教授に聞いたら「Strategy is the sequence of actions to achive your goal.」って言ってました。つまり「戦略とは目的達成のための一連の行動」ということです。
戦略を作るうえで気を付けるべきこと
戦略はトレードオフ
ここまで戦略とは何かについてお話ししましたが、もう一つ重要なことがあります。
戦略において重要なこと、それは「何をするか&何をしないか」ということ。
人間は不思議なもので、何かをしようとするときは「何をするか」に焦点を当てがちです。しかし同時に大切なことは「何をしないか」ということ。
O君の例で考えてみましょう。
スピード勝負を仕掛けると決めたO君でしたが、自分の位置から最も近いコンビニでの交渉にも手を出したとします。
交渉がスムーズに運びコンビニのトイレを使用できればいいですが、人見知りを発動してしまったらどうでしょうか。先客がいて待たなければならないことになったらどうでしょうか。コンビニのエアコンが思ったよりひんやりしていて大腸の運動が加速したらどうでしょうか。
コンビニでの交渉に手を出さずにまっすぐ自宅に帰っていたら目的達成できたかもしれなかったものが、別の要因が入ってきてしまったことによってうまくいくはずの計画が崩れてしまう可能性もあるのです。
ここで言いたいのはスピード勝負一点張りで行くべきだということではないのです。ここで言いたいのは、コンビニ交渉という行動を増やすことによって、スピード勝負という戦略の密度が下がってしまう、つまりトレードオフが発生するということです。
O君の資源は限られています。肛門括約筋の限界時間も限られています。
その状況ではトレードオフが必ず発生してしまうので、戦略の密度を保つために何をやらないかという観点も重要だということを覚えておきましょう。
一連の行動は連動していなければならない
少しT君について考えてみましょう。
交渉力に自身のあるT君はコンビニでのトイレ使用権の交渉をする計画を実行に移しました。
しかし単純に近くのコンビニに寄ってトイレを借りようという計画がそんなに簡単にいくでしょうか。そこは念入りなT君、下記の項目について事前に把握していました。
どこにコンビニがあるのかという位置情報
コンビニのトイレの稼働状況(コロナのためトイレの使用停止中になっていないか、そもそもトイレがあるコンビニなのか等)
コンビニの混雑状況(時間帯によってコンビニの混雑状況が異なる)
つまり、T君はコンビニに行って交渉するという行動のほかに、
・位置情報を把握する
・稼働状況の調査
・混雑状況の分析
という3つの行動を行っていたのです。
「トイレに行く」という目的を掲げ、さらにその手段として「コンビニのトイレを借りる」という手段を選択したT君にとって、この3つの行動はすべて連動しているわけです。
一方で、肛門括約筋の鬼であるK君は、自分の持ち味である肛門括約筋を活かし、持久戦という手段を選ぶのですが、それまでの間に俊足のO君に憧れて毎日50メートル走の練習ばかりしていました。
持久戦を手段として選択するのであれば、スピード勝負に必要な俊足を身に着けるという行動はイマイチ連動していないように思いますね。
オペレーションの最適化は戦略ではない
トイレに行きたいと思ったときにとることができる戦略として3つのパターンを上げてみましたが、こんなことを考えた読者の方はいないでしょうか。
「トイレに行きたいと思ったらまずベルトをギリギリまで緩めてズボンのチャックを事前に下ろしておく。」
確かに大切ですよね。1分1秒を争うギリギリの戦いで、いざトイレに到着してズボンを下すことに手間取っている間に事切れてしまったとなっては目的は達成できませんから。
しかし、マイケル・ポーターに言わせたらこれは戦略とは言えないらしいです。
マイケル・ポーターはこういっています。
「オペレーションの最適化は戦略において必要ではあるが十分ではない。戦略の肝は、真似ることが難しい特有で価値のあるポジションをとることだ」と。
ズボンを容易に下ろすことができる事前準備をすることは確かに目標達成のために重要な要素になります。しかしこれはあくまでオペレーションを最適化しているだけで、決して自身独自の持ち味や価値を提供できているわけではないのです。なぜならズボンを下しやすくするというオペレーションは誰もが容易にマネすることができるからです。
模倣が容易な持ち味を肝とした戦略は戦略ではないということです。
その点、O君もT君もK君も、それぞれが一朝一夕には身につかない能力をベースに戦略を作成しているので、3人とも戦略思考ができていると言えそうです。
目的の設定を間違えない
もう一つ大きな落とし穴として、目的の設定を間違えてしまうことが多々あります。
それはバイアスによるものであったり、慣行によるものであったり様々ですが、目的設定を誤ってしまうとあっという間に別の原理で動くプレイヤーによって市場を席巻されてしまうということがよくあります。
O君、T君、K君はトイレに行きたいと思い、「トイレに行く」という目的を設定したわけですが、果たしてそれで本当に良かったでしょうか?
3人がやりたかったことは本当に「トイレに行く」ということだったのでしょうか。
違いますよね。3人が本当にやりたかったことは「用を足す」ということです。
ここまで「トイレに行く」という目的を設定してしまったがために、3人はトイレというものによって行動の制約を課せられてしまっていたのです。
このことに気が付いたH君にはより多くの選択肢が見えてきました。
おむつを買う
人目につかないところに行く
などなど…
どうでしょうか。目的設定を見直すと世界が広がったように感じませんか。
別の例として手紙のことを考えてみましょう。
昔の人は手紙でやり取りをしていました。そして郵便局は物理的な紙を届けるためのネットワークを拡大していました。
しかし人々がやりたかったことは手紙という物理的なものを届けることだったのでしょうか?
そうではないのです。人々が本当にやりたかったことは遠くの人とコミュニケーションをとるということだったのです。
遠くの人とコミュニケーションをとるという目的達成のためには、手紙ではなく電話やメール、ソーシャルメディアなど、別の手段が台頭した際に一気にそのシェアを奪われてしまうことになるのです。
これまではトイレ争奪戦を3人で繰り広げていたO君、T君、K君でしたが、H君の登場により3人がこれまで培ってきたものはほぼ価値0になってしまう、といったことが起こりうるわけです。
もちろんそのような業界変革が起こった際に、これまでの自分の強みを活かしてうまく路線変更できればいいですが、それが容易ではないということもまた事実です。O君は陸上選手に、T君は外交官になれるかもしれませんが、K君はただただ肛門括約筋が強い奴でしかないのです。
まとめ
今回は戦略とは何かについて授業内容をもとに整理してみました。
戦略とは目的達成のための一連の行動であること。
戦略にはトレードオフが付いて回ること。
戦略における一連の行動は連動していなければうまく機能しないこと。
戦略においては真似することが難しい要素が必要であること。
目的設定を誤ってしまうと、変換局面においてうまく対応できなくなること。
経営戦略と聞くと何か恐ろしいもののように感じていた方も、今回の記事で身近に感じられたらいいのかなと思います。