人新世の資本論 まとめ 1
ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンは地質学的に見て、地球は新たな年代に突入したと言い、それを「人新世(Anthropocene)」と名付けた。「人間たちの活動の痕跡」が、「地球の表面を覆いつくした年代」という意味です。
実際、ビル、工場、道路、農地、ダムなどが地表を埋めつくし、「海洋」には「マイクロ・プラスチック」が大量に浮遊している。
人工物が地球を大きく変えているのだ。
とりわけそのなかでも、人類の活動によって飛躍的に増大しているのが、「大気中」の「二酸化炭素」である。
産業革命以降、人間は「石炭や石油などの化石燃料」を大量に使用し、膨大な「二酸化炭素」を排出するようになった。
産業革命以前には、280ppmであった大気中の二酸化炭素濃度が、ついに2016年には、南極でも400ppmを超えてしまった。
これは400万年ぶりのことだという。
そして、その値は、今この瞬間も増え続けている。
・資本主義1.0(第1ステージ)
資本が労働より重視された時代。18世紀に「産業革命(1760年代〜1830年代)」や「囲い込み運動」を経て、資本主義が成立した当初は、資本家の力が強く、労働者は極めて劣悪な労働環境を強いられた。
1760年代〜1830年代 産業革命
1776年 「資本主義の父」とも称される アダム・スミスの「国富論」「自由競争」「神の見えざる手」
1789年 フランス革命
「人新世」の環境危機によって明らかになりつつあるのは、皮肉なことに、まさに「経済成長」が、人類の繁栄の基盤を切り崩しつつあるという事実である。
この「気候変動」の原因の鍵を握るのが、「資本主義」にほかならない。なぜなら「二酸化炭素の排出量」が大きく増え始めたのは、「産業革命以降」、つまり「資本主義」が本格的に始動して以来のことだからだ。
原油の採算ライン
1バレル当たりの採算ラインは各国によって違います。
サウジアラビア 7ドル(贅沢な国家予算を維持するためには90ドル必要)
シェールオイル 50ドル
・石油に関わる企業の経営がきわめて難しいのは明らかです。それによって大損失を出したのが丸紅です。
WTI原油先物価格(20/11/10)40.12ドル
パリ協定
2016年に発効したパリ協定が目指しているのは、2100年までの気温上昇を産業革命以前と比較して、2°C未満(可能であれば、1.5°C未満)に抑え込むことである。
その2°C目標でさえ非常に危険であると多くの科学者たちが警鐘を鳴らしている。
ノードハウスのモデルでは、3.5°Cも上昇してしまうのである。もちろん、3.5°Cもの気温上昇が起きれば、アフリカやアジアの途上国を中心に壊滅的な被害が及ぶことになる。
実際は各国の政府は経済成長を最優先にして問題を先送りしている。
・ジョージ・W・ブッシュ大統領(子)(共和党)は「京都議定書」からの離脱。
・トランプ大統領(共和党)は「パリ協定」から離脱。
共和党に強い影響力を持つのがアメリカのエネルギー業界だからです。
民主党 ジョー・バイデンが大統領選に勝てば「パリ協定」に復活する。
2020年11月8日ジョー・バイデンがアメリカ大統領選で過半数の投票を獲得し、勝利宣言をする。
世界の原油の3大プレイヤー「アメリカ」「サウジアラビア」「ロシア」
2020年1月、BIS(国際決済銀行)は「グリーンスワン報告書」を公表
地球温暖化阻止のため二酸化炭素(CO2)排出に強い制限が加わると、使用できない化石燃料が生まれ、最大18兆ドル(約1,980兆円)の「座礁資産」が発生するとした。
サウジ「脱・石油」に黄信号 巨大事業に投資家呼べず
コロナ下で原油安 米新政権も逆風
(日経 20/11/13)
【ドバイ=岐部秀光】新型コロナウイルスの拡大と原油安の長期化で、サウジアラビアが進める経済改革への逆風が強まっている。米大統領選で当選を確実にしたバイデン前副大統領は、サウジへの露骨な肩入れをしてきたトランプ大統領と対照的に、サウジの人権状況に厳しい目を向けている。サウジ離れした投資家の回帰には時間がかかり、採算性が疑問視される巨大事業への見直し圧力が増す。
主要20カ国・地域(G20)の議長国を務めるサウジにとって2020年は、新しいサウジを世界に発信する特別な年となるはずだった。しかし、11月の首脳会議を含め、ほとんどの会議がオンラインとなった。
経済はコロナ感染防止のためのロックダウン(都市封鎖)と原油安のダブルパンチを受ける。原油収入が減って財政赤字が拡大した政府は今年、日本の消費税に相当する付加価値税(VAT)を5%から一気に15%に引き上げた。消費への打撃は深刻だ。
サウジは、事業費5000億ドル(約52兆円)の未来都市構想「NEOM」や、世界最大のスポーツ、エンターテインメント都市キッディーヤなどの巨大事業を計画してきた。しかし、それらのほとんどは現在、新型コロナ危機や資金不足で未着工または工事停止に追い込まれている。
ダカールラリーをNEOMに誘致するなど、サウジ政府は宣伝に力を入れるが、肝心の外国投資誘致のメドが立たない。今月開催のG20首脳会議の一部行事をNEOMで開く構想もあったが、コロナ危機で会議そのものがオンラインとなった。
政府批判の著名サウジ人記者の殺害事件で、企業経営者はサウジと距離をとった。米国のバイデン政権下では環境、社会、統治に配慮する「ESG投資」への流れが加速する可能性があり、サウジが海外の投資家から資金を引き寄せるのは一段と難しくなる。
巨大事業はムハンマド皇太子が国際会議で自ら説明した鳴り物入りの事業で、中止や見直しも皇太子しか決断できない。ただ固執すれば、インフラ整備や教育など本来改革に必要な分野に資金を回せなくなる。
サウジで若者や女性のあいだの皇太子人気は根強いが、改革の停滞にともない若年層の雇用環境は厳しさを増す。人々の負担増が、民衆の反政府活動の引き金になるリスクもある。
皇太子の改革の目玉であったはずの国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)は規模を大幅に縮小し国内のみで19年に実施した。悲願とする海外上場への道筋はみえない。
アラムコが純利益を大幅に上回る配当の支払いを続けるのは、大幅な原油価格の回復がなければむずかしい。アラムコの配当は98.5%の株式を持つ政府にとっても重要な収入源となっている。
皇太子の改革にとっての最大の誤算は新型コロナ危機ではなく、危機をきっかけに加速した消費国の石油離れだ。欧州がコロナ克服の旗印に「グリーンリカバリー」を掲げ、各国が脱炭素政策を競いはじめた。原油需要の後退は一時的なサイクルではなく、構造的なエネルギーの転換を映している可能性がある。
新型コロナ危機のさなかに大増産によって「価格戦争」を仕掛けたサウジは、消費国の脱石油を後押しした面もある。石油の価格が乱高下するならば、調達を下落局面に集中させ、高値の局面では他のエネルギーを活用する多様化戦略が、消費国にとって合理的な行動となるからだ。
皇太子は、サウジばかりが減産による犠牲を払い、他の産油国がその恩恵を受ける状況に不満を持っているとされる。ふたたびサウジが価格を犠牲にシェアを奪いに行くシナリオも否定できず、原油市場は波乱含みだ。
気候危機は、2050年あたりからおもむろに始まるものではない。危機はすでに始まっている。
「100年に一度」と呼ばれる類の異常気象が毎年、世界各地で起きるようになっている。
EX.2020年6月にシベリアで気温が38°cに達した。
もし、現在の二酸化炭素排出量ペースを続けるなら、2030年には気温上昇1.5°Cのラインを超えてしまい、2100年には4°C以上の気温上昇が起こることが危惧されている。
気候変動で日本が受ける影響
2°Cの上昇で、サンゴは死滅し、漁業にも大きな影響が出る。さらに毎夏、各地に傷痕を残す台風の巨大化も進む。豪雨被害も大きくなる。2018年の西日本豪雨による被害総額は1兆2,000億円にのぼるが、この規模の豪雨は毎年起きるようになっている。
気温上昇が4°Cまで進めば、被害は壊滅的になり、東京の江東区、墨田区、江戸川区のような地域では、高潮によって多くの場所が冠水するようになると言われている。大阪でも、淀川流域の広範囲の部分が冠水するだろう。
沿岸部を中心に日本全土の1000万人に影響が出るという予測もある。
世界規模で見れば、億単位の人々が現在の居住地から移住を余儀なくされることになる。
そして、人類が必要とする「食料供給」は「不可能」になる。
日本は、二酸化炭素排出量が世界で五番目に多い。そして、日本を含めた排出量上位の5カ国だけで、世界全体の60%近くの二酸化炭素を排出しているのである。
・国別/二酸化炭素排出量の割合(2017年)
1. 中国(28.2%)BRICs
2. アメリカ(14.5%)G7
3. インド(6.6%)BRICs
4. ロシア(4.7%)BRICs
5. 日本(3.4%)G7
その他(42.6%)
南北格差(豊かな先進国(北)と貧しい途上国(南))
私たちの生活にすっかり入り込んだファスト・ファッション(H&M、ZARA、ユニクロ、GUなど)の洋服を作っているのは、劣悪な条件で働くバングラデシュの労働者たちである。
そして、バングラデシュで生産される服の原料である綿花を栽培しているのは、40°Cの酷暑のなかで作業を行うインドの貧しい農民である。
EX.オーガニックコットンなどを使用した環境に優しい洋服を適切な価格で売れば、先進国でもっと売れるのかもしれない。
グレタ・トゥーンベリ(Z世代のスウェーデンの環境活動家)
資本主義が経済成長を優先する限りは、気候変動を解決できない。
2020年アメリカ大統領選挙 ジョー・バイデン候補を支持表明。
アメリカを代表する環境活動家ビル・マッキベン
利用可能な化石燃料が減少していることだけが、私たちの直面している限界ではない。実際、それは最重要問題ですらない。石油がなくなる前に、地球がなくなってしまうのだから。
グーロバリズムが進んだら
廉価な労働力のフロンティアが喪失した結果、利潤率は低下し、先進国内部での労働者の搾取は激化している。
同時に、環境的負荷のグーロバル・サウスへの転嫁や外部化も限界を迎えつつあり、その矛盾が先進国にも現れるようになっている。
労働条件の悪化は、先進国に住む私たちも日々、実感している。
同様に、気候危機のような環境破壊の報いを私たちが痛感するようになるのも時間の問題である。
右派台頭のヨーロッパ
ヨーロッパではシリア難民が大きな社会問題となり、それが右派ポピュリズムの台頭を許し、民主主義を脅かしている。
実は、シリアの内戦も、原因の一つは気候変動だと言われている。シリア一帯で続く長期の干ばつによる不作で人々は困窮し、社会的紛争の勃発する可能性が高まっていたというのである。
シリア内戦
最初は「アラブの春(2010年12月〜)」から始まった「民主化を求める運動」でした。これをアサド政権が武力で弾圧。政府軍の一部が反乱を起こして、内戦状態になりました。この内戦に周辺国家が介入。「アサド政府軍」を応援したのがロシアとイランです。「反政府軍」を支援したのがトルコ(スンニ派)、反アサド。「アサド政府軍」と「反政府軍」の間に「IS(イスラム国)」が入ってき、三つ巴の争いになっている。「IS(イスラム国)」を撲滅しようと、アメリカが介入。アメリカが手を組んだ相手が「クルド人勢力」。「IS」を追い出したら、見返りとして「クルド人の国や自治区」をつくってもらえると期待したのだが、「IS」を撃退したとたんアメリカが手を引いた。それで「クルド人勢力」は「アサド政権」への接近を余儀なくされた。「反政府軍」の残党を「アサド政府軍」が攻撃すると、トルコが反撃。「紛争が再燃した」。戦闘が激化する中、ロシアとトルコの首脳会談が行われ、停戦で合意。
クルド人は国家を持たない世界最大の民族
トルコはすでにシリア難民を360万人も受け入れています。世界で最もシリア難民を受け入れているのがトルコなのです。
トルコへ支援金を渡してヨーロッパへの流入を止めてもらっていた。
EU首脳がエルドアン政権の独裁っぷりを批判、怒ったエルドアン大統領がヨーロッパにつながる国境を開放。難民たちはギリシャとの国境を超えてヨーロッパに向かおうとした。
コロナで国境を封鎖。難民たちは行き場を失った。
シェンゲン協定
EU圏内での「ヒト・モノ・カネ」の移動の自由
ブレグジット イギリスのEU離脱
「シェンゲン協定」下で多くの移民がイギリスに流入し、イギリスの職が奪われる
コモン・ロー(英文法)をすてEUの大陸法を受け入れると自国の文化を捨てることになる。ブレグジットを選択した背景に自国文化を捨てたくないというイギリス市民の感情が大きく寄与。ブレグジットの根底には「ナショナリズム(国家主義)」がある。
「シェンゲン協定」によって作り出された「ヨーロッパ人」という幻想をいともたやすく砕いてしまった。
EU圏内の経済は「北高南低」
これからやってくるコロナ感染収束後の世界恐慌レベルのダメージ下で、ドイツやフランスが南欧(イタリア、スペイン、ギリシャなど)を助けようとするか?2009年ギリシャ危機の際、ドイツは救済に難色を示した。
グリーン・ニューディール
「資本主義」は「人間」だけでなく、「自然環境」からも「掠奪」するシステムである。
グリーン・ニューディールは、「再生可能エネルギー」や「電気自動車を普及」させるための「大型の財政出動」や「公共投資」を行う。
そうやって安定した高賃金の雇用を作り出し、有効需要を増やし、景気を刺激することを目指す。
好景気が、さらなる投資を生み、「持続可能な緑の経済」への移行を加速させると期待するのだ。
危機の時代に、「新自由主義」はもはや無効だ。「緊縮」と「小さな政府」では対応できない。
これからは、新たな緑のケインズ主義「気候ケインズ主義」だ。
「グリーン革命」により世界が真に持続可能なものになる。
「気候ケインズ主義」が与えてくれるのは、「気候変動」を「好機(チャンス)」にして、これまで以上の「経済成長」を続けることができるかもしれない。
「希望」である。
「緑の経済成長」こそが、「資本主義」が「平常運転」を続けるための「最後の砦」になっているのである。
SDGs(Sustainable Development Goals=国連が掲げる、持続可能な開発目標)
その「最後の砦」の旗印になってるのが、「SDGs(Sustainable Development Goals=国連が掲げる、持続可能な開発目標)」だ。
国連、世界銀行、IMF(国際通貨基金)、OECD(経済協力開発機構)などの国際機関も、SDGsを掲げ、「緑の経済成長」を熱心に追求しようとしている。
EX.イギリスや韓国を含む7カ国によって設置された「経済と気候に関するグローバル委員会」は、「ニュー・クライメント・エコノミー・レポート」を発行している。その中で、「急速な技術革新、持続可能なインフラ投資、そして資源生産性の増大といった要素の相互作用によって、持続可能な成長は推し進められる」とまとめ、SDGs(Sustainable Development Goals=国連が掲げる、持続可能な開発目標)を高く評価している。
そして、私たちは、「経済成長の新時代」に突入していると謳いあげた。
エリートたちが集う国際組織において、「気候変動対策」が「新たな経済成長」の「チャンス」とみなされているのが、はっきりとわかるだろう。
実際、フリードマンやリフキンの提唱する「気候ケインズ主義」が、さらなる経済成長を生み出すのは間違いない。
「太陽光パネル」だけではなく、「電気自動車」と「その急速充電器」の普及、さらには、「バイオマス・エネルギーの開発」など、「経済の大転換」が必要になり、そのためには「多くの投資」と「雇用創設」が欠かせないからである。
そして、気候変動の時代には、「既存の社会インフラ全体を丸ごと転換するような大型投資が必要」だという主張も、まったくもって正しい。
SDGs(Sustainable Development Goals=国連が掲げる、持続可能な開発目標)とは?
「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「ジェンダー平等を実現しよう」「安全な水とトイレを世界中に」「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「働きがいも 経済成長も」「産業と技術革新の基盤をつくろう」「人や国の不平等をなくそう」「住み続けられるまちづくりを」「つくる責任 つかう責任」「気候変動に具体的な対策を」「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさも守ろう」「平和と公正をすべての人に」「パートナーシップで目標を達成しよう」という「17のゴール」と「169のターゲット」から構成されている。
SDGsは「社会的課題」の「解決」に取り組む多くの企業にとって、「経営の羅針盤」のような役割を果たすことになる。
1997年 地球温暖化に関する京都会議
(環境的負荷のグローバルサウスへの責任転嫁、外部化)
アメリカは、世界規模の義務的な排出基準に取引システムを加えるべきだと主張した。つまり、各国に環境汚染権の売買を認めるのだ。
例えば、アメリカは京都議定書に定められた義務を果たすために、自国の温室効果ガスの排出量を減らしてもいいし、どこか他の地域の排出量を減らすためにお金を払ってもいい。自国でガソリンを食うSUVのハマーに課税するよりも、アマゾンの熱帯雨林の回復や発展途上国における旧式の石炭燃焼工場の近代化にお金を払えばいいのである。
裕福な国々がお金を払って自国の排出量を減らす義務を免れるとすれば、環境に関わる将来の世界的協力に必要な、「犠牲の共有」という意識が蝕まれてしまうのではないか。
天から見れば、空に向かって放出される炭素が地球上のどの場所で減ろうと問題ではない。
だがそれは、道徳的・政治的には問題だ。
富裕な国々がお金を払って浪費的な習慣を大きく変えずにすませるのを認めれば、悪い姿勢が強化される。つまり、自然は経済的余裕のある人のためのゴミ捨て場だという姿勢だ。
プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)
地球システムには、「自然本来の回復力(レジリエンス)」が備わっている。だが、一定以上の負荷がかかると、その回復力は失われ、「極地の氷床の融解(北極や南極の氷が溶ける)」や「野生動物の大量絶滅」など急激かつ不可逆な、破壊的変化を引き起こす可能性がある。
これが「臨界点(ティッピング・ポイント)」である。もちろん、「臨界点(ティッピング・ポイント)」を超えてしまうことは、人類にとっても非常に危険である。
そこで、その閾値を9領域において計測し、見極めることで、人類の安定的な生存に向けた限界点をロックストロームは確定しようとした(ちなみに、この9項目は、「気候変動」「生物多様性の損失」「窒素・リン循環」「土地利用の変化」「海洋酸性化」「淡水消費量の増大」「オゾン層の破壊」「大気エアロゾルの負荷」「化学物質による汚染」からなる)。
限界を越えない「人類の安全な活動範囲」の画定を、ロックストロームは目指していたのだ。
「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」という概念は、SDGs(Sustainable Development Goals=国連が掲げる、持続可能な開発目標)にも大きな影響を与えた。「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」が、「技術革新」や「効率化」を進めるための目標値になったのである。
成長しながら二酸化炭素排出量を削減できるのか
ところが、ロックストロームらの測定によれば、「気候変動」や「生物多様性」などの4項目は、「人類の経済活動」によって、すでに「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」を超えてしまっている。
人類は自然を支配しようとした結果、地球環境を取り返しのつかないような形で大きく変えてしまっているのである。
そして、もはや人類にはどうしようもできないような危機的状況に突き進もうとしているのだ。
そんな中で「気候ケインズ主義」によって「緑の経済成長」を追求して本当に良いのだろうか。
しかし、ロックストロームは「経済成長」か「気温上昇1.5°C未満の目標」か、どちらか一方しか選択できないことを公に認めたのである。
「経済成長」と「環境負荷の”デカップリング(分離/分断/切り離し)”」が現実には極めて困難であるとロックストロームは判断したのである。
相対的デカップリング
気候変動についていえば、「新技術」によって、「経済成長を維持」しながら、「二酸化炭素排出量を減らす」ことを目指すのだ。
例えば、途上国の開発における、「発電所」や「電力網」などの「インフラ整備」や「住宅」、「自動車」などの大型消費は経済成長を促進するが、同時にそれは、多くの「二酸化炭素」を排出させることになる。
けれども先進国が支援して、効率性の高い新技術を導入することができれば、旧技術のままインフラ整備や大型消費が行われた場合と比較して、二酸化炭素排出量はなだらかなカーブを描いて上昇していく。
このように経済成長の伸び率に対して、二酸化炭素排出量の伸び率を効率化によって相対的に低下させること、これが「相対的デカップリング」である。
絶対的デカップリング
「相対的デカップリング」は気候変動対策としては不十分である。二酸化炭素排出量の絶対量を減らさなければ、気温上昇に歯止めをかけることができない。絶対量を減らしつつ、経済成長を目指すのが「絶対的デカップリング」である。
EX1.二酸化炭素を排出しない電気自動車を普及させることだ。ガソリン車を減らせば、二酸化炭素排出量は減少する。一方、電気自動車の販売によって、経済成長は継続できる。
EX2.飛行機に乗って出張する代わりに、オンラインのテレビ会議を行う。
EX3.石炭火力発電から太陽光発電の転換も同様。
EX4.水素を燃料とした飛行機や自動車や発電所に移行する
経済を成長しながらでも二酸化炭素の排出量は減る。
経済成長を続けながら、二酸化炭素排出の絶対量を削減することが可能だというわけである。
このような仕方で、フリードマンらの提唱する「グリーン・ニューディール」はGDPをこれまで通り成長させる一方で、気温上昇1.5°C未満という目標を達成するべく、二酸化炭素の排出量をゼロにしようとする。
もちろん、相当な技術革新が必要なのは間違いない。これは、「絶対的デカップリング」を目指した世紀の一大プロジェクトなのである。
>> 人新世の資本論 まとめ 2 へ続く