人新世の資本論 まとめ 2
経済成長の罠
2030年〜2040年のうちに、気候変動を止められるだけの「十分な絶対的デカップリング」が可能かが問題なのだ。
ロックストロームは「十分な絶対的デカップリング」は不可能だというのである。
デカップリングには、単純かつ強固なジレンマがつきまとうからだ。
経済成長が順調であればあるほど、経済活動の規模が大きくなる。それに伴って資源消費量が増大するため、二酸化炭素排出量の削減が困難になっていくというジレンマだ。
つまり、「緑の経済成長」がうまくいく分だけ、二酸化炭素排出量も増えてしまう。
ロックストロームが出した結論は、経済成長を諦めることであった。理由は単純である。成長を諦め、経済規模を縮小していくなら、二酸化炭素排出量の削減目標達成が、その分容易になるからだ。
科学者たちも「資本主義の限界」に気づき始めたのだ。
デカップリングは幻想
先進国だけ見れば「相対的デカップリング」が進んでいるのは間違いない。
ところが、先進国の傾向とは逆に、ブラジルや中東では対実質GDP比でのエネルギー消費率が、むしろ急速に悪化している。
目先の経済成長が優先されるなかで、旧来型の技術のままに大型投資が行われ、「相対的デカップリング」さえも生じていない状況なのだ。
世界規模で見れば、「新興国」における「著しい経済成長」のために、「二酸化炭素の排出量」が増え続けている。
先進国7ヵ国 G7
北米(アメリカ、カナダ)、ヨーロッパ(フランス、イギリス、ドイツ、イタリア)、日本
BRICS
ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ
主要20ヵ国・地域 G20
G7、BRICS、メキシコ、アルゼンチン、オーストラリア、大韓民国(韓国)、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、EU
産業革命以来の資本主義の歴史を振りかえればわかるように、20世紀の経済成長は、化石燃料(石炭、石油など)を大量に使用することによって可能となった。
「経済成長」と「化石燃料(石炭、石油など)」は分かちがたく密接に連関している。
それゆえに、従来通りの経済成長を維持しながら、二酸化炭素の排出量を削減していくことに、物理的な困難が伴うのは自明の事実なのである。
世界全体の発電手法(2017年)
石炭 :38.5%
石油 : 3.3%
天然ガス :23.0%
原子力 :10.3%
水力 :15.9%
地熱 : 0.3%
太陽光 : 1.7%
太陽熱 : 0.0%
風力 : 4.4%
潮力 : 0.0%
バイオマス: 1.8%
廃棄物 : 0.4%
その他 : 0.1%
ジェヴォンズのパラドックス
EX.世界中でこの間、「再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱など)」への投資が増えている。それにも関わらず、「化石燃料(石炭、石油など)」の消費量は減っていない。
「再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱など)」が、「化石燃料(石炭、石油など)」の代替物として消費されるのではなく、「経済成長」による「エネルギー需要増大を補う形」で、追加的に消費されている。
効率化すれば環境負荷が減るという一般的な想定とは異なり、技術進歩が環境負荷を増やしてしまう。
EX1.テレビは省エネ化しているが、人々がより大型のテレビを購入するようになったせいで、電力消費量がむしろ増えている。
EX2.自動車の燃費向上をSUVなどの大型車の普及が無意味にした。
新技術による効率化で「相対的デカップリング」が起きるように見えても、その効果はしばしば消費量の増加によって相殺され、無意味になってしまうのだ。
効率化によって、ひとつの部門で「相対的デカップリング」が生じたとしても、効率化で節約された分の資本や収入が、エネルギーや資源をよりたくさん消費する商品の生産や購買に使われ、節約分が帳消しになることもある。
EX1.家庭用太陽光パネルが廉価になって浮いたお金で、人々は飛行機に乗って旅にでるかもしれない。
EX2.余剰資金が生じれば、企業は新しい投資先を探すに違いない。それがグリーンである保証はない。
ピークオイル
石油の産出量のピークを過ぎると、供給量が減って、原油価格が上昇し、経済に悪影響を及ぼすことが懸念されていた。
この「ピークオイル」がいつ生じ、どのような影響を経済に及ぼすかをめぐって、論争が繰り広げられた。
ここで、市場原理主義者はこう考えた。
石油価格が高騰すれば、再生可能エネルギーのような新技術が相対的に廉価になっていく。
廉価になれば、再生可能エネルギーの開発はますます進む。その結果、おのずと石油の消費量は減っていくはずだ。
「裕福な生活様式」によって、二酸化炭素を多く排出しているのは、先進国の富裕層である。世界の富裕層トップ10%が二酸化炭素の半分を排出している。
プライベート・ジェットやスポーツカーを乗り回りし、大豪邸を何軒も所有するトップ0.1%の人々は、極めて深刻な負荷を環境に与えている。
他方で、下から50%の人々は、全体のわずか10%しか二酸化炭素を排出していない。
気候ケインズ主義の理想形
ガソリン自動車をすべて電気自動車に置き換えるなら、巨大な新市場と雇用が生まれる。
それによって、「気候危機」も「経済危機」も「解決」されるというわけである。
リチウムイオン電池が必要である
「コバルト」も「リチウムイオン電池」に「不可欠」である。
ここで問題は、コバルトの約6割がコンゴ民主共和国という、アフリカが最も貧しく、政治的・社会的にも不安定な国で採掘されているという事実だ。
世界中の需要をまかなうための大規模の採掘とそのさらなる拡大が、コンゴで、水質汚染や農作物汚染といった環境破壊、そして景観破壊を引き起こしている。
それに加えて、劣悪な労働条件の問題もある。コンゴ南部では、クルザー(仏語で採掘者の意味)と呼ばれるインフォーマルな形での「奴隷労働」や「児童労働」が蔓延している。
ノミや木槌のような原始的な道具を用いて、手作業で、コバルトの採掘に従事しているのだ。
その中には、6〜7歳程度の子どももおり、賃金はわずか1ドルほどだという。
そして、危険なトンネルでの採掘作業は安全装備も十分ではない。
地下で過ごす時間が24時間に及ぶことも多々あり、有害物質を吸い込みながらの作業は呼吸器や心臓、精神の疾患といった健康被害も引き起こしてある。最悪の場合には、作業中の事故で生き埋めになる。子どもの死傷者も出ていると国際的に非難されている。
2040年までに電気自動車は現在の200万台から、2億8000万台まで増えるとされる。
しかし、それで削減される二酸化炭素排出量は、わずか1%と推計される。
そもそも電気自動車に変えたところで二酸化炭素排出量は大して減らない。
バッテリーの大型化により、製造工程で発生する二酸化炭素はますます増える。
EVバッテリー世界シェア(日経 20/11/04)
EVバッテリー世界シェア
1.CATL(中国)
2.パナソニック(日本)
3.LG電子(韓国)
4.BYD(中国)
5.サムスンSDI(韓国)
日本はこの分野で、まだ先頭に立つ。トヨタ自動車は2020年代前半までの実用化を目指し、パナソニックと車載用電池の開発を急ぐ。村田製作所はワイヤレスイヤホンやウエアラブル端末向けの小型電池を20年度中にも量産化する。
もちろんハードルは高い。EV向けに研究が進む「硫化物系」は空気に触れるとガスが生じる可能性がある。トヨタの技術者は「全固体の材料は水分に弱い。工場など乾燥状態の確保が難しい」と話す。村田製作所も一段の容量拡大や充放電効率の引き上げを探る。
日本が蓄電池開発の分野で中韓勢に対抗するには、軽量化や充電容量などに勝機を見いだす必要がある。梶山弘志経済産業相は企業にハッパをかける。「バッテリーの大量生産では中国に抜かれたが、まだ追いつける」
グリーン・ニューディールのような政策による国土改造の大型投資は不可欠である。
当然、太陽光発電や電気自動車にどんどん切り替えていく必要がある。
公共交通機関の拡充と無償化、自動車道の整備、太陽光パネルのついた公営住宅の建設も大胆な財政出動により進めていかなければいけない。
だが、それだけでは足りない。
グリーン・ニューディールが本当に目指すべきは、「破局につながる経済成長」ではなく、「経済」の「スケールダウン」と「スローダウン」なのである。
ドーナツ経済
まず、水や所得、教育などの基本的な「社会的土台」が不十分な状態で生活している限り、人間はけっして繁栄することができない。
社会的な土台の欠如とは、自由に良く生きるための「潜在能力」を実現する物質的条件が欠けていることを意味する。
人々が本来もっている能力を十分に開花できないならば、「公正な」社会はけっして実現されない。
これが今、途上国の人々が置かれている状態である。
今の先進国の人々は「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」を大きく超える生活をしている。他方で、途上国の人々は、社会的な土台に満たない生活を強いられている。現在のシステムは、環境をひどく破壊しているだけではなく、不公平なのである。
ほとんどの国は、持続可能性を犠牲にすることで、社会的欲求を満たしているのである。
これは大変都合の悪い事実である。既存の先進国をモデルとして、途上国の開発援助を行い、社会的閾値を満たそうとすることは、地球全体としてみれば、破滅への道を歩むことになってしまうからである。
経済成長だけが社会の繁栄をもたらすという前提は、一定の経済水準を超えると、それほどはっきりしないのである。
わかりやすいのが、アメリカとヨーロッパ諸国の比較だろう。独仏や北欧などのヨーロッパ諸国の多くは、1人あたりのGDPがアメリカより低い。
しかし、社会福祉全般の水準はずっと高く、医療や高等教育が無償で提供される国がいくつもある。
一方、アメリカでは、無保険のせいで治療が受けられない人々や、返済できない学生ローンに苦しむ人々が大勢いる。
アメリカの私立大学の1年間の学費は、約35,000ドル(約370万〜約600万)となります。 アメリカの大学は学費だけでなく、「寮費」「食費」と2つの費用がかかることがあります。
日本の1人あたりのGDPはアメリカよりずっと低いが、日本の平均寿命は、アメリカより6歳近く長い。
2019年 GDPランキング
1位:アメリカ(北米)
2位:中国(アジア)
3位:日本(アジア)
4位:ドイツ(ヨーロッパ)
5位:インド(アジア)
6位:イギリス(ヨーロッパ)
7位:フランス(ヨーロッパ)
8位:イタリア(ヨーロッパ)
9位:ブラジル(南米)
10位:カナダ(北米)
11位:ロシア(旧ソ連圏)
12位:韓国(アジア)
13位:スペイン(ヨーロッパ)
14位:オーストラリア(≒アジア / イギリス系アングロサクソンの国)
15位:メキシコ(南米)
16位:インドネシア(アジア)
17位:オランダ(ヨーロッパ)
18位:サウジアラビア(中東)
19位:トルコ(≒ヨーロッパ / 位置的にはアジア / 宗教的にはイスラム)
20位:スイス(ヨーロッパ)
21位:台湾(アジア)
22位:ポーランド(ヨーロッパ)
23位:イラン(中東)
24位:タイ(アジア)
25位:スウェーデン(ヨーロッパ)
26位:ベルギー(ヨーロッパ)
27位:ナイジェリア(アフリカ)
28位:オーストリア(ヨーロッパ)
29位:アルゼンチン(南米)
30位:アラブ首長国連邦(UAE)(中東)
英調査・コンサルティング会社の経済ビジネスリサーチセンター(Center for Economic and Business Research: CEBR)の年次レポートで発表している「世界経済順位総覧」によると、2032年には米国を抜き、中国は経済規模で世界1位となると予測している。また、日本は2027年にはインドと交代し世界4位、アジアの中国、インド、日本、韓国とインドネシアの5カ国が経済規模で世界トップ10位内を占める見通しである。
2032年 GDPランキング予想
1. 中国(アジア)
2. アメリカ(北米)
3. インド(アジア)
4. 日本(アジア)
5. ドイツ(ヨーロッパ)
日本と同様に、現在トップ10位内にある主要経済国のドイツは4位から5位、フランスは5位から9位、英国は6位から7位、イタリアは9位から13位、カナダは10位から12位と経済規模の縮小を予想している。
最も経済的躍進をみせるのはインドで、2018年にはフランスと英国の経済規模を追い越して世界5位に、10年後の2027年には日本とドイツを抜き3位になる見通し。すでにBRICS諸国の間ではロシアやブラジルを抜いて、中国に続き第2位の経済規模である。
自由で開かれたインド太平洋 (FOIP / Free and Open Indo-Pacific)
アメリカ、日本、オーストラリア、インドによる安全保障における対中包囲網。アジア版NATOと中国に非難される。アメリカ、日本、オーストラリア、インドは自由で開かれたインド太平洋の中核をなし、英語で4を意味する「QUAD(クアッド)」と呼ばれる。
「地球儀を俯瞰する外交」
国際協調主義に基づく「積極的平和主義」
国際社会の安定と繁栄の鍵を握るのは,
「2つの大陸」:成長著しい「アジア」と潜在力溢れる「アフリカ」
「2つの大洋」:自由で開かれた「太平洋」と「インド洋」
の交わりにより生まれるダイナミズム
⇒ これらを一体として捉えることで,新たな日本外交の地平を切り拓く
<自由で開かれたインド太平洋の実現のための基本的な考え方>
地域全体の平和と繁栄を保障し,いずれの国にも安定と繁栄をもたらすために,ASEANの中心性,一体性を重視し,包括的かつ透明性のある方法で,ルールに基づく国際秩序の確保を通じて,自由で開かれたインド太平洋地域を「国際公共財」として発展させる。こうした考え方に賛同してもらえるのであれば,日本はいずれの国とも協力していく。
自由で開かれたインド太平洋の実現のための三本柱
1 法の支配,航行の自由,自由貿易等の普及・定着
2 経済的繁栄の追求(連結性,EPA/FTAや投資協定を含む経済連携の強化)
3 平和と安定の確保(海上法執行能力の構築,人道支援・災害救援等)
自由で開かれたインド太平洋を通じてアジアとアフリカの 「連結性」を向上させ,そして,2つの海の中心に位置する ASEANとともに,地域全体の安定と繁栄を促進する。
<自由で開かれたインド太平洋の具体化>
1 法の支配,航行の自由,自由貿易等の普及・定着
自由で開かれたインド太平洋の基本原則や考え方を共有する各国との協力
国際場裡やメディア等での戦略的発信
2 経済的繁栄の追求
①港湾,鉄道,道路,エネルギー,ICT等の質の高いインフラ整備を通じた「物理的連結性」,
②人材育成等による「人的連結性」,
③通関円滑化等による「制度的連結性」の 強化
経済的パートナーシップの強化(FTA/EPAや投資協定等を含む)及びビジネス環境整備
3 平和と安定の確保
インド太平洋沿岸国への能力構築支援
⇒ 海上法執行能力や海洋状況把握(MDA)能力の強化,人材育成 等
人道支援・災害救援,海賊対策,テロ対策,不拡散分野等での協力
「4カ国」枠組み 日豪けん引
首脳会談、「インド太平洋」実現確認 米新政権前に道筋 (日経 20/11/18)
菅義偉首相とオーストラリアのモリソン首相は17日の会談で、日米豪印4カ国による枠組みの重要性で一致した。日豪がけん引し、海洋進出を急ぐ中国への抑止力を高める。米大統領選で当選を確実にしたバイデン前副大統領が新政権を発足する前に、枠組みの維持に道筋をつける。
会談の冒頭、菅首相は英語で「ウエルカム トゥ ジャパン」と述べ、来日を歓迎した。モリソン氏は「これから首相を『ヨシ』と呼ばせていただく。私のことも(ファーストネームの『スコット』にちなみ)『スコモ』と呼んでほしい」と伝えた。夕食会などでも「ヨシ」「スコモ」と呼び合ったという。
両首脳は「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け安全保障での協力拡大を確認した。太平洋とインド洋を結ぶ地域で法の支配や市場経済を重視する国が協力する構想である。中国の勢力拡大を抑えるため、経済と安保の両面で協調する。
モリソン氏が来日したのは9月に就任したばかりの菅首相と同構想を確かめるためだった。豪州は新型コロナウイルスの感染拡大を受け海外との人の往来を厳しく制限する。モリソン氏も例外ではなく帰国後14日間は隔離されることになる。
それでも来日したのはなぜか。12日の記者会見で「菅首相と日本で初めて会う首脳になるのは豪州にとって重要だ」と説明した。「日豪は経済、貿易、文化、社会的な関係にとどまらない戦略的な関係だ」と加えた。
米印とも協力
さらに日米豪印4カ国の枠組みについて「日豪が米国やインドとともに作り上げた。南西太平洋で協力し、重要な役割を果たす」と表明した。
日米豪印は自由で開かれたインド太平洋の中核をなし、英語で4を意味する「QUAD(クアッド)」と呼ばれる。日豪両首脳は会談で「色々な面で日米豪印が協力することは有意義であり必要だ」と申し合わせた。
モリソン氏は首脳会談に先立ち、4カ国の連携を主導してきた安倍晋三前首相とも会った。
21年1月に大統領に就く予定のバイデン氏がトランプ政権の進める構想を継ぐ保証はない。バイデン氏側の発表によると、12日の首相との電話協議は「自由で開かれた」ではなく「繁栄し安定した」との文言を使った。
米国が構想への関与を弱めれば日米豪印による対中抑止力は格段に落ちる。バイデン氏に4カ国の安保協力の重要性を印象づけ、つなぎ留める。日豪の思惑は共通する。
首脳会談では、インド太平洋の平和と安定に向けて米国と緊密に協力する重要性を共有した。
豪州の中国への危機感は強い。モリソン氏が4月、新型コロナの発生源の独立した調査を求めたことに中国が反発。豪産食肉の輸入規制や大麦の追加関税に踏み切った。石炭やロブスターの対中輸出にも支障が出た。
豪州にとって中国は輸出額の3割を占める。経済的な摩擦を避けるため対中関係のバランスに腐心してきた。近年は中国が南太平洋の島しょ国でも影響を強めており安保上の懸念が優先する。
豪中関係悪化で
日本政府は豪中関係が悪化した今が日豪の関係を深める好機とみる。政府高官は自衛隊と豪軍が共同訓練などをしやすくする円滑化協定の大枠合意について「豪州が日豪関係をより重視し始めたのが大きい」と話す。
首脳会談では平時に豪軍の艦艇などを守る「武器等防護」の実施に向け必要な調整を進めると合意した。適用すれば米軍に続く2カ国目となる。
インドも中国と関係が悪化している。6月に国境の係争地域で両国軍が衝突した。
日米豪印は17日、アラビア海で共同訓練を始めた。3~6日にも日米印の「マラバール」に豪州が参加する形で13年ぶりに4カ国で開いた。
(田島如生、シドニー=松本史)
NATO(北大西洋条約機構)
北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)は「集団防衛」,「危機管理」及び「協調的安全保障」の三つを中核的任務としており,加盟国の領土及び国民を防衛することが最大の責務です。
加盟国
アイスランド,アメリカ合衆国,イタリア,英国,オランダ,カナダ,デンマーク,ノルウェー,フランス,ベルギー,ポルトガル,ルクセンブルク(以上原加盟国),ギリシャ,トルコ(以上1952年2月),ドイツ(1955年5月当時「西ドイツ」),スペイン(1982年5月),チェコ,ハンガリー,ポーランド(以上1999年3月),エストニア,スロバキア,スロベニア,ブルガリア,ラトビア,リトアニア,ルーマニア(以上2004年3月),アルバニア,クロアチア(以上2009年4月),モンテネグロ(2017年6月)北マケドニア(2020年3月)(全30か国)
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)より規模の大きい、世界最大規模の巨大な自由貿易経済圏の誕生、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)
RCEP(東アジア地域包括的経済連携)、15日署名方針 閣僚会合で15ヵ国合意
インドは参加見送り 農林水産品の関税撤廃率、TPP以下(日経 20/11/12)
参加国:ASEAN、日中韓、オーストラリア、ニュージーランド(インドは参加せず)
アジア太平洋地域での自由貿易圏の構築を目指す、RCEP=東アジア地域包括的経済連携をめぐり、日本や中国、韓国、それに、ASEAN各国など15か国は、15日、オンライン形式で、首脳会議を開きました。
この中で、菅総理大臣は、「日本は一貫して、自由で公正な経済圏を広げ、多角的自由貿易体制を維持し、強化するために率先して行動してきた。RCEPは、市場アクセスを改善するのみならず、知的財産や電子商取引のルールを整備し、地域の貿易や投資を促進し、サプライチェーンの効率化を促すものだ」と述べました。
その上で、「コロナ禍で世界経済が低迷し、内向き思考も見られる中でも、自由貿易を推進していくことがよりいっそう重要だ」と強調しました。
また、今回署名を見送ったインドについて、「地域の経済枠組みに不可欠なプレーヤーであり、協定への将来の復帰に向けて、引き続き、主導的な役割を果たす決意だ」と述べました。
そして、会議では、15か国が協定の内容に正式に合意し、署名式が行われました。
今回の協定で、アジア太平洋地域で、世界の人口やGDPのおよそ3割を占める、巨大な自由貿易圏が生まれることになり、TPP=環太平洋パートナーシップ協定を上回ります。
また、日本にとっては、最大の貿易相手国である中国と3番目の韓国と結ぶ初めてのEPA=経済連携協定となります。(NHK ニュース)
焦点の関税は参加国全体で91%の品目で段階的に撤廃する。日本からの工業品輸出では、協定の発効時に即時撤廃する分も含めて段階的に92%の関税がなくなる。特に日本と初めてFTAを結ぶ中韓両国の削減幅が大きい。中国向けの無関税品目の割合は現行の8%から86%、韓国向けは現行の19%から92%まで最終的に広げる。関税を即時撤廃する品目は、中国向けでガソリン車用のエンジン部品の一部(現行の関税率3%)、農業用トラクター(6%)、一部鉄鋼製品(3~6%)などがある。ただ関税の撤廃は各国とも自国の産業を保護する狙いもあり、10~20年かけて段階的に減らすケースが多い。RCEPでも各国の競争が激しくなると予想される電気自動車用モーターや自動車用電子系部品などは10年超の期間をかけて撤廃する。中国勢の躍進が目立つ電池関連部品でも、電池材の撤廃時期は16年目以降としている。(日経 20/11/17)
RCEPを日本主導で大きく育てたい(日経 20/11/17)
日中韓など15カ国が、東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名した。成長著しいアジア地域に巨大な自由貿易圏を築く意義は大きい。
ただインドの離脱やルール面の甘さなどが禍根を残す恐れもある。参加国の拡大や協定の深掘りをはじめ、RCEPをより大きく育てる努力を続けてほしい。
RCEPはインドも含む16カ国で、2013年に交渉を始めた。関税の撤廃・削減などを巡る協議が難航し、交渉妥結の時期を何度も延期してきた経緯がある。
新たな自由貿易圏が担うのは、アジア経済の底上げだけではない。世界に広がる保護貿易の防波堤を固める意味もある。参加国が漂流の危機を乗り越え、署名にこぎ着けたのは歓迎したい。
だが経済の発展や人口の増加で存在感を増すインドが離脱し、RCEPの価値を減じたのは否めない。共産党の独裁を貫く中国の影響力が強まるのを避けるためにも、有力な民主主義国家であるインドの参加が欠かせなかった。
大幅な関税自由化の打撃を恐れるインドに復帰を促すのは骨が折れるが、諦めるべきではない。「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進する日本にも、粘り強く説得する責任がある。もちろんほかの参加国を募ってもいい。
協定の内容にも不満が残る。日本の工業品輸出の関税撤廃率は91.5%で、11カ国が参加する環太平洋経済連携協定(TPP)の99.9%には及ばない。
デジタル情報の自由な海外流通の確保を求めたり、企業に対する技術移転の要求を禁止したりするルールも設けたが、合意を優先して甘くなったといわざるを得ない。中国の異質な国家資本主義の修正を迫るには力不足だろう。
こうしたRCEPの改善も今後の課題だ。関税自由化の水準を引き上げ、より厳格な経済ルールを整備する不断の努力が要る。
自国第一の米トランプ政権が保護主義を世界的に拡散する一方で、日本はTPPや欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)を発効させてきた。その功績は国際的にも高く評価されている。
来年1月にバイデン新政権が発足しても、米国の保護主義圧力は根強く、TPPへの早期復帰も期待しにくい。今回のRCEPにとどまらず、自由貿易圏のさらなる拡大・深化を目指す努力を日本が主導してほしい。
中国の広域経済圏構想「一帯一路」とAIIB (アジアインフラ投資銀行)
AIIB(アジアインフラ投資銀行)
・中国新帝国主義の柱
・2015年中国主導で発足
・2019年12月時点で、加盟国・地域は100ヵ国、G20(G7、BRICS、メキシコ、アルゼンチン、オーストラリア、大韓民国(韓国)、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、EU)でも13ヵ国加盟(アメリカと日本は参加してない)
一帯一路
中国南西部から中央アジアを経由してヨーロッパまでの「シルクロード経済ベルト」と、中国沿岸部から南シナ海、インド洋、アフリカ東岸を経由して地中海までの「21世紀の海上シルクロード」からなる巨大経済圏構想だ。
この一帯一路に参加する国は、中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)を通じてインフラ開発費の融資を受けることができる。
借りた金は返さなければならないが、中国は融資に焦げ付いた国から陸路や海路の拠点を合法的に収奪。ギリシャの「ピレウス港」、スペインの「バレンシア港」、スリランカの「ハンバントタ港」などの海洋拠点を手中に納めている。
すなわち、AIIB(アジアインフラ投資銀行)とは中国共産党が運営する「国家ヤミ金」ということだ。
G7(アメリカ、カナダ、日本、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ)の中でイタリアが初めて中国と「一帯一路」の協力覚書を締結。
借金が返せないとどうするか、「その代わりに港などの重要インフラを押さえる」。いったん借金を背負うと中国の罠にかかってしまう。「債務の罠」と呼ばれている。
モルディブ、ミャンマー、パキスタン、スリランカ、、、インド洋からアフリカ、ヨーロッパまでの国の一部が借金地獄に陥っている。
中国の影響力が拡大されている。
中国と「一帯一路」構想に関わる協力文書に署名した国家一覧<EU加盟国>
オーストリア
ギリシャ
ポーランド
チェコ
ブルガリア
スロバキア
クロアチア
エストニア
リトアニア
スロベニア
ハンガリー
ルーマニア
ラトビア
マルタ
ポルトガル
イタリア (G7)
ルクセンブルク
<非EU加盟国>
ロシア (BRICs)
セルビア
アルバニア
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
モンテネグロ
北マケドニア
ウクライナ
ベラルーシ
モルドバ
<中東およびアフリカ>
バーレーン
エジプト
イラク
イスラエル
ヨルダン
クウェート
レバノン
オマーン
パレスチナ
カタール
シリア
サウジアラビア (G20)
トルコ (G20)
アラブ首長国連邦
イエメン
<中央・西アジア>
アフガニスタン
アルメニア
アゼルバイジャン
ジョージア
イラン
カザフスタン
キルギスタン
モンゴル
タジキスタン
トルクメニスタン
ウズベキスタン
<南アジア>
バングラディシュ
ブータン
インド (BRICs)
モルディブ
ネパール
パキスタン
スリランカ
<南西アジア>
ブルネイ ASEAN(東南アジア諸国連合)
カンボジア ASEAN(東南アジア諸国連合)
インドネシア ASEAN(東南アジア諸国連合) (G20)
ラオス ASEAN(東南アジア諸国連合)
マレーシア ASEAN(東南アジア諸国連合)
ミャンマー ASEAN(東南アジア諸国連合)
フィリピン ASEAN(東南アジア諸国連合)
シンガポール ASEAN(東南アジア諸国連合)
タイ ASEAN(東南アジア諸国連合)
東ティモール
ベトナム ASEAN(東南アジア諸国連合)
公正な資源配分が、資本主義のもとで恒常的にできるかどうかである。
グローバルな公正さという観点では、資本主義はまったく機能しない。
環境危機の時代に目指すべきは、自分たちだけ生き延びようとすることではない。それでは、時間稼ぎはできても、地球は一つしかないのだから、最終的には逃げ場がなくなる。
持続可能な社会を志向する必要があるのだ。それが、最終的には人類全体の生存確率を高めることになる。それゆえ、生存の鍵となるのは「平等」である。
気候ファシズム
現状維持を強く望み、このまま何もせずに「資本主義」と「経済成長」にしがみつけば、気候変動による被害は甚大なものになる。
遠くない将来に、多くの人々が、まともな生活を営むことが不可能になる。住む場所を失い、環境難民になる人も大勢出てくるだろう。
野蛮状態
気候変動が進行すれば、環境難民が増え、食糧生産もままならなくなる。その結果、飢餓や貧困に苦しむ人々は反乱を起こす。
超富裕層1%と残りの99%との力の争いで、勝つのは後者だろう。
大衆の叛逆によって、強権的な統治体制は崩壊し、世界は混沌に陥る。
統治機構への信頼が失われ、人々は自分の生存だけを考えて行動する「万人の万人に対する闘争」というホッブスの「自然状態」に逆戻りしてしまう。
気候毛沢東主義=中国の国家統制型資本主義
「1% vs 99%」という貧富の格差による対立を緩和しながら、トップダウン型の気候変動対策をすることになるだろう。
そこでは、自由市場や自由民主主義の理念を捨てて、中央集権的な独裁国家が成立し、より「効率の良い」、「平等主義的な」気候変動対策を進める可能性がある。これを「気候毛沢東主義」と呼ぼう。
EX.コロナにおいてロシアや中国では強制的にコントロールすることができる。ワクチンを強制的に接種させることもできる。
X(エックス)
専制的な国家主義にも「野蛮主義」にも抗する試みもあるはずだ。強い国家に依存しないで、民主主義的な相互扶助の実践を、人々が自発的に展開し、気候危機に取り組む可能性がないわけではない。それが構成で、持続可能な未来社会のはずだ。まだその名をXとしておこう。
「反緊縮」と「経済成長」と「グリーン・ニューディール」
「脱成長 vs 経済成長」という人類の生存をめぐる対立は、「経済的に恵まれた団塊世代(70歳前後)」と「困窮する氷河期世代(30代後半〜40代後半)」との対立に矮小化されてしまった。「脱成長」は「緊縮」政策と結び付けられていった。
一方、そのような「団塊世代の脱成長論」へのアンチテーゼとして、「リフレ派」や「MMT(現代貨幣理論)」が世界で最先端の「反緊縮」思想として紹介され「就職氷河期世代の支持」を集めるようになった。
しかし、日本の「反緊縮」の議論に決定的に欠けてる視点がある。「気候変動問題」である。
「反緊縮」政策の目玉として、「グリーン・ニューディール」だった。
つまり、「気候変動対策」としての「インフラ改革」であり、「生産方法の変革」であった。
反緊縮という意味でMMTを支持しながら、グリーン・ニューディールで経済成長を目指し、オンライン化、デジタル化で豊かな生活を送る。
資本主義を批判するZ世代(10代〜20代後半)
サンダースらの「左派ポピュリズム」を支えたのは、日本の反緊縮を唱えている人々より若いミレニアル世代(20代前半〜30代後半)やZ世代(10代〜20代後半)である。
そして、彼らのはっきりとした特徴は、環境意識が極めて高く、資本主義に批判的だということだ。「ジェネレーション・レフト(左翼世代)」と呼ばれているほどだ。
EX.2020年11月アメリカ大統領選で左派寄りのジョー・バイデンが勝利。
実際、アメリカのZ世代の半分以上が資本主義より社会主義に肯定的な見方を抱いている。
1990年代後半から2000年代に生まれたZ世代はデジタル・ネイティブであり、最新のテクノロジーを自由に操りながら、世界中の仲間とつながっている。これが、グローバル市民としての感覚を育てている。
若い世代は、新自由主義が規制緩和や民営化を推し進めてきた結果、格差や環境破壊が一層深刻化していく様を体感しながら育った。
Z世代の象徴的な人物「グレタ・トゥーンベリ(スウェーデンの環境活動家)」
アメリカで台頭する極左団体「アンティファ」
アンティファ(英語: Antifa、[ænˈtiːfə, ˈæntiˌfɑː])米国の反ファシストと左翼の政治運動である
アメリカで台頭する極右組織「プラウド・ボーイズ(Proud Boys)」
プラウド・ボーイズ(Proud Boys)は、政治暴力を推進し、極右、ネオ・ファシズムで特徴付けられる男性限定フラタニティ組織である。アメリカを拠点とし、オーストラリア、カナダ、イギリスにも拠点を置いている。
過去の日本の左翼テロ組織日本赤軍(にほんせきぐん、英語: Japanese Red Army)は、1971年から2001年まで存在した日本の新左翼系の国際極左テロ組織。
重信 房子(しげのぶ ふさこ、1945年9月28日 - )は、日本の新左翼活動家、テロリスト、革命家。元赤軍派中央委員、日本赤軍の元最高幹部である。ハーグ事件の共謀共同正犯として有罪となり、懲役20年の判決を受けた。現在、東日本成人矯正医療センターにて服役中。
連合赤軍(れんごうせきぐん)は、1971年から1972年にかけて活動した日本の極左テロ組織、新左翼組織の1つ。共産主義者同盟赤軍派(赤軍派)と日本共産党(革命左派)神奈川県委員会(京浜安保共闘)が合流して結成された。山岳ベース事件、あさま山荘事件などの殺人事件、リンチ殺人を起こした。
トランプ、バイデンの政策(20/10/31 日経)
政権交代なら地殻変動が避けられないのが、エネルギー業界だ。
トランプ氏は地球温暖化防止の国際的枠組みパリ協定から離脱し、支持基盤である石油・石炭産業を後押ししてきた。米国の原油生産量はトランプ氏就任後に4割伸び、今ではサウジアラビアを抜いて世界首位。世界のエネルギー覇権を握ることへの野望を隠さない。
かたやバイデン氏は環境保護を政策の柱に据え、クリーンエネルギーの振興とインフラ整備に4年で2兆ドル(約210兆円)を投じる方針だ。パリ協定に復帰し、電力部門で2035年までに二酸化炭素(CO2)排出ゼロをめざす公約を掲げる。連邦政府が管理する土地でシェール開発のフラッキング(水圧破砕法)も禁止する。
石油業界ではバイデン政権への危機感は強い。テキサス州のシェール企業幹部は「中長期の業況悪化は避けられない」と懸念する。
この4年間、トランプ氏は自動車の環境規制でも世界の流れと逆行してきた。オバマ前政権が制定した排出ガス規制を19年から20年にかけ大幅に緩和。環境技術で日欧勢に劣る米国メーカーを援護してきた。安いガソリン価格と相まって、米市場ではピックアップトラックなど大型車シフトが進んだ。
バイデン氏は電気自動車(EV)などの普及に4000億ドルの予算を用意し、ガソリン車からの買い替えを促すプログラムを掲げる。全米に50万台の充電設備を配置し、10年間で米新車販売の3.7年分に相当する6300万台のガソリン車を削減する計画だ。
補助対象は部品を含め米国で生産するEVなどに限られ、日本メーカーが得意とするハイブリッド車は含まれない。テスラやEVシフトを進めるゼネラル・モーターズ(GM)などが恩恵を受ける。
一方、日本メーカーはテネシー州でEV「リーフ」を生産する日産自動車を除き、米国にEVの生産設備を持たない。トヨタ自動車などは開発・生産計画の修正を迫られそうだ。ホンダが北米でのEV展開でGMと組んだように合従連衡の呼び水になる可能性もある。
法人税の行方も焦点だ。トランプ氏は17年に法人税率を35%から21%に引き下げた。続投なら米国で事業を手がける企業に恩恵が続く。かたやバイデン氏は法人税率を28%に引き上げると表明している。アマゾン・ドット・コムなど高収益企業による課税回避を制限するため、大手企業の純利益の最低15%を課税する「ミニマム税」も導入する。これにより10年で4000億ドルの税収増を見込んでおり、ペンシルベニア大の推計では増税分の75%をIT企業が負担することになる。
通商政策では選挙結果によらず対中強硬策が続きそうだ。中国を巡りバイデン氏も「米国民や企業への圧力には制裁を科すべきだ」と主張。トランプ政権が18~19年に発動した計3600億ドルの中国への制裁関税も当面維持されるとみられる。
トランプ政権が実施した環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱や米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の通商ルールはバイデン政権に変わったとしても維持される見込みだ。
バイデン氏はオバマ前政権時代に推進したTPPについて再交渉を求めている。対米投資の拡大を条件に掲げており、すぐにTPP加盟に動く可能性は低い。一方、欧州や日本を含む同盟国にも課された鉄鋼・アルミニウム関税は早期に撤廃されるとの見方が強い。トランプ政権下で増産に転じた米鉄鋼業界への追い風がやむ。
菅首相の脱炭素宣言、水素社会に移行の好機(日経 20/11/02)
菅義偉(すがよしひで)首相が10月26日の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。昨年12月に就任した欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長は50年までに域内で排出する温暖化ガスを実質ゼロにする「欧州グリーンディール」を掲げている。日本は先を越されたが、21年改定の次期エネルギー基本計画が、太陽光や風力など再生可能エネルギーを主力電源と定めるのは必至だ。
エネルギー戦略研究所の山家公雄所長は「風力や太陽光の普及で電力分野の脱炭素化は見えてきた。次は交通・物流分野だ」と話す。航空機やトラック、船舶に使う化石燃料はいずれ水素に切り替わる。欧州エアバスは9月、水素を燃料とする航空機を35年までに事業化すると発表した。大量の二酸化炭素(CO2)を排出し、環境活動家のグレタ・トゥンベリさんが「飛び恥」と酷評した航空機は脱炭素を果たす。
エネルギー業界では水素を製法別で色分けする。現在主流の化石燃料から作る水素は「グレー」で、この製造過程で生じるCO2を回収・貯蔵すれば「ブルー」になる。再生エネで水を電気分解して作れば「グリーン」だ。ただ、再生エネは天候次第で出力が変動し、水素社会に不可欠のグリーン水素を安定的に供給できるか心もとない。
欧州の再生エネ事情に詳しいシンクタンク、テクノバの丸田昭輝グループマネージャーは「ドイツは50年までに再生エネ設備を電力の実需要をはるかに上回る水準まで増設して常にあふれさせ、安い余剰電力でグリーン水素を作って乗り切る」と説明する。これだと再生エネ電力の出力過不足は起きない。割安で潤沢な余剰電力で作ったグリーン水素を安く安定供給できる。天然ガス用パイプラインの一部を水素用に転換する準備も進む。地政学的リスクを抱えるロシア・中東産の天然ガスへの依存が減り、エネルギー安全保障面でもプラスに働く。
菅首相は所信表明で「成長戦略の柱に経済と環境の好循環」を掲げた。イノベーションと規制緩和がこれを後押しする。「高温水蒸気電解」は高温の水蒸気を電気分解し、効率的に水素を作る技術。エネルギー総合工学研究所の松井一秋研究顧問は「この電源と熱源に原子力発電所が使える。原発が出す300度の熱でも効率は上がる」と説く。製造過程でCO2が出ないグリーン水素ができる。
水素エネルギー協会の坂田興会長は「火力発電所のガスタービンで天然ガスと水素を混ぜて燃やせばCO2は大きく減る。水素を縛る高圧ガス保安法などの緩和も有効だ」と話す。水素は金属や様々な素材の強度を損なう性質がある。日本のお家芸である炭素繊維や化学材料の出番だ。
岩谷産業を創業した岩谷直治氏は1941年に油脂メーカーの余剰水素販売を手掛けた先駆者。同社の間島寛社長は「化石燃料はC(炭素)が少ないほど環境に優しく、最後はCがなくなって水素になる。岩谷グループの存立はそこにかかっている」と語る。欧州だけでなく、日本にも水素社会に移行できる技術があり、プレーヤーがいる。
脱炭素へ税優遇 政府・与党
再生エネ製品の設備投資 研究開発支援で基金も
(日経 20/11/13)
2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標に向け、政府・与党が検討する政策が判明した。温暖化ガスの削減につながる製品の生産設備への投資に優遇税制を導入し、研究開発を支援する基金も創設する。世界は環境を巡る大競争に突入している。日本も国を挙げて技術革新や「グリーン投資」を推進して次世代の成長につなげる。
菅義偉首相は10月に温暖化ガスの実質ゼロ目標を表明し、関係省庁に対策の検討を指示した。政府・与党は年末にまとめる21年度税制改正大綱や20年度第3次補正予算案などに盛り込む。
日本は20世紀には省エネや電池の技術で先行し、環境先進国だった。21世紀に入り環境目標の設定で出遅れ、企業も競争力を失った。いまは太陽電池の世界トップ3は中国勢で、洋上などで拡大が見込まれる風力発電機も上位は海外勢だ。
環境対応は世界的な潮流のため、日本企業も改革を求められる。首相は環境を「成長の柱」と位置づけ、再生可能エネルギーなどの技術革新や投資を促し、次世代産業の育成を支援する方針だ。
税制面の柱は生産設備の増強への減税だ。企業が風力発電機などを製造する設備に投資すると、一定割合を法人税から税額控除する。控除の割合と対象は年末までに決める。3分野が候補だ。
風力発電機を巡っては、欧州では電源に占める風力の割合が15%に達しているため製造企業が育っている。日本は1%未満しかなく、風車の製造から撤退する企業も出ている。生産体制の増強を促し、風力発電の普及と日本企業の競争力向上をはかる。
電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の動力に使う次世代型リチウムイオン電池も対象にする見込みだ。従来型のガソリン車からEVなどへの切り替えを進めるには、電池価格の引き下げが課題だ。一層の大量生産ができればEVなどの価格も下がる。
リチウムイオン電池は送配電網と連携して電力需給を制御する際の蓄電池にも使える。自然条件などで電力供給が大きく変化する再生エネの拡大には蓄電池の高度化が必要でこうした電池も対象になる可能性がある。
電圧の制御に使うパワー半導体も念頭にある。制御機器や産業機械、家電まで幅広く搭載され、省電力化に直結する。
脱炭素に向けた中長期の投資方針を示した計画を策定した企業には税負担軽減を検討する。計画は国の承認を受けることが条件になる。税務上の赤字を繰り越し、翌期以降の黒字と相殺する「繰越欠損金控除」を拡充して法人税額を減らす案がある。来年の通常国会に提出する産業競争力強化法改正案に盛り込む。
予算面では企業や大学、研究機関の再生エネ・省エネに関する研究開発を支援する基金を新設する。水素、蓄電池、カーボンリサイクル、洋上風力など広範に研究開発を支援する。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じて複数年にわたって資金を出す仕組みが浮上している。20年度第3次補正予算案で1兆円を計上するよう求める声がある。
首相「脱炭素社会へ支援」
ASEAN首脳会議で
(日経 20/11/13)
菅義偉首相は12日、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国首脳とのテレビ会議に臨んだ。「アジア各国の事情に即した現実的で持続可能な脱炭素化の取り組みを支援する」と述べた。国際会議で「2050年までに温暖化ガス排出を全体としてゼロにする」と改めて表明した。
首相は「自由で開かれたインド太平洋」に関し、ASEANとの連携を重視する考えを伝えた。中国の海洋進出を念頭に東・南シナ海の現状や香港情勢に懸念を示した。ASEAN側も複数の国が南シナ海情勢を取り上げた。
地球温暖化を巡って首相は「ASEANの協力を重視している」と指摘し、各国の温暖化対策を支援する意向を示した。「イノベーションを通じて経済と環境の好循環を加速する」と話した。
「日ASEAN連結性イニシアチブ」と題した支援策を説明。ASEAN地域のインフラ整備に関し、3年間で1千人の人材育成を進める。物流や人の往来を促す総額2兆円の事業に関与する。
グリーン投資 環境配慮、各国が競う
(日経 20/11/13)
▽…環境に配慮した経済活動への投資を指す。菅義偉首相は10月の所信表明演説で2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標を示した。「規制改革などの政策を総動員し、グリーン投資のさらなる普及を進める」と主張した。目標達成には次世代技術などへの投資が欠かせない。
▽…欧米などもグリーン投資に力を入れる。米大統領選で当選を確実にした民主党のバイデン前副大統領は4年間で2兆ドル(約207兆円)規模の環境インフラ投資を掲げた。韓国は25年までの5年間で「グリーンニューディール」に73兆4千億ウォン(約7兆円)を投じる計画を明らかにした。
▽…欧州連合(EU)は21~27年の約1兆8千億ユーロ(約220兆円)の中期予算案の3割を気候変動対策に充てる。ドイツは経済基盤を強化するための500億ユーロの景気刺激策を打ち出し、電気自動車の購入補助などグリーン分野を軸に据えた。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ経済を再生させるため、世界各国・地域が環境と経済成長の好循環を競う。
EVモーター 欧州に新工場
日本電産、2000億円投資
(日経 20/11/02)
日本電産は約2千億円を投じて欧州のセルビアに電気自動車(EV)用駆動モーターの工場を設ける。2023年をメドに年20万~30万台を生産し、同社にとって欧州は中国に次ぐEV用モーターの拠点となる。欧州連合(EU)は日本に先駆け、50年までに温暖化ガス排出を実質ゼロとする目標を設定した。脱ガソリン車政策も進み、EV需要が増えている。完成車から電池素材のメーカーまで、環境規制が関連投資を呼びこんでいる。
研究開発拠点とあわせて新設する方向で現地当局などと最終的な調整をしているもようだ。フランスとポーランドでも22年以降、同モーターの生産を始める計画で、セルビアは欧州で最大級の生産拠点となる。
日本電産はこれまでEV産業の育成を急ぐ中国での事業拡大に力を入れてきた。19年には浙江省(せっこうしょう)でEV用駆動モーターにインバーターやギアなどを組み合わせたシステム製品の量産を開始。広州汽車集団系や吉利汽車系など大手自動車会社からの受注を増やしている。
今回投資を決めた欧州も、いまやEVやプラグインハイブリッド車(PHV)の販売では中国と並ぶ最大市場だ。欧州自動車工業会(ACEA)によると、EUに英国などを含めた欧州の20年1~6月のEV・PHV販売台数は前年同期比62%増の39万9千台だった。
背景には環境規制の強化がある。EUは20年、21年と段階的に新しい二酸化炭素(CO2)排出規制を導入する。乗用車の新車が出す走行1キロメートルあたりのCO2を平均95グラム以下に抑えることを義務付けており、自動車各社は巨額の罰金を避けるため電動車比率の引き上げを急いでいる。25年と30年には規制が一段と強化されることが決まっている。欧州委員会は30年の規制をさらに強化することも検討しており、独フォルクスワーゲン(VW)や同ダイムラーはEV車種を増やしている。米テスラも21年をメドにドイツで欧州初のEV工場を新設する計画だ。
EV需要の拡大をにらみ、海外の車載電池メーカーの欧州進出も相次ぐ。既にLG化学やサムスンSDIなど韓国勢が東欧に工場を持ち、中国勢も続く。寧徳時代新能源科技(CATL)はドイツ中部チューリンゲン州に新工場を建設中だ。22年までに年間14ギガワット時の電池セルを生産する。日本勢では東レが22年までにハンガリーでリチウムイオン電池の基幹部材であるセパレーターの新工場を稼働させる。同電池の負極材向けの接着剤をつくる日本ゼオンも欧州生産を検討している。
日本はハイブリッド車(HV)では先行したものの、主要国と比べて電動化への政策対応が進んでいない。日本が環境政策の見直しで遅れればエコカーを巡る投資も進まない恐れがある。
BMWもEVファースト
旗艦車「iX」来年に発売 600キロ走行の大型SUV(日経 20/11/12)
【フランクフルト=深尾幸生】独BMWが電気自動車(EV)重視の姿勢を鮮明にしている。11日、新しい旗艦車種として開発を進めてきたEV「iX」を発表した。同社はEVの先駆的存在だったが、現在は米テスラなどに押されており、巻き返しを図る。これまではガソリン車などと共通だった車台もEV向けの開発に着手し、EVにアクセルを踏み込む。
25年以降はさらにEVへの傾斜を強める。このほど同社初のEV向け車台の開発を始め、25年にもハンガリーの工場で同車台を使った車種を生産開始する。ツィプセ社長は「25年以降EVの需要は急増する。BMWの変革の第3段階に入る最適なタイミングだ」と強調、今後10年間で累計460万台以上のEVを販売する計画を掲げた。
中国新車、自動運転5割に
25年国家目標 バイドゥ(百度)やディディ(滴滴)、開発加速(日経 20/11/12)
独VW、新技術に5年間で9兆円EVやデジタル化、投資上積み(日経 20/11/14)
【フランクフルト=深尾幸生】独フォルクスワーゲン(VW)は13日、電気自動車(EV)やデジタル化などの次世代技術に2021~25年の5年間で730億ユーロ(約9兆700億円)を投資すると発表した。1年前に発表した20~24年の計画は600億ユーロだった。一段とEVなどへの傾斜を強める。
首相とバイデン氏「尖閣に安保適用」確認 電話協議
首相「訪米は早期に」(日経 20/11/12)
菅義偉首相は12日午前、米大統領選で当選を確実にした民主党のバイデン前副大統領と電話で15分間協議した。新型コロナウイルス対策や気候変動問題など国際社会共通の課題で連携していくことで一致した。日本防衛の義務を定めた日米安全保障条約5条が沖縄県・尖閣諸島の防衛に適用されることも確認した。
首相は日米同盟に関し「厳しさを増す日本周辺地域、国際社会の平和と繁栄にとって不可欠で、一層の強化が必要だ」と強調した。
バイデン氏の政権移行チームによると、バイデン氏は「新たな分野で日米同盟を強化したい」と答え、協力拡大に意欲をみせた。
日米安保条約5条の尖閣防衛への適用についても「深くコミットする」と確約した。日本側の説明ではバイデン氏側から言及したという。
首相は大統領選を踏まえ、バイデン氏に祝意を直接伝えた。2021年1月20日の大統領就任式後の2月ごろをめざす自らの訪米では「できる限り早い時期に一緒に会おう」との考えを共有した。
首相は日米が主導する「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて「ともに連携していきたい」と呼びかけた。北朝鮮による日本人拉致問題への協力も要請した。
首相は協議後、首相官邸で記者団に「バイデン氏とともに日米同盟の強化に向けた取り組みを進めていくうえで大変有意義だった」と語った。
日米安保条約5条を巡っては14年に来日した当時のオバマ大統領が、米大統領として初めて尖閣防衛への適用を明言した。
4年前の大統領選で同盟関係の見直しを訴えていたトランプ大統領の場合、立場を明らかにしたのは就任後の17年2月、当時の安倍晋三首相との初の首脳会談の際だった。
脱炭素分野での協調を念頭に、首相は50年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする新たな目標を掲げる。バイデン氏は大統領選を通じ、トランプ氏が離脱を決めた地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰を公約としてきた。
新型コロナへの対応では、バイデン氏は専門家による対策チームに行動計画づくりを求め、政権発足と同時に実行に移すと表明した。首相も予防ワクチンの開発や確保などで歩調を合わせる。
首相はバイデン氏との個人的な信頼関係を築くため、訪米時の首脳会談に向けた準備を進める。南シナ海や東シナ海での中国の海洋進出や、北朝鮮の核・ミサイル開発への対処についても認識を擦り合わせていく。
日本側は米中対立が続くなかで、バイデン氏が中国にどのような姿勢で臨むかを注視する。
バイデン氏は9日にカナダのトルドー首相と、10日に英国のジョンソン首相やドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領ら欧州の首脳と相次いで電話で話し合った。トランプ政権下で揺らいだ米欧関係の修復を外交の最優先課題に位置づける姿勢がうかがえる。
>> 人新世の資本論 まとめ 3 へ続く