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アジア系人種のアメリカでの苦労と歪みと日本人に意味する事
こんにちは。6月に早くも突入してしまった2024年ですが、アメリカでは5月はアジア系およびハワイ・太平洋諸島系の人々の歴史と文化的貢献を称えるための月間としてAANHPI Heritage Month (アジア・太平洋諸島系アメリカ人文化遺産月間) が政府によって制定されています。
この制定においては様々な背景はあるのですが、実は日本人もこの制定において大きなかかわりを持っています。5月が当月間に選ばれた理由としてはアジア系アメリカ人の歴史において重要な2つの出来事があります。一つ目は1843年5月7日に初めて日本からの移民がアメリカに到着した事、二つ目は1869年5月10日、中国からの移民の多大な貢献によってアメリカ大陸を横断する鉄道が開通したことです。
私は自社においてアジア人のERG (Employee Resource Group)という多様性の促進や特定グループの従業員のエンゲージメント向上などを目的とした団体のリーダーをしている事もあり、5月を通じて色々なアジア系のリーダーやプロフェッショナルとお会いする機会を頂いたのですが、アジア系アメリカ人が直面してきた課題は、日本人がアメリカで挑戦する際にも言語の壁を乗り越えた後に避けては通れないものなので本記事において纏めようと思った次第です。
バンブー・シーリング(Bamboo Ceiling)
アジア系のコミュニティでどこへ行っても常に話されるトピックが「バンブー・シーリング(Bamboo Ceiling)」です。これは、アジア系アメリカ人、特に東アジア系(日本人、中国人、韓国人など)が、アメリカの企業組織で昇進する際に直面する見えない障壁のことを指しており、アジア系アメリカ人が努力しても一定の地位を超えられない状況を表しています。
理由としてよく語られるのは以下の様なものがあります:
アジア系の謙虚で控えめな態度がアメリカで求められるリーダーシップと合わず、リーダーシップを取る機会が回ってこない
自己主張が強くないアジア的価値観を持っていると米国の企業では埋もれてしまう
人種的偏見や固定観念により、アジア人の能力が理由無しに過小評価される事がある
これは正直本当にそうで、特に英語がそもそも苦手な日本人となるとこの壁を乗り越えるには血の滲む努力が必要だなと日々感じています。
以前の記事にも書いたのですが、この課題はアメリカで生まれ育ったアジア系アメリカ人ですら苦労しているトピックです。先日、Microsoft社のアジア人ERGがNASDAQのOpening Bellを鳴らした後にNYベースの他の会社のアジア系ERGリーダーを招待してアジア系リーダー同トピックについてのパネルを実施していたのですが、驚くほどに「こういうアジア人の価値観は捨てないといけない」という事に焦点を当てたセッションとなっていました。「こういうアジア人としての価値観や特徴はキープしよう」というポジティブな発言がかなり少なく、かなりアジア系アメリカ人の中の歪みと苦悩を垣間見た感覚がありました。
アジア系リーダーから学ぶバンブー・シーリングの越え方
同パネルセッションの内容が個人的に非常に勉強になったため、以下キーポイントをシェアします。パネリストも豪華で以下の3名が登壇されていました。
パネリスト
カーティス・リー(Head of Global Payments at Microsoft):昨年5,000億ドルの取引を監督したマイクロソフトのグローバルペイメント部門責任者。20年以上のキャリアの中で、投資銀行、PE、VC、グーグルやジンガでのプロダクトマネジメント等の多岐に渡る経験を持つ。その後はボルボに売却されたLuxeを創業し、その後Pinwheelを創業後、マイクロソフトに2年前に参画。ロサンゼルスで生まれ育ち、大学からベイエリアで合計で20年間過ごす。
アンジー・ルアン(CTO of the Capital Access Platform at Nasdaq):ナスダックのキャピタルアクセスプラットフォームのCTO。彼女のキャリアは、プロフェッショナルな目標と家族の責任、文化的な遺産のバランスを取ることに重点を置いています。中国出身の移民で、アジア人の価値観の良い所とアメリカで求められるコミュニケーションスキルの両立を重要視。
ジア・ヒュン(VP, Head of Strategic Accounts, LinkedIn Marketing Solutions at LinkedIn):LinkedInのマーケティングソリューションズ部門で戦略的アカウントの責任者を務めるVice President。彼女はチームの繁栄と可視性に焦点を当て、LinkedInでのアジア人ERGであるLIAAを立ち上げ、女性ERGのエグゼクティブスポンサーとしても活動してきました。
パネルセッション内容
パネルセッションで共有されていたメッセージは幾つかあったのですが、特に印象に残った点をこちらで記せればと思います。
1. アジア系の価値観のキャリアへのネガティブな影響
アジア系の価値観(謙虚さ、歳上への尊敬、家族からの期待)は、リーダーシップやキャリアを進める上で邪魔となる事がある。過度な謙虚さや控えめな態度は、社内ステークホルダーから自身の仕事の成果に対して認識してもらう機会を逃す事に繋がり、昇進を妨げることがある。また、社会や家族からの期待値に応えようとするあまり、起業などのリスクを取る事に対して必要以上に抵抗感を覚えてしまう事もある。
2. 成果をアピールする事の重要性
以上の課題を克服するためには社内のステークホルダーが誰であるかを明確化し、そこに対して定期的に意識して報告する機会を作る事が肝要である。自分にスポットライトを当てる事はアジア人の感覚からするとあまり気が乗らないが、これはやらなければいけない事である。
成功する為には自己主張による評価の獲得が重要であり、ステレオタイプを打破するためには積極的な自己表現が求められる。
これは社内だけには限らず、LinkedInやTwitterでの発信、ネットワークを拡大して業界でのブランドを確立する事も含む。
3. アジア系に対するステレオタイプの壊し方
アジア系に対するステレオタイプ(例えば、数学の天才や控えめな態度)は、キャリアにおいて障害となることがある。これを打破するためにはステレオタイプを理解し、戦略的にそのイメージを壊す行動を取る事が重要である。アジア人である自分どの様に見られているか、その上で自身はどの様に見られる必要があるか、埋めるギャップは何かを理解し、行動を変える。
リーダーの一人は具体的には声のトーンを強くする事や、自信に溢れて見える姿勢の習得等を通じて社会的期待を打ち破る方法を実践したとの事。
4. アジア系の価値観で戦略的に活用するべきもの
ただ、アジア系の価値観の幾つかは、キャリアにおいて強力な武器ともなり得る。詳細への拘り、共感性の高さ、仕事に対する高い倫理観とストイックさは高いパフォーマンスを出す上でキープするべき特徴である。
以上、意外と当たり前のことを言っている様にも聞こえますが、アメリカ人の自己主張の強さは本当に凄いです。アメリカでSUITSというドラマがありますが、あのドラマの様に、ニューヨークでは競争が本当に激しいですし、他人の蹴落とし方もかなりエグいものがあるなというのは自身も体感しました。
日本人としては特に謙虚さが邪魔して「なんかこいつ静かだし自信なさそうだな。適当にこいつの成果を上司に報告して俺のものにしとこ。」とアメリカ人に上手く使われる事は多々あると思います。ある意味自分の身は自分で守りましょう、その為には声を大きくアピールしましょうね、という事でしょう。
アジア系アメリカ人コミュニティにおける歪み
以上の様にアジア系アメリカ人の歩みから学べるものは非常に多いと思います。ただ、非常に歪んでいるなと思うのがアジア系アメリカ人でもアジア系の移民に対する差別をする事が少なからず存在するという事です。
アジア系アメリカ人は恐らく小さいころから少なからず白人や他人種より差別を受けてきた事もあり、「自分はアメリカ人だ」「自分は白人とも仲良くしている」というプライドがあり、アジア人でもアジア系移民に対して見下した発言をする人は意外といるなと思います。
正直、そういう発言をする人はトップの大学を出ている事はなく教育レベルでの相関があるのかなとは思うのですが、人種・民族を超えた移民に対する差別は確実にあるなと感じています。言ってしまうと「アメリカ人の私の方が最近移民として渡米したお前より優れている」という差別的思考が少なからずこの国にはあります。
こういう差別に対しては正直自身のトラックレコードや結果、ネットワークなどで黙らせるのが手っ取り速いのでしょうが、移民としてはかなり厳しい戦いでもあるのでアメリカでの結果で黙らせることが難しい場合は自国でのトラックレコードやネットワークをレバレッジした方が良いのだろうなと思っています。
終わりに:日本人・日系アメリカ人に意味すること
最近日本の話を聞くとかなりネガティブなトーンの方が多いなと感じます。ただ、正直アメリカにいて、情報格差はあるけれど特段日本人よりアメリカ人の方が優秀だなと思った事は正直そこまでありません。
寧ろ日本人が海外で戦うためには、当然言語力は必要ですが、その上で以上の様な課題をいかに粘り強く克服してこちらのコミュニティに入り込んでいけるかが大事なのかなと思っています。特に粘り強く、というのが大切で結構メンタル削られますが、折れない、諦めずに続ける事が大切だと思います。
自身のフィールドで言うと以上に書いてある通りもっとリスクを取ってスタートアップなどに挑戦する文化の醸成による起業家の数を増やす事も必要ですし、上品な日本人のおしとやかさも私は正直とても好きなのですがアメリカ人と戦う時は一旦それを捨ててこれでもかという程に自己アピールしてく事が大切だなと感じています。
日本人にとっての海外で勝つ為のベストプラクティスはまだ確立されていないので、個人としても後の世代でアメリカに挑戦する日本人の方々に向けて形式知化する事に少しでも貢献できればと思っています。
また、アメリカにいて感じるのは、日本人という民族で見ても、意外と日系アメリカ人と日本人移民が交わる機会は少ないなという事です。特に日系アメリカ人の2世、3世となっていくと日本人としてのアイデンティティも薄れていきますし、第二次世界大戦中・後のアメリカにおける日本人に対する迫害によって日本人である事を後ろめたく感じている世代も存在していたので日系アメリカ人同士のコミュニティもそこまで大きく無いというのが事実です。また、そのコミュニティと日本人移民が交わるコミュニティとなると、ここは全く確立されていないなと強く感じます。
この2つのコミュニティを繋げるには両方の文化を深く理解する必要がありますが、このコミュニティを確立する事で日本人移民としても日系アメリカ人からアメリカで戦う上でのTipsを学べますし、企業観点で見ても海外進出時にサポートしてくれる方々としてかなり頼りになるのではないかと感じています。個人的にここの垣根を壊す為にニューヨークで日本人移民、日系アメリカ人、日本に住んだことのある非日本人の方など日本にルーツがある人を集めてイベント・コミュニティ作りをしているので、その方々のストーリーも今後Podcastなどでシェア出来ればと思います。
また、今後このイベント実施していく際にスポンサー頂ける方、企業様も探しております。参加者の方もアメリカトップスクール出身の方や現地テック、戦略コンサル、投資銀行、VC勤務の方や起業家の方など非常に優秀な方ばかりだったので是非このコミュニティを広げて行く事、このコミュニティの方の経験や知識を発信して形式知化して行く事の価値に共感頂ける方は是非ご連絡頂ければ大変嬉しいです。
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少しアメリカの若干生々しいリアルの共有となりましたが、個人的にはこれを踏まえてもアメリカで戦うロマンは存分にあると思います。以下のSnowflakeのCEOを最近辞任したFrank Slootmanのコメントは個人的に何故移民がアメリカンドリームを追求するのかを良く表していると思います。
"I would be remiss to not acknowledge my adopted home country of the United States. A career like mine can only happen in America, period, and I thank my good fortune for wandering over here as a young man." - Frank Slootman
日本語訳:「私の第二の母国である米国の素晴らしさを認めないとしたら、それは不注意としか言えないだろう。私のようなキャリアはアメリカでしか実現出来ない、これに尽きる。若くしてこの国に迷い込んだ自分の多大なる運の良さに感謝している。」
海外で戦っている人やこれから海外で戦う事を考えている方もいらっしゃると思うので、そんな挑戦をして行く方の参考になれば幸いです。