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手品の現象分類について考える
「手品の現象にはこのようなものがあります」という、マジックの現象を分類した一覧を見たことがある人もいるかと思います。
フィツキーの現象分類
フィツキーという人も『The Trick Brain(1944)』という本の中で現象をこまかく分類しています。書き出してみます。
【出現、消失、移動、変化、貫通、復活、ものが動く、重力に逆らう、くっつく、同調する、傷つかない、人体におこる不思議、簡単なことができなくなる、精神で何かをあやつる、当てる、読心、精神感応、予知、超能力】
これからヒントを得たのか別に考えたのか、高木重朗さんが現象を10ぐらいにまとめた分類も見たことがありますが、フィツキーのこれはなかなか細い。いっけん、ほとんどの現象が網羅されているような気がします。しかし、本当でしょうか?
現象ってなんだ?
その前に、ここでいう「現象」って、いったいなんなのでしょう。たぶん、本当に起こっていることではなくて、演者が表現しようとしていることを「現象」と呼ぶのだと思いますが、ちょっと問題というか疑問があります。
こんな演技があったとします。
「左手に持ったコインが消える。次に、右手で宙をつかむとコインが現れる」
方法は、右手のコインを左手にフェイクパスして消えたように見せ、右手にパームしていたコインを出したものとします。
次の二人の演者が上記の現象を行いましたが、二人は違う現象を演じたと主張しています。
A氏:「コインの消失と出現というふたつの現象を演じました」
B氏:「コインが左手から右手に移動した現象を演じました」
たしかに、演者の表現方法のちょっとした違いにより、A氏のものは「消失」と「出現」、そしてB氏のものは「移動」という、3種の現象がおきていて、現象の分類もできていると思われます。
この辺まではなんとなくいい感じに分類できたと思いますが、では、C氏が同じことを行って、つぎのような現象を主張したとしたらどうでしょう。
C氏:「最初にコインが右手にあった時間にまで、時をさかのぼらせました」
うーむ、こうなると、現象分類のひとつに「時間遡行」という項目を入れることにしないといけないのでしょうか?
「いやいや、それは演出なのであって、現象は移動でしょう」という人もいるかもしれません……「おや、移動じゃなくて、消失と出現かな? うーむ、どうしたものか……」と考えているところにD氏が現れます。
D氏:「コインを左手の皮膚に貫通させて体の中を通して、右手の皮膚から取り出す貫通現象を行いました」
いろんなことを言う人がいるものです。
演技者が主張することが「現象」というのであれば、もっといろいろな現象が現れそうです。
E氏:「コインを見えない状態に変えて、その間にどうどうと投げ移したのです。これはインビジブル化という現象です」
F氏:「コインを分子レベルに細かくして移動させました。分子化現象です」
G氏:「左手に渡したように見えたのは催眠術を使ったので、最初から右手にありました。催眠現象です」
まだまだ現象は出てくるかもしれません。
ここまでくると、それって全部演出じゃないの?と言いたくなる人もでてくるでしょう。
何を言いたいのかというと、現象を分類するときには、何のために分類をするのかを先にちゃんと考えておかないとならないと思うのです。単純に「いままでにどんなトリックがあるのか分類してみたい」というぐらいの漠然とした考えでは、迷路に入ること間違いなしだと思うのです。
現象分類を創作に使う
ところで、この現象分類を見ていて、これを創作手法として利用する方法を考えたことがあります。それは「これまでの現象分類を見て、そこに入らない現象を考える」というものです。
これは面白いですよ。新しいマジックが考えられるかもしれません。
試しに、フィツキーの分類の中にないもので、すでにあるマジックを考えてみましょう。
霊を呼び出す
触ってないのに、触れられた感じがする
グラスを破壊する
演者が失敗し、観客だけが成功する
軽いものが持ち上がらない
現象が網羅されていると思われましたが、まだまだ出てくるような気がします。
なお、「『グラスを破壊する』なんていう現象は『変化』でいいんじゃないの」という方もいるかもしれませんが、創作する上においては、むりやり分類の中に押し込める行為は、あまりいいことが起こらない気がします。逆に、積極的に開発手法として分類を活用するならば「最初に決めたいくつかの分類に集約するのではなく、現象が制限なく増えていく発散型の分類方法を考える」というものがあります。
いままであるマジックの現象を分類するだけでなく新しい現象にまで思いを馳せる「創作のための『発散型の現象分類方法』とはなにか」については、また別の機会に。
続きはこちら。『マジック創作に利用できる現象分類法』
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