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台湾の雑踏の中①嘉義のお嬢さん

2022年9月から2023年9月まで1年間台湾に語学留学をしている間に台湾の街中で出会った思い出深い人たちを忘れないうちに記録しておこうと思う。

2022年10月14日高鐵台北行き

その日は翌日からの台湾心理学会に参加するため、高雄の左營駅から台北駅まで高鐵で移動していた。左營駅でミスドと構内のセブンでコーヒーを買って乗り込むのが私の高鐵スタイル。早めに予約したチケットは割安のチケットで3列シートの真ん中が私の座席で、途中嘉義で通路側に女の子が乗ってきた。彼女は白っぽいスウェット地のぽてっと大きいパーカーを着て、眼鏡をかけて、台湾の女の子らしく前髪にカーラーをつけたままという出で立ち。私は寝たり起きたりを繰り返していたが、台中辺りで彼女がコンタクトレンズを自分の目に入れ始めてちょっとぎょっとした。ジェネレーションギャップだろうか。私自身コンタクトレンズを使用するが鏡を見ないと入れられない。

金曜日の夕方の便だったこともあり、みるみるうちに満席になった。隣の席の彼女は大きな白いスーツケースを自分の側に寄せた。そしてふと私に話しかけてくる。だけど台湾華語を声に出し始めて1か月、彼女の言葉が聞き取れない。
「我是日本人(日本人なんです)」
とようよう言った。彼女ははっと目を大きく見開いた。その時初めて彼女の顔を正面からまともに見たが、なんだか野球のチアリーダーにでもいそうな、小動物のようなかわいい顔立ちだった。彼女は自分の荷物が大きいから降りるときに邪魔にならないかと不安になったようで、私に「どこの駅まで行くのか」尋ねたようだ。この当時、コロナウィルスの防疫があり、自由に渡航はできなかったから、どうして台湾にいるのか私に聞いてきた。私が「台湾華語を勉強しに台湾に来た」というと、ゆっくりわかりやすく話してくれた。

「台湾で旅行に行くなら花蓮と台東は外せない。」
「新北のクリスマスイルミネーションに行くといい。」
「高雄に住んでいるんだったら夢時代(というショッピングモール)に行くべき。」
ということをにこにことしゃべり続ける。おもむろに
「あ、私、日本に行ったことある」
と写真を見せてくれた。その写真は何とくまモン。そう、私の住んでいる熊本を含めた九州に高校生の時部活動の一環で行ったそうだ。私熊本から来たよというと、長崎のハウステンボスにも行ったと旅程を細やかに教えてくれた。

「台湾のどこに行ったことがある?どの場所が好き?」
そんな風にも聞いてくれて。私はその時嘉義が一番好きだったから嘉義が好きだよと伝えた。
「私、嘉義の出身なの。今は大学で台北に住んでるけど」
とまたあの目をキラキラとさせて私に顔を寄せてきて、こうささやく。
「私ね、台湾語がしゃべれる」
と言ってちょっとドヤ顔を見せてくれる。台湾語はその音が難しく、台湾人であってもしゃべれない若者は多いと聞く。でも、あまりに自信満々な顔なので、思わずほほが緩んでしまう。彼女は高鐵の台湾語を教えてくれた。この単語に関しては、音は台湾華語にちょっと似てるけど、最後のピタッと止まる感じが難しくて、何回も言い直してようやく彼女から合格をもらう。

そんな風に私たちは1時間ほど高鐵の中で話に花を咲かせた後、台北駅で別れた。私の2分の1くらいの年齢の彼女。名前も知らないけど、かわいくて優しくて、そして台湾語がしゃべれる大学生。私あの後、台湾語はだめだけど、それなりに台湾華語がしゃべれるようになったよ。新北のクリスマスイルミネーションにはいってないけど、台東と花蓮と夢時代には行ったよ。あの日、語学中心で私は、いつものようにクラスになじめなくて、一人クラスメートの台湾華語がわからなくてすごく寂しかったの。でもあなたと話してとても楽しかったし、自分の台湾華語がへたくそでも通じるのがすごくうれしかったの。楽しい時間をありがとうね。もし彼女に手紙が書けるならそんなことを伝えたいとふと思った。


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