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2024年総括 ガイナーレ鳥取が歩み出した道

はじめに

2024/12/8、今季最後の練習がオールガイナーレYAJINスタジアムにて行われ、チーム活動に区切りをつけた。

一時、Jリーグ退会の危機に直面した前半戦、快進撃を続けた後半戦と思い出は無数にあり、今このタイミングで最高のチームに最大の敬意を表したい。

そのガイナーレ鳥取が今季何をテーマに、そして今後何を見据えているのか、どのような姿を目指しているのかについて、少し広い枠組みの中で考察していく。





1. 事実上の改革1年目、目指した姿とは

ガイナーレとは?の再定義

早速の結論。

“人に仕事をつけるから、仕事に人をつけるへ。”

これが、ガイナーレが掲げた壮大な改革テーマの一つ、と筆者は解釈している。

別の表現としては、ガイナーレのサッカーとは?を再定義したと言えるかもしれない。

ここでは、現場レベルの話に例えてみよう。

2023年以前は、どちらかといえば招聘した監督コーチの意向ありきのチームづくりをされてきた印象を持っているが、思いついた利点をいくつか挙げてみた。

・実績次第である程度の成績を見込める
・人脈によっては有能選手を獲得できる可能性がある
・モチベーションの高さ故、ラッキーパンチが当たれば1年で昇格を狙えるかもしれない

しかしながら、これらを裏返すと、不思議とすべてが欠点にも思えてくる。

・チームの強化は監督コーチ次第になり、毎年サッカーの方針が様変わりするリスクを秘めている
・そのリスクを承知で田舎の山陰地方クラブを選んでもらうためには、それ相応な理由が必要
・いわゆる運要素が高まり、中長期的な強化にはつながりにくい

近年このクラブは、監督、コーチ、選手の高い回転率に頭を悩ましてきた。そのたびに一からサッカーの中身を再構築し、箔が付いてきた頃にはシーズン終了というのは弱肉強食の世の性だ。

ただ、これではいつまでたっても強い組織にはなり得ない。

この歴史から学べるのは、長い目で強化していくには監督、コーチ、選手個人に依存しない組織づくりが必要ということ。

2024年、その目的を達成するための手段としてゲームモデル(プレーモデル)という概念を本格的に取り入れ、その確立に取り組み、これを基準とした組織の再構築を行ったと推察する。

これは以前、footballistaの特集記事で小谷野ヘッドコーチが語られていた内容であり、2024年は事実上の1年目にあたるだろう。

今までのように、就任した監督の方針ありきで選手を獲得し目指すサッカーを具現化し始めるのではない。

あくまで、クラブが主体的に確立したゲームモデルという独自色を決定づける軸、ありたい姿に必要な人材をあてはめていく。

このゲームモデルに惹かれ、この色にマッチする人々が自らの希望で鳥取の地へ集結する。ピッチで躍動し、上位カテゴリーへ羽ばたいていく。

こうしたプラスの循環を支える組織の地盤を強固にしていくことが、ガイナーレ鳥取が今考えているJリーグで活躍し続けるための生存戦略であると推察する。



確立されたゲームモデル

では、確立されたと聞こえは良いが、そもそもゲームモデルとは何だろう?

ゲームモデルとは、ガイナーレ鳥取とは?ガイナーレのサッカーとは?を定義づける地図、設計図などに例えられる概念だ。

サッカーの中身の話に留まらず、鳥取県という地域性、風土、文化など、クラブに関わる全てのものから構築されていく。

いわばその地域の文化を象徴する指針といえるのかもしれない。

その基盤の中でガイナーレのサッカーとは?が定義づけられ、プレー原則、準原則…と現場レベルへ具体化され落とし込まれていく。

繰り返しになるが、クラブの方針やサッカーの中身が監督、コーチ、選手個人に依存するのではなく、今後はガイナーレ鳥取やその文化的背景が主語となって確立したゲームモデルに必要な人材をあてはめていく考え方へシフトしたという部分は再度強調しておきたい。

では、2024年の証人となった皆さんが、ガイナーレはどんなサッカーをするの?と誰かに聞かれたとき、どのようなイメージを思い浮かべるだろう?

例えば筆者なら、

「ボール保持を基本とし、自ら意図した配置で優位性を築いて盤面を支配する」

という表現が浮かんだ。

人それぞれで感じ方や表現が異なるのはもちろんだが、概ねのイメージは一致しているのではないだろうか。

今季の前半戦は辛い時期が長く続いたが、それでも粘り強くこのスタイルへ向き合い続けたことで、クラブへ関わる人々の鳥取のサッカーとは?の目が揃い出したのは間違いない。

それらの成果として、シーズンの階段を登るごとにガイナーレの対内外的なブランド力が向上し、功を奏したこともあったように感じている。



2. ピッチ上の変化

十八番となった疑似カウンター

具体的なサッカーの中身に少し触れてみよう。

今季ガイナーレが最も得意とした戦術は、いわゆる疑似カウンターと認識している。

GKを含む最終ラインが自陣底でボールを徹底的に保持して相手のハイプレスを誘発し、その背後へ空いたスペースを利用し一気にゴールへ迫る形だ。

一つのミスが失点に直結する緊張感はあるが、成功すると一度に決定機まで持ち込める。

選手の配置とタイミングが肝で、相手をどのように誘導し、どこにスペースをつくり、いつのタイミングでスペースへ移動して、どのルートから優位な状況でゴールへ迫るか。そして、守備への移行もスムーズに行える立ち位置を取り、4局面すべての盤面を制圧できるか。

鳥取といえばこれ!という複雑系の意図を一人ひとりが理解し、共通認識の作り込みにこだわったからこそ成せた技である。

↓参考note

また、データ上では自陣および敵陣のボール保持率、そして中央攻撃の指標が高い。その理由としては、この疑似カウンターを得意にしたことが要因となっているようにも思える。

一方で、攻撃時に中央ルートを封鎖されると攻めあぐねたり、リーグワースト2位の65失点を喫したりと道半ばな状況には代わりなかった。

今後はこれらの課題も長所へ伸ばしていく必要があり、ストーブリーグの動向に注目したい。



変貌を遂げた、ぬりかべ

ピッチの最後尾に立ちはだかるぬりかべ、ゴールキーパー(GK)のおはなし。

今季はコーチの編成からテコ入れを行い、ジョアンメソッドを取り入れた効果は絶大だった。

どのような改革を行ったか?については、以前の記事をご覧いただきたい。

率直な感想として、昨季までの鳥取ではGKというポジションはマイナス面の方が目立っていた。しかしながら、今季は明らかに安定感が増し、強みに変わった。

特に不安定で、ミスが失点へ直結しやすいハイボール処理、空中戦が強みになったのは大きな成果。

ハイボールに対する勇敢な飛び出しからのキャッチングで、相手のクロスを無効化。

また、被決定機でのこれ止めるんかと言わしめるブロック、セービング所作の美しさ。そして直後のダブルアクションの速さ。

これらの頼もしい姿を今季は幾度となく目撃した。

来季以降もジョアンメソッド路線を継続し、ガイナーレ?GK製造大国だよね!とお墨付きをもらえるようなクラブを目指して欲しい。

↓追記 2024/12/17



3. 来季の展望

鳥取とは?を世間に知らしめた効果

ガイナーレのサッカーとは?の再定義が、選手獲得においても優位に働くことを立証しつつある。

明確な基準が打ち出されたことで、選手側が選びやすくなったのだ。他クラブで燻っている優秀な選手たちにガイナーレ鳥取のサッカーをしたいと選んでもらえる可能性が高くなったのではないだろうか。

その最たる例が、高柳郁弥選手(大宮アルディージャ)の途中加入だろう。

前半戦、Axisバードスタジアムで大宮と鳥取が対戦した際にガイナーレのサッカーへ魅力を感じ、プレースタイルの適性も合致していたことから、鳥取への期限付き移籍を決断した旨のコメントを高柳選手が残されていたと記憶している。

後半戦、心臓部のボランチの一角としてチームの大躍進を支えたのは言うまでもない。

これほどのレベルの選手が燻っていたという大宮のレベルの高さに驚くが、そうした選手の受け皿として選ばれたのは、ガイナーレとは何か?を明確に定め、世間に知らしめた効果であると確信しているし、今後そうした移籍が増えることを予感している。



欲しているのはどんな選手?

誤解を恐れずに表現すれば、クラブは賢くアスリート能力の高い選手を欲しているのだろう。

もう少し解像度を上げて、筆者は次のような解釈をした。

・練習の意図を理解できる選手
・基礎技術の高さを、相手の圧力を感じる局面で発揮できる選手
・アスリート能力の高い選手

日本海新聞の総括記事にある、複雑な鳥取の練習の意図を理解することというのは、チームの戦い方の共通認識づくりという点で重要な関門となる。

ここで主張しておきたいのは、ただサッカーの“技術”が上手い選手を欲しているということではない。

あくまでクラブとしてのありたい姿、サッカーというゲームの目的を達成するための手段として選手個々がもっている技術を発揮し、チームの利益へ還元できるかが問われているということ。

あくまで主語はクラブ、チーム、組織なのだ。

後半戦、ゴール裏へ掲げられた“勝負を制して人生を変えろ”という段幕には、そうした意味も込められていると感じた。

今後はそうした意味での賢さと、それを実行するための基礎技術やアスリート能力のベースを向上させていこうという方針で強化が進められていくはずだ。



433に再挑戦か

つい先日、松本太一選手と東根輝季選手、新卒コンビの加入内定が発表された。この2人の情報から来季をちょっと予想してみよう。

まず、新加入第一号の松本太一選手。彼を一言で説明するならば現代型のCBである。

■プレーの特長
空中戦や対人に強く、足元の技術もある。精度の高いロングフィードも魅力。

ガイナーレ鳥取公式サイトより

続いて、新加入第二号の東根輝季選手は左利きのSB。

■プレーの特長
豊富な運動量で攻守両面を支え、精度の高い左足で攻撃に勢いをつける。

ガイナーレ鳥取公式サイトより

紹介文を素直に受け取ると、彼らに共通しているのはポジションがDFであること。フィジカル面でも優位に立てるポテンシャルを秘めていること。そして、足元の技術を持っていることの3点だ。

いわゆるアスリート能力の高いタイプと思われる。今季の総括会見で反省されていた守備の強化という意味で、強化育成部が早速大仕事を成し遂げた。グッジョブ!

また、攻撃面の特徴も加味すると、今季一度断念した433システムに来季再挑戦したいという志がうかがえる。

ボール保持を基本とするスタイルには必須なビルドアップの精度を高めると同時に、不利な守備の局面でも対人能力で踏ん張れる。

今季の弱点を強化ししつつ、手にしたスタイルの強みを来季も伸ばしていこうというクラブの明確なメッセージに賛同の意を表したい。



終わりに

2024/12/7、松木駿之介選手の移籍が発表された。

後半戦の快進撃の立役者が早くもこのタイミングで流出することは、来季以降を考えると非常に手痛いこと。非常に。

ただ、ガイナーレは監督、コーチ、選手個人に依存しないチームづくりを目指すことを明確に打ち出した今、むしろ歓迎される事案とも解釈できる。

松木選手のフルファイトな退団コメントで、来季の契約を残していた中での完全移籍であることが明かされており、クラブは少しばかりの臨時収入を得られているはずだ。

また、今季途中で藤枝MYFCへ羽ばたいた世瀬啓人選手もシーズン途中の移籍であり、同様の事例と考えられる。

そこで得られた臨時収入を生かし、次世代の新たな才能を発掘。育て、付加価値をつけて上位カテゴリーへ羽ばたかせる。

その再現性が高まってきたのは、ガイナーレ鳥取やその文化的背景が主語となって確立したゲームモデルに必要な人材をあてはめていくという考え方とそのサイクルが軌道に乗ってきた証であろう。

両名の移籍は、まさに第1章で述べたガイナーレの生き残り戦略そのものの成果である。


“人に仕事をつけるから、仕事に人をつけるへ。”

この本質を理解し、ガイナーレ鳥取が掲げた壮大なプロジェクトの成功を願い、今後もこの愛するクラブの歩みを追い、支えていくことを固く決意して今季総括の結びとしたい。






来季こそ、夢を叶えるで!!!!!






追記

2024/12/8


2025/1/7
フットボール本部の新設


2025/1/10