【ガイナーレ】開幕2戦の課題を印象論で振り返る
はじめに
開幕前の期待感とは裏腹に、現実は開幕2連敗で厳しい船出となったガイナーレ。
2戦目ではビルドアップ時のポジショニング修正等改善が図られた一方で、課題も多く残る。
ピッチ上で何が起きていたのか、開幕2戦から読み取れる課題を印象論で振り返っていこう。
目指すモノと前提
ガイナーレが縦に早くを思考するサッカーから、同じ車両で前進しながら試合を支配するサッカーへ進化を遂げようとしていることは昨季の記事で紹介した。
特に今季は、開幕前のトレーニングマッチや開幕戦の様子を観ていれば、その傾向がより一層顕著になったことは誰しもが気づけるだろう。
将棋に例えるなら相手の意表を突く奇襲戦法で一喜一憂していた愛好家が、持久戦模様に誘導し一手一手の積み重ねでじっくり勝利を手繰り寄せる横綱相撲の棋風へ大変革しようとしている最中だ。
よって、まずは最初から上手く噛み合わないことが前提としてあり、現時点で課題が山積みになってしまうのは致し方ない。ここでは、我々が新たに挑戦するサッカーに対して現状どのような課題にチームが向き合っているのかを整理していく。
↓ガイナーレが挑戦しているサッカーのイメージ
感じた課題
① 強度面
判断の遅れや球際で競り負け、ノーファウルでボールを奪取されカウンターの餌食になる場面が多かった。戦術以前のベース部分における不足を示しており、試合後の監督や選手コメントにもそうした言葉が並んでいる。
今季は半数以上の選手が入れ替わった。新卒組や下位カテゴリーからの個人昇格組が多くを占めたが、特に彼らがJ3基準の強度に苦労しているように思う。
ただ、思い出してほしいのは今の主力選手も新人時代には誰しもが通った道ということ。J3基準への適応にはまだまだ時間はかかるが、慣れさえすれば躍進のきっかけになるかもしれない。
温かく見守っていこう。
② 戦術理解度
各選手に与えられたタスクと、そのポジションに入る選手の適性が一部アンマッチに見えた。
具体例を挙げると、1つ目は田中恵太選手の偽SB。同じ列で中に絞る司令塔型の偽SBでボランチの適性も必要だが、彼が本来得意とするプレーは昨季のように高い位置でボールを受けて自身の高速クロスに繋げること(のはず)。しかし、今季はその武器が影を潜めている。
2つ目は曽我選手のインサイドハーフ。福山シティFC時代の映像を見る限り、本来はボランチ、アンカー、CBの選手で、後方寄りのポジションにおけるボール奪取やビルドアップへの貢献を期待されての獲得に思えた。しかし、今の使われ方はそうではない。
これらの背景として、個人能力やポジションによる適性よりも戦術理解度が高い選手たちを優先的に起用し、目指すサッカーの落とし込みをいち早く進めようとしているのではないかと推察する。
身近な例として思い浮かぶのが、金鍾成監督時代のガイナーレ。かつてFC琉球で黄金期を築きJ3優勝J2昇格に貢献した選手たちを鳥取に再集結させた。目指すサッカーを短期間で落とし込むためには「そのサッカー」を知っている人、理解度がより高い人を起用するのが手っ取り早いのだ。
今のガイナーレに話を戻すと、曽我選手に至っては小谷野ヘッドコーチが福山シティFCの監督時代に直接指導を受けた仲で、ガイナーレの中では現時点で戦術理解度が最も高い選手の一人なのは疑いようがない。
よって、適性が多少アンマッチでも、戦術理解度が高く、そのポジションで要求されるタスクをより実行へ移せる選手の起用がなされていると考えれば辻褄が合いそうだ(違っていたらごめんなさい)。裏を返せば、戦術理解が進んでいれば先発で起用されるかもしれない個人能力をもった選手が何人も控えているということ。
キャンプでは選手たちの戦術理解のスピードが首脳陣の想定以上という報道があったが、落とし込みのさらなるスピードアップとチーム全体の戦術理解度の底上げに期待したい。
③ 個人戦術
キャンプから取り組んできた、最後方から丁寧に繋いで同じ車両で前進しゴールを目指すサッカーに必要な個人戦術に課題があるように思えた。
ここでは具体例として「コンドゥクシオン」について考えたい。これはスペイン語のサッカー用語で、自分がボールを持っているときに「相手を引きつけて味方にリリース」するための技術アクションを指す。これによって次の味方へより多くのスペースと時間を与え、有利な局面を作り出そうというもの。
競技は異なるがバスケットボールにも似た技術があり、ドリブルアットとバックドアとして体系化されている。
↓参考:コンドゥクシオンとは
この予備知識をもとにガイナーレの試合を振り返ると、状況によって適切なプレーの選択が変わることに留意しなければならないが、ビルドアップ時にボール保持者が相手を引きつける前にボールを渡してしまい、その先の味方が十分なスペースと時間を得られず不利な状況に陥りボール奪取される場面が多くあった印象を抱いた。
ただ、数は少ないがチームの狙いたいであろう形が現れたシーンももちろんあった。
例えば今治戦の84:05〜、ビルドアップからフィニッシュまでいった一連のシーン。このプレーの起点となった長谷川アーリアジャスール選手の運び方は今後の参考になりそうだ。
相手の2トップ脇でボールを受けた後、次に相手のサイドハーフへ矢印を向けて自ら運ぶ。その後、サイドハーフの意識を自身に食いつかせ大外で待っている選手をフリーにした上でリリース。以後、その先の選手たちも同様の理屈で時間とスペースを得てフィニッシュまで持っていけた。
このような理屈を理解し、もっと意図的に繰り出せるようになると決定機へ持ち込める機会が増え、得点も自然と増えていくのではないかと考える。
↓ビルドアップからフィニッシュまでいけた場面
④ 状況判断力
さらに伸び代があると感じたのが状況判断力だ。
初戦の今治戦は繋ぐ意識が、2戦目の沼津戦は裏狙いの意識が強い対照的な試合展開。2戦目ではビルドアップに改善が図られたように感じる一方、なんとなく上手くいっていないな、と思うところもあった。
あくまで筆者の憶測に過ぎないが、おそらく以下のような経緯が原因ではなかろうか。
初戦の前半はキャンプから取り組んできた、徹底した最後方からのビルドアップで相手守備網を打開しようとしたが上手くいかず、後半途中から田中翔太選手を始めとしたフレッシュな選手を投入して裏狙いを増やした結果、周囲の味方にスペースが広がり上手くいった。その経験をもとに2戦目の戦い方を準備した。
しかしながら、2戦目では縦への意識が高まりすぎ、初戦のようにボール奪取後味方へ繋いで落ち着いた攻撃へ移行できそうな局面でも、前線の状況によらず裏狙いのロングボールが選択されて相手にボールを簡単に明け渡し、ボール保持率の印象以上に押し込まれる時間帯が増えてしまった。
仮にこれが真実ならば、筆者が贔屓しているもう一つのクラブ徳島ヴォルティスの2023年開幕期において、ベニャート・ラバイン監督(元指揮官)が頭を抱えた状況に似ている。
ラバイン監督は、前任者のダニエル・ポヤトス監督(現 G大阪監督)が構築した正統派のポジショナルなサッカーに縦のエッセンスを付け加えて上積みしようとした。しかし、2023年シーズンがいざ幕を開けると、変化し続けるピッチ上の状況に関わらず縦、縦、縦、というカオスなサッカーが出来上がってしまった。
ラバイン監督は日本人選手は物事を100対0で極端に捉えがちだと指摘し、前任者のポヤトス監督は自分たちが立ち返る軸は大切だが、プレー選択の正解は目の前の状況次第で刻一刻と変わるということを口酸っぱく伝え続けていた。
これらはガイナーレも例外ではなく、同様のことが当てはまるように思う。私たちのような観戦者とは異なり、選手たちはピッチ上の平面の世界にいるので状況を正確に認知するのは並大抵のことではないが、自分たちが体現したい軸は持ちつつ、刻一刻と変化するピッチ上の状況を正しく認知しそれに適したプレーの選択が瞬時にできる、駆け引きができるよう状況判断力のさらなるレベルアップに期待したい。
↓参考:状況判断力の重要性
あとがき
ガイナーレの新たな旅は最初の第一歩を踏み出したばかり。
当初強化育成部長の立場だった小谷野ヘッドコーチは、J2復帰の時期を「3年以内くらい」と地元TV局のインタビューで語っている。
また、先ほど事例を紹介した徳島ヴォルティスの場合は、2017年にスペインの風が吹き始めてから完成形にたどり着きJ2優勝J1昇格を成し遂げるまで実に4年の歳月を要した。
今のガイナーレは、それだけ時間のかかる大変革に挑戦している。
サポーターとしては一戦一戦の結果に一喜一憂しつつ、中長期的な視点ではピッチ内外で何が起きているのかを理解しようとし、見守っていくことも求められているように思う。
チームが向かうべきモノは明確に定まっており、今の苦しい時期があったとしてもブレずに煮詰めれば煮詰めるほど後の楽しみが増えるのは間違いない。
近い将来、このサッカーが完成形に至り、満開の花を咲かせる未来が訪れることを確信している。