Nature Briefing 2024/06/27分
Brain organoid is a ‘village in a dish’
脳オルガノイドは「皿の中の小さな村」
研究者らは、複数の人々の細胞を組み込んだ初の 3D モデル脳を作製しました。ドナーの幹細胞は、さまざまな脳細胞に成熟するよう促す化学物質の混合物に浸されます。その結果得られる「キメロイド(Chimeroids)」は、薬物が人によって異なる効果を持つ理由を解明するのに役立つ可能性があります。試験実験においては、例えばエタノールは胎児性アルコール症候群を引き起こす毒素ですが、たった 1 人のドナーの細胞株の細胞数のみを減らす様子が見られました。
元記事:Nature
発達神経科学者 Aparna Bhaduriの専門的見解:Nature News & Views article(有料)
参考文献:Nature論文
⇒脳オルガノイドとは?
オルガノイドとは「臓器(organ)」のようなものという意味の新語である。京都大学iPS細胞研究所ニュースレター(2021/vol.47)のインタビュー記事にてわかりやすくまとめられている。
DNA donors learn their genetic secrets
DNA提供者は自らの遺伝子の秘密を知る
エストニアのバイオバンクにサンプルを提供した21万人のエストニア人(成人人口の約20%)は、自分の病気のリスク、ネアンデルタール人の祖先、カフェインへの耐性などについて知る機会を得られました。 オンラインポータルには多くの人が殺到したため、一部がダウンしたほどでした。このプロジェクトは、研究参加者に遺伝子の結果を返す世界最大の取り組みの1つでした(※ほとんどのバイオバンクはそのような情報を提供していない)。「人々の健康管理が改善されることを期待しています」と臨床薬理学者のDan Roden氏はコメントしています。
元記事:Nature
⇒エストニアのバイオバンクは、データベースを通じて参加者が自分の遺伝子データにアクセスできるようにすることを義務付けた 2000 年の法律「ヒューマン・ジェノム研究法(Human Genes Research Act)」によって設立された。この法律は、エストニアのバイオバンク(Estonian Biobank)の設立と運営に関する規範を定めており、参加者の同意と事前情報の充分な提供、データ利用は研究目的に限り商業目的は制限されること、匿名化とプライバシー保護、倫理委員会による監督と都度の審査・承認の必要性が示されている。
オンラインポータルでのデータ開示へ踏み切るにあたり、当初専門家は、乳がんや心血管疾患など、特定の病気の遺伝的リスクが高い参加者や、薬物の代謝に影響を与えるまれな遺伝子変異を持つ参加者を個別にカウンセリングをおこなっていたが、これらの「リコール研究」の対象となったのはわずか5,000人程度の参加者に過ぎなかった。
Estonia Genome Centre(タルトゥ大学 エストニアゲノムセンター)
A win for US misinformation research
米国の誤情報研究、勝利
米国の最高裁判所は、選挙やワクチンなどのテーマに関する誤情報拡散を抑制するため、政府が科学者やソーシャルメディア企業と対話や情報交換を続けることができるとの判決を下しました。 この判決は、保守的な意見を検閲するために政府に協力したとして起こされた訴訟に直面し続けている研究者にとっての勝利となります。最高裁判所は、「ソーシャルメディア企業が自社のプラットフォーム上でのやり取りを規制しようとする取り組み」について制限しようとする州の規制に焦点を当てた関連訴訟についてはまだ判決を下していません。
元記事:Nature
⇒2023年夏頃、アメリカでは複数の研究者がCOVID-19ワクチンや政府選挙に関する保守派の意見を検閲した疑いで捜査を受けた。発端は、これらの研究者やソーシャルメディア企業が主流の科学的コンセンサスに反する意見、特にCOVID-19ワクチンや2020年選挙の正当性に関する意見を抑制していたとの主張によるもので、オハイオ州選出下院議員のジム・ジョーダン氏(共和)によって主導された。彼らは、誤情報を抑える努力が政治的検閲にまで及んでいると主張していた。(※アメリカ合衆国においてオハイオ州は特別共和党優位の州という扱いではなかったが、ここ数年では共和党優位を保っており、現在も上下院共に共和党優位の様子)
⇒今回の判決や関連ニュースは2024年アメリカ大統領選挙にも影響してくるものと考えられる。こちらについてはJETROのまとめがわかりやすい。
JETRO|北米|米国|特集 2024年米国大統領選挙に向けての動き
Why the UK election matters for science
英国選挙が科学にとって重要な理由
科学者たちは来週(2024/07/04)選出される次期英国政府が、10年以上の混乱に終止符を打ち安定を取り戻すことに期待を寄せています。 最も話題になっている問題の一つは最近厳しくなったビザ規則で、これにより英国の大学への海外からの志願者数が大幅に減少しました。多くの科学者はまた、現在国内総生産の約2.9%にとどまる研究資金の増加についても望んでいます。
元記事:Nature
⇒記事では5つのポイントを挙げている。
ビザ・移住の規制…移民規制の余波を食らい、留学希望者も約44%減少したため大学の資金繰りはより困難となった。一方で国内学生に請求できる授業料には厳しい上限があり、総合的に収入源となったためである。
研究資金…英国はR&DのGDP比について世界的リードを目指している。記事内ではアメリカがリードしているように読めるがこれは実費総額を指しており、GDP比だけで比較するとイスラエル、韓国がトップ2であり大きく離されて台湾、我が国が位置するような順位となっている。(参考:NISTEP文部科学省 科学技術・学術研究所 科学技術指標2023)なお日本はすごく下がったりしない代わりにすごく上がったりもしないため、結果的にGDP比では2021年の報告時と比較して3位から4位に転落している。
EUとの関係(ブレグジット後の進展)…これについては保守党、労働党共にEUとの研究提携などの提言は特にしていない。
ネットゼロの追求…現状一度定めた目標の見直しが行われていることもあり、2019年に可決された法律「2050年までに炭素排出ゼロを達成する法律(The Climate Change Act 2008 (2050 Target Amendment) Order 2019)」によって、両党の掲げる取り組みが注目されている。労働党は「クリーンな国産エネルギー生産への投資を推進する」ために、新たな公営企業グレート・ブリティッシュ・エナジーを設立するとしている。一方、保守党は、洋上風力発電を3倍に増やすとしていながら、「新しいガス発電所で停電の可能性を防ぐ」ともしている。両党とも、炭素回収技術に投資し、原子力発電を拡大するとしている部分は共通している。
AI研究の取り組み…両党共に投資・規制両方において国の関与を強化することを強調している。
Features & opinion(特集)
Five new ways to catch gravitational waves
重力波を捉える5つの新しい方法
科学者たちは、LIGO などの現在の重力波探知施設では検出できない時空のさざ波を発見する方法を開発しています。
地球とパルサーと呼ばれる小惑星の間の距離を測定することで、超長波を長期間にわたって観測することができます。
宇宙初期の重力波によって刻み込まれたであろう宇宙マイクロ波背景放射のパターンを、望遠鏡で探します。
高さ1キロメートルのパイプを落下する原子を観察すると、ブラックホールの衝突から生じる波が明らかになる可能性があります。
理論上の高周波を検知するデスクトップ検出器は、ビッグバン直後の奇妙な物理作用を明らかにする可能性があります。
重力波を検知するための革新的なアイデアは、ダイヤモンド結晶を「量子重ね合わせ状態」にするというものですが……これはこれまで実証されたことがありません。
元記事:Nature
重力波への窓は開かれている:図は新しい検出器とそれによって検出できる範囲が示されている(図出典:Nature)
Work-life balance for male academics
男性研究者のワークライフバランス
組織行動学の研究者Dritjon Gruda氏は父親になったことで、先輩科学者から受けたアドバイスを否定するようになりました。それは、子供と過ごす時間を最小限に抑え、研究にしっかりと集中することでした。その代わり、 週末に働くのをやめ、9時から5時までの勤務に徹し、家ではノートパソコンを閉じたままにすることにしました。「私のキャリアは落ち込んだか? 以前ほど成功しなくなったか? まったく逆です」と彼は書いています。「これは、私のワークライフバランスが改善したおかげだと思います。仕事に割く時間が限られている中で、より生産的になっているのです」。
元記事:Nature
What makes a world-class lab
世界クラスの研究室とは?
英国医学研究会議の分子生物学研究所(LMB)は、12人のノーベル賞受賞者と生物医学の画期的な発見を生み出しました。「これらの発見はどれも偶然の産物ではなかった」と3人の研究者は主張しています。彼らは科学者にインタビューし、さらに数十年分のアーカイブ文書を分析して、 LMBの成功戦略のいくつかを特定し下記にまとめました。
・科学の多様性の促進
・長期的な忠誠心を育むこと
・希少資源を効果的に管理すること
・科学的な疑問と工学に基づく技術ソリューションの間のフィードバックを確立すること
・パフォーマンス指標よりも長期目標を優先すること
元記事:Nature
Image of the week(今週の画像)
<オーストラリアのミヤマガエルとキンベルガエル新しい黒いレンガ造りの温室タイプシェルターでくつろいでいます。>
絶滅危惧種のミヤマガエルとキンベルガエル(Ranoidea aurea)は、安物のプラスチック温室内に積み上げたレンガでできたミニサウナでくつろいでいます。この熱は、世界中で両生類の個体数を絶滅させている致命的な真菌性疾患であるツボカビ症から動物を回復させるのを助けます。
元記事:Nature(有料)
参考文献:Nature論文(Anthony Waddle)
QUOTE OF THE DAY:今日の名言
ノーベル賞受賞化学者Morten Meldal氏は、高齢の研究者は若い世代から多様性に関する重要な教訓を学ぶことができると述べています。
ほぼ日刊のNature Briefingを個人が和訳したり解説を入れたりしています。
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