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ウォール街に宣戦布告した男―買収戦争 テキサコvs.ペンゾイル 単行本 – 1990/2/1
1980年代最大の石油会社の合併を描いた本。
大学時代に会社法を勉強していたこともあり、興味があって手に取った。
ブルース・ワッサースタインやマーティン・リプトンといった会社法の大家が関わった(両者は自分が会社法を勉強していた2000年代後半で既に大家となって教科書に載っていた)案件ということで読もう読もうと思っていて、見つからなかったが、大きな図書館から取り寄せることでやっと読むことが出来た。
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内容はというと、ゲッティ・オイルという大きな石油会社の2代目の大株主であるゴードン・ゲッティが、会社、つまりゲッティ・オイルの株式を秘密裏に売ることを決断する。
これを受けてベンゾイルという会社にゲッティ・オイル取締役会も身売りすることを決定したものの、この決定が法的実効性を持ったものかどうか、延々とサスペンス仕立てで物語が展開する。
実際は法的には契約は成立しないと判断し、テキサコという会社により高い値段で売却される。
ベンゾイルとしては面白くない訳で、法的に問題はなかったのかどうか(契約として成立している中、テキサコに売り飛ばされてしまっていないかどうか)、テキサコ対ベンゾイルの間で法廷闘争となった。
最終的にテキサコは懲罰的賠償も含めて、100億ドル超の金額を払うことが決定し、チャプター11を申請して、再建されることになった。
感想としては、主に三点を挙げたい。
第一に、ゲッティ・オイルの御曹司であるゴードンが、経営者としての才覚はなく風変わりな人との描かれ方がされているものの、投資家としては最も優秀であった、と思う。(Wikiをみると今も存命で、20億ドルのファミリーオフィスを所有している、とのこと。)
第二に、陪審制度を敷いている以上、どうしても人選による結果への影響や地の利が出てしまう、ということ。
今回の場合、法的議論(契約が成立していたかどうか)よりも、陪審の結果は正義とはなにか、という方向に話が逸れてしまったに思われるし、それを裁いた裁判官も会社法の知識を十分持っていたとは言い難かった。
第三に、もうこういった事件は起きないだろう、ということ。
TOBルールが整備され、上場会社の売買が普通に行われるようになったのはアメリカでも1980年代からで、本件の発生した1980年代の中盤は、アメリカの金融業界も、まさに「数をこなして」ルールを整備していた時代にあたる。そのため、ルール上の不備(整備されていなかった)がこのような醜い戦いを起こす余地を許してしまった。
筆者の文体は確かなもので、アメリカやイギリスのサスペンス小説が好きな人は楽しんで読むことが出来ると思う。
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個人的には、ブルース・ワッサースタインが好きなので、もっと描写されていてM&Aの世界における彼の働きを知れる、と期待したが、主要プレーヤーにも拘わらず、あまり出てこなかったので、その点は非常に残念だった。