三本の矢〈下〉 単行本 – 1998/4/1
三本の矢の下巻。
日本の戦後の金融行政はあるところまでは大蔵省による集団指導体制で銀行は潰れることなく発展し、本来の目的である信用創造を果たしていたため良かったと思う。しかし、バブル崩壊後、皆が疑心暗鬼になりその悪さが際立ってしまったと思う。
銀行は、企業の長期の資金調達のために金融債を発行することが許されている「日本興業銀行」「日本長期信用銀行」「日本債券信用銀行」の三つの長期信用銀行と従来型の預金を集める都銀に別れており、棲み分けがなされていた。
高度経済成長が終わり日本経済が成熟化にするにつれて、長期の資金調達のニーズが無くなってきたことから、両者の敷居はなくなり、三行は厳しい立場に置かれることになる。
本書では、大蔵大臣の国会答弁を機に、上記の銀行をモデルとしたと思われる銀行が、政界、財界、官界に入り込んで、時代の流れに逆らい、レントシーキングを行っていたことが書かれている。(フィクションなので、デフォルメされていると思うが。)
また大蔵官僚の省内での争いについても書かれている。(銀行局と主計局の争い)。つまり、社会主義的な裁量行政による集団主義と法の支配に基づいた競争のどちらを選ぶかの争いである。
さらに当時はやっていた複雑系の考え方を使って、誰が犯人なのかを追及していくくだりの記載は圧巻である。
現在は、大蔵省は分離され、金融庁と財務省に別れてしまった。また、上記三行もそれぞれ、みずほ銀行、SBI新生銀行、あおぞら銀行となってしまい、当時のような勢いはない。
岸田総理大臣も勤務していた日本長期信用銀行がSBIに買収される日が来るとはだれが予想しただろう。
変わっていないのは、国会答弁に忙殺される官僚の非生産的な働き方だけかもしれない。
日本の金融業界の歴史に興味がある人は必読だと思う。
著者は今は60代になっていると思われるが、もしよろしければ続編を書いてほしいと思う。この一冊(上下巻の二冊)で終わってしまったことに悲しさを感じる。もし続編が出るならば、間違いなく購入するだろう。それくらい読者を飽きさせない仕掛けが随所に散りばめられている。