猫町ふたたび④
「じゃあ、何かあれば連絡ください。可愛がってあげてね。」と茶トラの子猫を女の子に手渡した。
今日の猫のお届けは、小学校を長く休んでいる女の子の家だった。女の子は可愛くて仕方ない様子で、子猫を抱いて目を細めている。
「おしっ、次はおっかさんのところだ。」と田中さんが車を走らせた。
おっかさん…僕が来てから、3回。その前も数回、出産してるらしい。
去勢手術や避妊手術は、飼い主に任意で任せている。そのため、もし処置をしていなくてもおっかさんのように要請があれば、子猫を引き取りに行く。何度でも。
大体のお宅は、増え過ぎないように手術をしている。おっかさんも家猫…というわけではなく、外猫…餌をもらって外で暮らしている猫だ。
市長は言う。街から猫が消えた方が悲しいと。
「しげさん!来たよ。今度は何匹だい?」 猫好きのしげばあちゃんに声をかけた。「今度は3匹。前より1匹減ったよ。もう年かね?」としげさんは言った。
「そうだね。野良猫は3から5年が寿命って言われているんだ。でもしげさんが世話してるから、もっと生きるんじゃない?」と3匹の子猫を全てゲージに入れようとすると「1匹は残しておいておくれ。全部いなくなったら、この子が可哀想だから。」と。
しげさんにとっては、何度も出産した猫でも子供なんだ。だから、おっかさんのことを「この子」という。
おっかさんはとても美人!子沢山だから、縁起が良いと子猫達もすぐに貰い手がつく。
「じゃ、行くね。しげさんも元気でね。」と僕が言うと珍しく「ああ、あんたもね。頼んだよ。」と僕のことを労った。
いつもなら「あいよ!いつも悪いんね。」と決まり文句で言うのに。 まあ、いいや。そんな気分なんだろう。
僕は車に乗った。田中さんがエンジンをかけて、ゆっくりと出発した。車の窓を開けるとしげさんが手を振っている。いつまでもいつまでも。
僕もしげさんの姿が見えなくなるまで。 いつまでも手を振り続けた。