温まる
ああ寒い!
コンビニに飛び込んだ。喉も渇いたし、温かい飲み物でも買おう。お昼もついでに買おう。
久しぶりのコンビニだった。いつも社食や付き合いのランチ。家に帰れば、やもめ暮らしでビールとつまみ…近くのスーパーの割引惣菜で終わり。
ペットボトルの温かいカフェオレにした。カフェオレを掴むとほんのり温かい。昔はホットは本当に温かかった。節電が主流になった時からだったかな。ほんのりは。
右手には支払いをするためにスマホ、左手でペットボトルを持った。
お昼時と密を避けるためのディスタンスで、レジは長い列だった。
列に並ぶと、ちょうどパンコーナーだったので、一つ一つのパンを眺めてみた。どんな味なんだかからない名前のものもある。最近のパンは洒落てるな。どれを買おうかと一歩一歩進む度に現れるパンに夢中になっていると、左の腹が温かくなった。
ふと目をやると落ちないように手で身体に押しつけていたペットボトルだった。
こんなにあったかくなるんだ。馬鹿にしてたけど、しっかりと抱えるとこんなにも。
この温かさ…パッと思い浮かんだ。 この温かさは、あの子だ。2歳だった息子がくっついて来た時のあの温かさだ。 遊び疲れて、膝に乗って抱っこしていたら、いつのまにかじんわりと温かく…あの時の…。
温めれば良かったんだ。こうやって。こうやってしっかりと抱きしめてあげれば良かったんだ。抱きしめたなら、温かくなったんだ。冷めたと思ったのは俺がそう思っただけで、本当は抱きしめれば、温かったのかもしれない…。妻も子供も。
「次の方!」
俺の番になった。「レジ袋はどうしますか?」と言われて、俺は「いりません。」と答えた。
そして、両手でパンとペットボトルを体にくっつけて抱えた。手も体も温かい。
許されるかな。許してもらえるかな。間に合うのかな…。いや、ダメだとしても、俺は許そう。俺だけは自分を許そう。気付けたのだから。