1ダースの恋 Vol.14
光の深く蒼い想いを知ってしまった亜美は シーフードカレーと イチゴパフェの味よりも 光の味を 鮮明に 焼き付けた。
律を選んだことを知り それでも尚 亜美を愛していることを 確信した光は これからの 物語の続きを語る上で 欠かせなくなるであろう シーフードカレーとイチゴパフェの味を 舌と心に 染み込ませていた。
最後の一口を食べ終わって、私は独特な形をした長い取っ手のあるスプーンを
パフェグラスの中にそっと置いた。
カランと乾いた音がなった。
「ふぅ。。」と大きいため息をついて椅子の背もたれに軽く仰け反る私に
「お腹いっぱいですか?」と光が尋ねてくる。
「そりゃ、もう、お腹いっぱいよ。何か、光君にお別れの挨拶をしに来たのに
新しい夢が出来ました!なんて凄いアプローチをかけられて、もうビックリよ。」と軽く笑い転げる私に光は少し照れながら「でも、俺の本心ですから。」と
満面の笑顔で答えていた。
「光君は名前の通り、眩しいよね。何か太陽の中に現れる白馬の王子様みたい。真っすぐで熱くてとても素敵だと思うわ。
樹のことを抜きにしても十分に魅力的だと思う。
でもね私、太陽より月が好きなの。
それで月の中に現れる黒馬の王子様が好きなの。」
突然のカミングアウトに光は少し呆気にとられた顔を浮かべる。
「光君は私がどんな仕事をしていて、何を目指しているか知ってる?」
「いえ、知りません。」
「そうよね。話していなかったもんね。私だって光君がどんな仕事をしていて、どんな経験でそんな真っすぐに生きて来れたのか知らないもの。」
「それは、これから知り合えたら、全然良いと思いますよ。仮に、あの余裕かまし野郎が知っていたとしても俺は気にしないし、何だったら俺の方がこれからもっと亜美さんのこと知りたいと思っていますから。」
「うん。そうだね。光君はそういうと思っていた。でもね、私が自分の事を知ってほしいと思うのは律さんだし、もっと知りたいと思うのもやっぱり律さんなの。」
暫くの言葉のラリーが続いた後、最後の亜美の一言で光の顔は悔しそうに歪む。
「何であんな野郎のことを。。って思っているでしょう?」亜美の問いかけに
光は図星を当てられたと言わんばかりの表情を浮かべていた。
「光君は純粋でストレート。それは、とても格好良い。でもそれだけでは、
この世界は生きていけない。例えば、私はデザインの仕事をしているけど、
デザインってすぐに盗用されたり、権利侵害を受けたりするのよ。
見も知らない他人なら速攻で訴訟して賠償請求も出来るけど、それが
取引相手とか同期とか上司とかの関係者とかだと話は別。その関係性を壊さないようにこちらが遠慮していたら、あっという間に
私の考えたアイデアもデザインも全部盗られちゃう。
それは言わば私の産んだ子供を奪われる感覚に似ているわ。真っすぐに直談判してもストレートに辞めて欲しいとお願いしても、
のらりくらりとかわされて終わるだけなの。」
私の話を聞く光の顔に心配の色合いが増していく。
「そういった状況下でも自分の子供、つまり自分の作品を守るには
したたかさが必要になるわ。今の君みたいに思っていることがポンポンと顔に出たり、気に食わないからと言って相手の胸倉を勢いよく掴んでしまうようではダメなの。」
「それなら、俺も頑張って成長しますから!!」負けじと光も言葉を被せてくる。
「そうね。光君もいつかは分かると思う。でも私が必要なのは今なの。
こう言ってしまっては何だけど、君はまだ子供ぽいわ。」
「確かに俺はまだ、子供だと思いますけど、あの野郎だって
亜美さんの胸でわんわん泣いていたじゃないですか!アイツの方が
よっぽど子供ですよ!!」
「だからね、そうして直ぐに比較しようとする所が子供だって言っているの。
光君はいつも私の元カレである樹や今回の律さんと比べて、少しでも自分を見てもらおうとしていたよね。現にさっきもそう言っていたし。」
「そうですね。亜美さんは俺の向こうにいる知らない影とか、俺の隣にいようとするいけ好かないアイツのことばかり見ていましたから。。」
弁解を並べているような気持になっているんだろうなぁ、と光の顔を見ながら亜美は思っていた。そうさせてしまっている事に申し訳なさを感じつつも
話を続ける。「律さんが私の胸で泣いていた時、素直に可愛いと思ってしまったわ。この人になら守ってもらいたいし、この人なら守りたいと思った。私にとってはそれが全てなの。だから、ごめんなさいね。さようなら。」
[さようなら]という言葉が光の胸に深く突き刺さった。
心の中でごめんね。と思いながら私はお兄さんに会計を済ませた。
「ごちそうさまでした。すみません。こんな事をして言うのも申し訳ないですけど、良ければまた食べに来させて下さいね。」とお兄さんにご挨拶を済ませた。
そのまま「かれん、ごめん。ちょっと行きたいところが出来たから私、先に行くね。」と、かれんの肩に手を置きながら私は話し、かれんは分かったと静かに頷いてくれた。
そのまま光の横を通りすぎて店を出ようとした時、光が私の手首を掴んできた。
「俺、亜美さんのこと忘れませんから。」今にも泣きだしそうな顔で私に想いを伝えてくれる光。「ありがとう。さようなら。元気でね。」その光の腕をそっと振り解き、私はドアを開けて店を出た。小雨は晴れていて、雲の合間に生まれたばかりの三日月がひょっこりと姿を現していた。
「ふうぅーーー。」と私は大きく息を吐き、携帯で電話をかけながら
とある場所へと向かった。