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相棒元旦スペシャルが映す世の中

遅ばせながら、元旦に放送された相棒元旦スペシャルをみました。

端的に、今の世の中を反映した傑作だと思いました。

ドラマの中では、事件に巻き込まれる12歳の男の子(早瀬新)がでてきます。幼いころに両親が離婚し、祖母と母と3人暮らしをするも、母は他界し、祖母はケガをし入院中。誰かを頼りたい状況だろうに、援助を申し出られても「自分は大丈夫だから」と断り、幼いながら一人暮らしを続けています。そんな彼のセリフに私は涙が止まらなくなってしまいました。

新「うちにはばあちゃんしかいないし。塾とかいけないし。住民税も免除されてるし」
冠城「そんなの君の責任じゃない!」
新「じゃあ誰の責任だよ!世の中みんな自己責任なんだよ。俺たちみたいなのは、どこまでいっても努力が足りないんだよ

いや、めちゃくちゃ国の責任やんか、、、

日本の子供の貧困率は、国際的にも高い水準です。実に子供の7人に1人が貧困状態に陥っています。子供の経済状況は、親の経済状況に大きく影響されます。日本では20年以上ほぼ経済成長せず賃金があがっていない状態が続いています。日本政府はこの状況下でまともな財政支出もしませんでした。加えて、非正規労働の大幅解禁も行われました。経済が縮小していくなかでは、企業の合理的判断はコストカットです。正規社員と比べて給料が低い非正規労働者の割合が増加しました。結果、収入が不安定な親世代が増加してしまいました。https://www.asahi.com/articles/ASN7K6WFPN7KUTFL00K.html

こんな小さい子供が世の中を自己責任だと考え、誰かに頼ることは迷惑と考え、誰にも頼らない生き方を選んでいる。とてもつもなく歪んだ社会だと思います。2021年11月、自宅介護をしていた姉を妹が殺害した事件がありました。妹は公的サービスを利用すること拒否し続け、「母親からの『人様に迷惑をかけてはいけない』との教えが影響していた」と証言し、ここでも「他人に迷惑をかけてはいけない」という思想がみえます。国が国民を見放し続けた結果、誰かに助けてもらうという発想すら国民から奪ってしまったのだと思います。

事件の黒幕である与党政調会長袴田議員と右京さんのやりとりも世相を反映しています。右京さんの最後の一言は、まさに私たち国民が言ってほしい言葉を代弁してくれているかのようでした。

袴田「この経済を動かすには低賃金で働かせる労働者が不可欠なんだ」
右京「国の経済。僕にはあなたとあなたのお友達の経済にしか思えませんがね
袴田「国力を高め国が必要なものを確保する。それが為政者の仕事だ」
右京「なるほど。貴方がたにとって、低賃金で働く労働者は、国民ではなくモノというわけですか。たしかに、彼らはあなたのように何かあれば病院の特別室にはいれるわけではない。しかし、そんな人々にも、大事な家族や生活がある。どんな人にも守りたいと願うそれぞれの生活があるんですよ」
袴田「それこそ自分でどうにかしたらいいじゃないか」
右京「そうでしょうか。12歳の少年が何かも受け入れてあきらめてこの世は自己責任だという。困ったときに助けを求めることすら恥ずかしいことだとおもいこまされている。それが豊かな国だといえるでしょうか!公正な社会だといえるでしょうか!袴田さん、あなたのように自分たちの利益しか考えない愚かな権力者たちがこのような歪んだ社会を作ったんですよ」

子供に自己責任を強いるような社会は、豊かな社会ではない。
本当に右京さんの言う通りだと思います。そもそも自己責任をどこまでも強いるというなら、政治家なんていらない。コロナ禍のときも、国民は十分な補償を受けることができましたか?欧米諸国が100万円以上を国民一人に渡していたのに対して、日本国民はあんなに自粛を強いられたのに1回10万円ぽっきりの給付しか受けていない。どんなに苦しくても国はケチでお金を出してくれない。この空気がやたらと個人に厳しい社会を作ってしまったんじゃないかと思います。

というかこの袴田議員にそっくりの議員いましたよ。元大阪府知事の橋本徹。
https://www.youtube.com/watch?v=3yhPkFeSP5c
この動画で泣いている高校生に対して橋下徹が放つ自己責任論。「教育にお金を回すのは僕の仕事じゃないよ」とか言い放つ非常な政治家。いやお前そんなこというなら、政治家いらんやろうが。政治家の仕事って国民に幸せな生活を保障することでしょ?自分のことは自分でしろなんて発想、そもそも国家の役割を否定していることに他ならない。

そして右京さんが言及する「あなたとあなたのお友達の経済」。これも非常に的を得ている。日本経済がデフレで20年以上も停滞を続けている間に、一番儲けたのは誰ですか?官邸の周りに群がる竹中平蔵のような政商(レントシーカー)や資本家たちです。デフレでは物価は下がりますが、その分貨幣の価値があがります。貨幣として保有し、貨幣のまま運用するのが一番いい。結果、お金持ちは金融経済でどんどん稼ぎ、大企業はお友達の株主に配当金を配る(ここ20年間で賃金は全く動いていないのに株主配当金は5倍になっています。)。そしてレントシーカーたちは、効率化のためとか言いながら、公共サービスをどんどん民営化して、自分たちで利ザヤを稼ぐ。こういったことが続けられてきたのが今までの日本なんです。

長い間デフレに陥りどんどん経済が縮小しているなかですべてをあきらめるようになり、誰も助けてくれないという意識が生んだ「自己責任論」。結果国民の心すら貧しくなっているのが今の現状だと思います。まずは財務省のケチをなおして大胆な財政支出を行いデフレから脱却する。これをしない限り、日本にもう未来はありません。デフレから脱却できれば、物価も上がるけれどもそれを追い越して賃金があがる。人々が未来に希望を持ち積極的に投資をするわけで、良質なインフレを伴った経済成長が実現できるのです。また、政府が財政出動を大胆に行うとなれば、教育にも十分に予算がいきわたるでしょう。低賃金重労働の教職員ももっと豊かな環境で働けると思います。子供に新くんのような台詞を言わさないためにも、今、国民一人一人が積極財政の必要性について考え、政権に対して意思表明していく必要があると強く感じます。

なお、本ドラマにおいて非正規社員が待遇改善を求めて半ばイキりたった様子で本社に詰めかけるシーンがありますが、これは脚本家太田愛さんの意図とは違うものだったようです。https://ameblo.jp/gralphan3/entry-12718296806.html

デモについて、制作側がステレオタイプを当てはめたのだということがよくわかります。デモをする人は感情的で、ちょっと危ない人たちというステレオタイプです。欧米ではデモは日常的に行われています。大学生のTeachingAssistantの給与を上げるデモであったり、エールフランス航空の運航停止理由はストライキがほとんどだったり。そもそも資本主義社会で労働者の権力が弱められやすい構造にあるのは事実なので、ストライキやデモは労働者の権利を保障するための正当な行動なのです。日本人は人がよくてすぐに我慢してしまいますが、こんなに賃金がいつまでも上がらないような国家で、デモが起こらないのが不思議なぐらいなのです。こうしたことを考えても、メディアがデモやストライキに対して「感情的な怒っている人たち」「危ない人たち」というレッテルを不当に張るのは間違っていると思います。

子供の貧困という問題や、その背景にある日本社会の歪みについて元旦から考えさせてくれる非常に良いドラマでした。素晴らしい脚本を書かれた太田愛さん、見事な演技を見せてくださった俳優の方皆様を深く尊敬します。

今年も日本社会の強靭化、積極財政への転換にむけて、言論を続けようと心に誓うことができた良質なドラマでした!

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