見出し画像

英語圏の人気Vtuberが卒業を考えた理由 [Bao The Whale]

Bao The WhaleというVtuberがいます。普段は、Baoと呼ばれています。

Bao The Whale

2025年1月時点で、YouTube登録者数が90万人以上、Twitchフォロワー数が60万人弱という、トップクラスの人気Vtuberです。また、歌手としての評価も高いです。下はBaoの公式歌動画の一覧です。

個人勢Vtuberですが、United Talent Agency(UTA)という芸能事務所に所属しています。ここはロサンゼルスにある芸能事務所で、ハリウッドの4大事務所に数えられるところでもあります。他にUTAに所属しているVtuberは、ShxtouIronmouseZentreyaHenya the genius(最後の3人はVShojoにも所属)がいるようです。

また、Baoは、Dooby(元ホロライブEnglishのワトソン・アメリア)の最初のコラボ配信に参加した3人のうちの1人でもあります。他の2人の参加者は、Dokibird(元Nijisanji Enのセレン 龍月)とFilianでした。


初の3DモデルでのオリジナルソングMV

Baoの活動は2014年にさかのぼります。最初はHikaru Stationの名前で歌い手として活動していましたが、2020年10月にVtuberとしてデビューしました。さらに、2021年8月には、現在のBaoという名前に変更しました。

このように、非常に活動歴の長いVtuberでありながら、これまで2Dモデルのみで活動して、3Dモデルを使ってきてはいませんでした。しかし、去年(2024年)8月、オリジナルソング「Final Bow」のMVが公開され、その中でようやく3Dデビューを果たしました。

Matara Kanとのコラボ中の告白

年が明けて、2025年1月11日に行われたBaoとVShojo所属のMatara Kan(元Nijisanji ENの狐坂ニナ)とのコラボ中に、Baoが衝撃の告白をしました。

それは、3Dデビューとなった「Final Bow」は、もともとは卒業ソングとなることを計画していて、この歌を公開した後にVtuberを引退しようと考えていたということでした。しかし、その後、3Dデビューを果たしてVtuberを続けるように考えを改めたのだそうです。

本記事では、以下、「Final Bow」と上の切り抜き動画から興味深い部分をスクリプトに起こして訳していこうと思います。

Final Bowのサビ

I wanna jump again
Feel the light on the surface
End the pain and then
I'll somehow make it out right back to you and
Feel brand new
I wanna go again
This time not scared of any end
Until my heart stops
When the curtains fall, you'll never forget it
Not even after my final bow

Bao The Whale - Final Bow

(筆者訳)
もう一度、飛び上がりたい。
素肌で光を感じたい。
痛みを終わらせてから、
必ず君のもとに戻って、
新しい自分を感じるんだ。
もう一度、行ってみたい。
今度はどんな結果になったとしても、
自分が信じるところまで。
カーテンが下りた後も忘れない。
最後の挨拶が終わった後までも。

(訳のポイント)
"surface"は「表面」ですが、「光を感じる」というところから体の表面と考えて「素肌」としました。
"I'll somehow make it out"は「なんとか乗り越える」という意味ですが、実現に向けての意思の強さを示す言葉として「必ず」と意訳しました。
"Until my heart stops"は「私の心が止まるまで」ですが、心=信念と考えて「自分が信じるところまで」としています。

(コメント)
ポジティブな歌詞ですが、卒業ソングの可能性があったと知ってから聞くと、「もう一度」の意味が胸に刺さる気がします。

3Dデビューが遅れた理由

Bao: Here's my big secret. Final Bow really was going to be my final song, and I was going to graduate.
Mata: Wait. When was the song?
Bao: If you notice, I think, a lot of Baobble Buddies were speculating it, but my 3D model is literally my first model, and the reason why I didn't debut it for so long is cuz I didn't want to graduate anymore, and it wasn't because I got in anywhere, and it wasn't because, you know, I wanted to, I don't know...
Mata: Girl. That hit me in the kokoro.
Bao: I just like, I don't know, I was going through a lot, and I went through a lot of epiphanies, and I had a lot of culture shock when I first became a Vtuber.

https://youtu.be/rYKeazr9SFA?si=vSIMUXWehjxHJwtS&t=49

(筆者訳)
Bao: 私の大きな秘密っていうのは、「Final Bow(最後の挨拶)」は、本当に最後の歌になる予定で、私は卒業するはずだったんだよ。
Mata: 待って。その歌っていつだっけ?
Bao: 気づいてたかもしれないし、Baobble Buddiesも大勢推測していたんだけど、あの3Dモデルは本当に1つ目のモデルで、なのにどうしてデビューまでこんなに時間がかかったかというと、もう卒業したくないって思うようになったからなんだ。どこかの事務所に受かったわけでもないし、なんていうか、希望があったというわけでも……
Mata: うう、それ、心にグサッと来た。
Bao: なんていうか、いろいろ大変なことがあったっていうか、何度も今まで気づいていなかったことにはっと気がつくことがあったっていうか、カルチャーショックをいくつも受けたって言う方がいいかな。Vtuberになったばかりの頃にね。

(訳のポイント)
"Baobble Buddies"はBaoのファンベースの名前なので、そのままにしました。
"literally my first model"は、そのまま訳すと「文字通り私の最初のモデル」で、厳密に解釈すれば最初の2Dモデルより前に作られた(あるいは、少なくともデザインされた)モデルということになるのですが、確認が取れないので強調の意に解して「本当に」とソフトに訳しました。
"kokoro"は日本語の「心」です。アニメファンの中で使われるスラングのようです。
"epiphanies"は「突然の気づき」や「悟り」という意味ですが、「ある時ふとこれまで分からなかったものが分かるようになる」というところから、上のように訳しました。

(コメント)
話の流れから、Final BowのMV自体はもっと前にできていたのですが、それを公開するときは卒業する時のつもりだったので、卒業したくないと思うようになったために逆に公開できなくなってしまった、ということなのだと理解しました。後の方でも同じことを別の言い方で言い直しています。

卒業を止めた理由

Bao: I've always been chronically online, and being chronically online is like all my social media is my diary, and I couldn't do that anymore. And for the people that I confided into, it would turn out to not be people I thought I could confide into, and it was just like such a sad continuous cycle of the same things over and over again, like everything turning out not to be the way I wanted it to be. And I just felt myself turning into someone that I could not recognize anymore. And during this time, I would go weeks without updating my community. Sometimes I went like a month without telling anyone what I was up to or why I wasn't streaming. It was because I was miserable, and I thought everyone hated me, and I thought that I would be just better off not existing online or anywhere. And so I was like "This is it, guys. This is it." And then I was like "Just kidding! We're so back! Yay! Happy ending!" I know, I finally made friends, lifelong friends. And, it's like, things that happen to you, people you meet, sometimes, it's like, perfect time is when you least expect it. And that's just sort of what happened.

https://youtu.be/rYKeazr9SFA?si=UYhTZ3qA-uiidJtK&t=182

(筆者訳)
Bao: 私はずっとネット中毒だったんだけど、ネット中毒っていうのはSNSが自分の日記みたいなもので、ある時からそれができなくなってしまったんだ。信頼して話を打ち明けた人が、後になって信頼できる人じゃないと分かって、そんな悲しいことが何度も何度も起きて、際限のない繰り返しになっていたの。すべてが私が望んでいたものじゃない形になってしまうみたいな感じ。そうしてるうちに、自分がもう自分じゃない誰かに変わってしまったみたいに感じるようになってきて。そういう時期には、何週間もファンに連絡しないでいなくなったり、時には1か月も何をしているのか、どうして配信しないのか誰にも言わずにいなくなる時もあったんだ。自分がみじめな気持ちで、みんなから嫌われていて、ネット上だろうが他のどこだろうがいない方がいいんじゃないかって思っていたからなんだよ。だから「これでおしまい。みんな、これでおしまいだよ」って。そしたら急に「なんて、冗談! ただいま! いえーい! ハッピーエンディングだよ!」って。ついに友達ができたんだよ。一生の友達がね。まるで、人生で起きることとか出会う人とかで、完璧なタイミングは一番予想してないタイミングで来るみたいな、そんなことが起きたんだよ。

(訳のポイント)
"chronically online"は、chronicallyが「慢性的に」という意味なので「ネット中毒」としました。
"confided into"は、"confide in"が普通の形ですが、おそらく同じ意味で使っている(あるいは強調している)と思います。
"This is it."は「これで終わりです」という意味の慣用句です。"That is it."とも言います。
"it's like"は、ここでの使われ方は「えっと」みたいな間をつなぐ言葉で、文法的な構造には影響を与えていないと考える方がいいと思います。

(コメント)
ここでは、友達ができてハッピーエンディングだったんだ、と単純に言っていますが、話をさらに聞いていくと、苦境を乗り越えるために他にもいろいろなことをしていたことがわかります。

Bao: I finally got over the worst of it, and started fixing things up from core, from the origin, which is like I need to change my sleeping habits, my work life balance habits. I need to stop being chronically online. I need to try and have some semblance of a life outside of being at my computer all day. I dropped everything, and moved, started over. I really really hard restarted my life. And that is the only reason I am still here.

https://youtu.be/rYKeazr9SFA?si=7i02u1fuwopsVxp6&t=377

(筆者訳)
Bao: ようやく最悪の状況から抜け出して、物事を立て直し始めたんだ。それこそ、核というか、自分の原点から。例えば、睡眠習慣だとかワークライフバランスだとかを直さないといけなかったり、ネット中毒を止めないといけなかったり、一日中コンピューターの前にいるんじゃない、何かまともな生活らしい形を作らないといけなかったんだ。だから、すべてを手放して、引っ越しもして、一からやり直したんだ。本当に人生をハードリセットしたんだよ。それが、今まだ私がここにいる唯一の理由なんだ。

(訳のポイント)
"semblance"は「形だけのもの」「中身の伴わない外見」のようなニュアンスの言葉です。ここでは「まず形から生活を立て直す」という意味合いで使われています。
"hard restarted"は、2語で1つの動詞として機能しています。

(コメント)
Baoに限らず、Vtuberは結構ハードな人生経験を持っている人がいる気がします。それに、そんなにハードでなくても、睡眠習慣に問題を抱えている人も多い気がしますね。

視聴者へのメッセージ

Mata: I get that. And I just hope for anybody listening, if you are where Bao is like, you can get out of it.
Bao: Yeah.
Mata: You can. Like, it's going to be work. It's not going to happen instantly. It's not going to happen easily either, right? Like, you had to put in a lot of work. You have to, you know, you have to probably cut some people out. You say you moved. You had to. It's hard to start going to bed at a reasonable time every time, and check in with yourself, and go to therapy, but you did it. And you're still doing it.
Bao: Yeah. It's, it's so hard. You know, when people say "it's a canon event," it's a canon event. Like, you wanted to be a strong person, and so you are given a difficult situation.
Mata: Yeah.
Bao: Or, like, you wanted to be kinder, and so you were dealt with an evil person in your life. And all of those things is so that you can become the version of yourself that you are hoping to be. And it was kind of through that, that I was able to pull myself together, and not waste everything I had built up for myself. Like, how awful would it be if I really just stepped away from it all?

https://youtu.be/rYKeazr9SFA?si=EYWML7g-uUkw21Xw&t=427

(筆者訳)
Mata: なるほどね。これは、もしこれを聞いている人の中で、Baoと同じような状況にいる人がいたら、きっと抜け出せるよって言いたいね。
Bao: うん。
Mata: もちろん、大仕事になる。すぐにうまくはいかないし、簡単にいくものでもないしね。たくさん努力しないといけないし、場合によっては誰かと関わりを絶たないといけないかもしれない。引っ越しをしたって言ったけど、しなきゃいけなかったんだよね。いつもまともな時間に寝たり、心身を管理したり、カウンセリングを受けに行ったりすることは始めるのも大変なことだけど、始めたんだ。そして、今も続けてるんだよ。
Bao: うん。本当に、大変だったよ。よく人は「正史の出来事」っていうけど、これはまさに正史の出来事だね。強い人になりたいと思うなら、困難な状況が与えられるんだ。
Mata: そうだね。
Bao: あるいは、優しくなりたいなら、人生の中で悪い人と対峙させられる。こういうことはすべて、自分がなりたいと願うバージョンの自分になるためのものなんだよ。それを乗り越えたからこそ、自分を取り戻して、自分自身で築き上げたすべてを無駄にしないようにできたんだ。もし私が本当にすべてから身を引いてしまってたら、どんなにひどいことだったか。

(訳のポイント)
"it's going to be work"の"work"は動詞ではなく名詞で「仕事」や「労力」という意味です。ここでは「大仕事」と訳しました。
"canon event"の"canon"は「正典」や「正史」という意味で、物語の進行上、絶対に不可欠な重要な部分だったり、多くのサイドストーリーのあるシリーズで本筋に関係している重要な部分を指します。また、"canon event"は比喩的に「人生の中で逃れることができない出来事」という意味でも使われます。
"you were dealt with an evil person"は、文法的に間違っていて本来はwithが不要です。"deal"は「カードを配る」という意味で、この場合は比喩的に「あなたには悪い人物のカードが配られる」ということになり、ここでは「悪い人と対峙させられる」と訳しました。
"it was kind of through that, that I was able to…"は、いわゆる強調構文になります。

(コメント)
Matara Kanは、こういう人生相談的な話になったとき、いいコメントをして、会話をつなげていくことができる人だと思います。

Matara Kanが共感する理由

Mata: When you said a vision, I just need you to know how much I can relate to that because, I was like, a few summers ago, maybe before summer, I was watching Yorimoi with Mint. … Before we started watching the anime, I would cry for like 2 hours straight, and she was very nice. She's such a good friend. She was so nice. She was like "Oh matara," like "I'm here for you." And then I swear to you, Bao, like I cannot explain this too. I had drunk a liter of wine that day. I looked around me. It was just bottles of wine, junk food in my crummy apartment that I didn't clean, that everything. And just something happened in me. And I was like "Oh my God." My biggest fear was being in that same place in a year from now crying to Mint about the same problems, crying to Mint about like "I don't feel appreciated." I don't want to go into the details of it, but you can imagine the details of it based on the place where I was. And I just had a vision of like "Oh my God." And that's why I was like "I'm leaving!" I don't have a plan. VShojo wasn't there. I didn't have a plan. … I cannot cry about the same situations, the same people, the same. It's the same stuff. I was like I'm crying about the same things over and over and over again. And that's why I did what I did. I get it with the epiphany. …
Bao: Yeah. Oh, it's that exact feeling. I just being right there in that moment and you feel it in your gut. And it's just welling up inside you like it can't.

https://youtu.be/rYKeazr9SFA?si=Sf5hPfqB-zKEDUPY&t=584

(筆者訳)
Mata: さっき「未来が見えた」って言ったことについて、私がどのくらい共感してるのか伝えなきゃと思うから言うんだけど、数年くらい前の夏、多分、夏の前かな、ミントとよりもい(注:アニメ「宇宙よりも遠い場所」)を(毎週)見てて、……、アニメを見る前に毎回2時間くらいずっと泣いてたんだよね。ミントはすごく優しくて、いい友達なんだよ。本当に優しくて、「よしよし、マタラ」とか「一緒にいるよ」って言ってくれたんだ。そしたらある時、誓ってもいいけど、Bao、同じように説明できないことが起きたんだ。その日は1リットルくらいワインを飲んでて、はっと顔を上げたら、周りにはワインのボトルとかジャンクフードとかが全然片付けてない薄汚いアパートの中にあって、それを見たとき、自分の中で何かが起きたんだよ。「何をやってるんだ」って。その時一番怖かったのは、1年後も同じ場所でミントに同じことで泣きついて、ミントに「自分が認められてない気がする」って泣いていて。詳しい話はやめておくけど、その時に所属してたところから想像できる通りだよ。とにかく、その時に「見えた」んだよ。「何をやってるんだ」って。それが「もうやめよう!」ってなった理由だったんだ。辞めた後の予定はないし、VShojoはその時にはまだ関係なかったし、なんの計画もなかったんだ。……、もう泣きたくなかったんだ。同じ状況で、同じ人間関係で、同じ、全部同じなんだ。同じことで何度も何度も何度も泣いてばかりいたんだ。だから、あの時、ああしたんだよ。だから、「気がついた」って感じが分かるんだよね。……
Bao: うん。そう、まさにその感じなんだよ。その瞬間にその場にいながら、直観でそれを感じるっていうか。「これはダメだ」って自分の中から湧き上がってくるみたいな感じだった。

(訳のポイント)
"a vision"は、前の部分でBaoが、未来の自分の状況が突然見えた、という体験を語っていて、それを受けているところです。後に出てくるepiphanyとほぼ同じ意味で使っています。
"I can relate"の"relate"は「共感する」という動詞です。
"Yorimoi"は日本のアニメ「宇宙よりも遠い場所」の略称です。日本語での略称がそのまま使われています。
"that everything"は、文法的には正しくないですが「そのすべて」のようにthatがeverythingを修飾していると考えるのが適当だと思います。ここでは前後のつながりから「それを見たとき」と意訳しています。
最後の"it can't"は"it can't be like this"を最後まで言い切らなかった形だと思います。

(コメント)
これは、ミント(元Nijisanji ENのぽむ・れいんぱふ)とMatara Kanが、まだNijisanji ENに所属していた時の話をしています。この後、Matara KanはNijisanji ENを辞めてVShojoに移籍しました。

いいなと思ったら応援しよう!