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無能だと言われてにじさんじを追放されたけれど、転生したら無双した件

なろう風のタイトルにしてみましたが、現実にこれ以上に事態を端的に説明できる表現を思いつかないほどの劇的な逆転劇だったので、知っている範囲でその事件を説明してみようと思います。

この記事を書いたのは、2024年に大きな転換期を迎えた北米vtuberの業界に最大の影響を与えたこの事件の詳細な経過が、どういうわけか日本語圏ではほぼ語られておらず、その結果があまりにも過小評価されていると感じたためです。


前提知識

この記事を読む前に、先日の北米vtuberに関する記事を読んで置くと、事件の周囲を取り巻く状況がより分かるのではないかと思います。

事件の主役はセレン 龍月というカナダ在住のvtuberでにじさんじ傘下のNIJISANJI ENの第3世代の一人でした。第1世代のデビューの2か月後の2021年7月から活動を開始した、NIJISANJI ENの最古参の1人です。

これが活動時のチャンネルですが、全てのコンテンツはすでに見ることができません。

事件の流れ

2023年のクリスマスに発表されたカバーソング

2023年のクリスマスに、セレン 龍月のチャンネルにこのカバーソングのMVが公表され、直後ににじさんじの運営によって削除されるという出来事が起きました。これが事件の始まりでした。

その後、セレン 龍月はtwitterで、ファンのお金と努力の詰まったビデオなので自由に再アップロードしてください、とのメッセージを投稿しました。上のビデオはそのようにしてアップロードされたものの1つです。

前世アカウントへの投稿

翌日の12月26日、セレン 龍月の前世であるDokibirdのtwitterアカウントに、あることで160万円以上を失ってしまったという投稿がありました。あることとは、カバーソングのMVの製作費であることは明らかでした。

1度目の自殺未遂

さらに翌日の12月27日、事故により入院して、そのまましばらくは入院を続けることになった、とtwitterに投稿がありました。しかし、後に、これは本人が書いたものではなく、にじさんじの運営がセレン 龍月のアカウントに無断でログインして、本人になりすまして投稿したものだと判明します。

さらに、この事故というのは、実は自殺未遂であったと、本人が後に説明しています。

帰宅

12月31日、セレン 龍月の前世のDokibirdのtwitterアカウントに、帰宅したという報告が上がります。そして、1月3日にはベッドから初めて出たという報告がありました。その後も1日1回程度の投稿が続きましたが、1月10日を最後に、投稿が止まります。

2度目の自殺未遂

1度目の自殺未遂から数週間後、退院して自宅に戻っていた時に、2度目の自殺未遂が起きました。両親が数時間探し回って、最悪の事態が起きる前に発見されたため助かったと、本人が後に述懐しています。

この時期は、精神的にどん底まで落ち込んで、真っ暗な中にいたそうです。

卒業を運営に申し入れ

1月26日、セレン 龍月はにじさんじの運営に卒業をしたいと申し入れていたことを、本人が後に公表しています。

心配するファンの声

1月の終わりごろになると、長期間、音信がなくなってしまったことで、心配するファンの声がどんどん大きくなっていきました。その中には、友人でもあるプロゲーマーのrprも含まれていました。

にじさんじからの返事はなかった

卒業の申し入れに対して、にじさんじの運営からの返事がないまま1週間以上の時間が過ぎたため、弁護士から、セレン 龍月側から見た事情をまとめた文書をにじさんじ側の弁護士に見せることで、事態を打開しようと提案され、文書は2月5日に送信されました。その際、その文書はそのままの形で公表されることは意図していないとにじさんじ側の弁護士に伝えられたそうです。(Dokibirdのtwitterより)

にじさんじによる契約解除の発表

文書が送信されて2時間も経たないうちに、にじさんじはセレン 龍月の契約解除をtwitter上で発表しました。セレン 龍月には契約解除の件を直接知らされなかったため、twitterでの発表を見て、自分が契約解除されたことを知ったようです。

発表の内容は、外部向けの発表として一般的に行われるような、契約解除の事実と短い理由説明からなるような簡潔なものではなく、3ページにもわたってセレン 龍月に対する非難が続く、長大なものでした。

安否を心配していたファンにとって、約1か月ぶりに聞いた消息が契約解除と運営からの非難であったことで、大きな混乱が広がります。

さらに、契約解除の発表よりも前に、セレン 龍月のYouTubeチャンネルは閉鎖されていて、ファンは動画のアーカイブをする時間すら与えられませんでした。

セレン 龍月本人による説明

セレン 龍月は、前世のDokibirdのtwitterアカウントで、約1か月ぶりにファンに向けた投稿を行いました。その内容は、「もう誰かに黙らされることがなくなったので」と前置きして、

  • 入院の原因が自殺未遂であったこと

  • 内部でのいじめがあったことと、人間関係がギスギスしていてサポート体制にも欠ける環境にいたことが、何か月もの間積み重なったことが自殺未遂の原因だったこと

  • 1月26日に卒業を申し入れたこと

を説明し、前世であるDokibirdのチャンネルに戻って、新しい始まりとして旧正月のお祝いをしたい、と述べました。

内部でのいじめの件への言及は、にじさんじが先に発表した契約解除の文書で、セレン 龍月が内部の関係者にハラスメントを行っていたという、にじさんじ側の主張への反論だったと思われます。

また、セレン 龍月のファンマークであった🏆と同じ絵文字を、Dokibirdのファンマークとして使うことも表明しました。絵文字1文字に知的財産権は及ばないことを逆手に取った大胆な行動でした。

クリエイターとスポンサーの反発

にじさんじが公開した契約解除の発表で触れられていた、制作料の支払い遅延の件について、該当のクリエイターがtwitterで反応し、制作料を何か月も滞納したのはにじさんじの運営の方で、最終的に、セレン 龍月が制作料を支払わない運営に代わって個人的に支払いを肩代わりしてくれたと暴露しました。

さらに、他の多くのセレン 龍月と仕事をしたことのあるクリエイターやスポンサーが、にじさんじの主張は間違っているとして、セレン 龍月への支持を表明し、中にはにじさんじとの取引を完全に停止すると宣言するものも現れました。

ファンの反発

契約解除の騒動の後、Dokibirdが寝て起きると、YouTubeチャンネル登録者数がすでに23万人を超えていました。そして、復帰配信の中で年内に50万人を目指すぞ、と言いましたが、その5日後に50万人を達成しました。

さらに、内部でのいじめの件への言及が疑心暗鬼を呼んで、他のNIJISANJI EN所属タレントのチャンネル登録解除を行う動きが広がりました。

また、にじさんじを「ブラック企業」と呼ぶことが、ファンの間で支持を集めるようになります。Wikipedia英語版のBlack companyのページには、2024年12月現在もにじさんじが関連項目として表示されています。

業績への影響は無視できると発表

にじさんじを経営するANYCOLORは、2月7日、この事件が「業績に与える影響は無視できる(negligible)」と発表しました。

しかし、すでに少なくないクリエイターやスポンサーがにじさんじとの取引を停止し、所属タレントのチャンネル登録数が減少する中でのこの発表は、海外ファンを軽視していると感じさせ、にじさんじへの反発がさらに強くなることになりました。

ファンネームを取り返す

Dokibirdの配信内でファンの呼び名を考えている時に、セレン 龍月の時のファンネームであるDragoonsは造語ではなく、辞書に載っている普通名詞であるから著作権の対象外だと気づいて、DokibirdのファンネームもDragoonsとなることになりました。

企業広報における歴史的な大惨事

2月13日、契約解除から約1週間後、企業広報の失敗事例として教科書に載って歴史的に語り継がれてもおかしくないほどの大惨事が起きました。

この動画は、にじさんじの公式アカウントではなく、所属タレントの一人でありNIJISANJI ENの第1世代のエリーラ ペンドラのチャンネルに投稿されました。

元動画は真っ黒な背景に声だけの動画でしたが、日本語圏では発言しているvtuberの画像入りのこちらの動画の方が見られていると思います。

この動画を見た後の日本語圏での反応は運営に対して同情的でセレン 龍月に対して批判的なものが多かったのですが、海外での反応は真逆でした。

この動画の後で、態度を決めかねていた多くのファンがDokibirdの側に立つことを決めたようで、Dokibirdのチャンネル登録者数が再び急増し、1週間も経たないうちに、10万件ほどの増加を見せました。

https://youtu.be/_6RRgGwXqxs?si=FLNDCViG3hQSFWHT&t=1226

この動画の何が批判されたのかは、後でまとめて説明することにしますが、一点だけ特記しておくと、この動画はライブ配信されたのですが、Dokibirdの配信の裏で行われたため、当事者であるセレン 龍月/Dokibirdのファンが意図的に排除されたと怒りを募らせることになりました。

にじさんじからのもう一つの動画投稿

続けて、にじさんじの公式チャンネルからもう一つの動画が投稿されました。にじさんじを経営するANYCOLORのCEOが登場して、英語で事件についての謝罪と説明を行った動画です。

この動画を見た海外ファンは、あまりにも的の外れたことを話し続けるCEOの姿に、英語を話しているはずなのに何を話しているのか分からない、という感想を持ったようです。その結果、CEOは所属タレントのことにもファンのことにも興味がなくて、お金のことだけ考えているのではないかという結論に至ったようです。

Dokibirdの反論

にじさんじの動画公開の翌朝、Dokibirdが動画の内容に対する反論を投稿しました。

その内容は要約すると、

  • この件はこれで終わりにしたいと思っていて、自分から法的手段に訴える意図はない。

  • にじさんじの弁護士に送った文書は、弁護士だけが閲覧することを意図したもので、公開されるべき性質のものではない。

  • 自分から私的な文書を公開するつもりはないし、他の人にもしてほしくない。なぜなら、自分が2度自殺未遂をしたような状況に、他の人が追い込まれて欲しくないから。

という内容で、ファンにもにじさんじにも冷静な対応を求めるものでした。

そして、これで事件はようやく収束を迎えます。

Fortniteのアカウントを取り返す

セレン 龍月の時のEpicアカウントには、契約解除で他のアカウントへのアクセスができなくなった時に同時にアクセスできなくなっていたようですが、それまで購入したスキンを返してもらえないかとEpicに連絡を取っていたそうです。

2か月間連絡が付かず、最後の手段として4月8日にtwitterに投稿してお願いしたところ、すぐに、セレン 龍月のEpicアカウントをDokibirdにそのまま返してもらえたそうです。

実は、このことは重要な問題を暗示しています。それは、企業所属のvtuberが使うゲームアカウントは、企業のものなのかvtuber本人のものなのかという点です。それは、企業vtuberの主体が企業なのか中の人なのかという根本的な問いにつながるものです。

Epicはこの一件で、企業vtuberの主体を企業ではなく中の人であるという判断をしたと考えることができます。

NIJISANJI ENからの離脱が続く

2024年はNIJISANJI EN所属のvtuberの離脱が連続しました。2023年は3人だったのが、2024年は6人になりました。特に第9世代は、2023年10月のデビューからわずか1年で3人中2人が卒業するという事態となっています。

NIJISANJI ENの売り上げが半減

https://www.reddit.com/r/kurosanji/comments/1fe4fk4/nnnnegligible/

9月ににじさんじを経営するANYCOLORの第1四半期(5月~7月)の決算が発表されましたが、NIJISANJI ENの売り上げが半減したことが判明しました。

2月7日の、業績への影響は無視できるという発表は、投資家に対して虚偽の説明をしたことになるのではないでしょうか。それとも、この事態を予測できないほどの無能であったから、虚偽の説明には当たらないと考えているのでしょうか。

Vtuberの複数の賞を受賞&ノミネート(追記:2024/12/15)

2024年のVtuber賞で4部門にノミネートされ、2部門で受賞しました。

  • Best FPS Vtuber  -  受賞

  • Most Dedicated Fanbase  -  受賞

  • Best Vtuber Event  -  ノミネート

  • Vtuber of the Year  -  ノミネート

特に、Most Dedicated Fanbaseについては明言はしませんが、転生をしても変わらずに支え続けたファンの献身が評価されたことは明白でした。

さらに、受賞はなりませんでしたが、Streamer賞のBest Vtuber部門にもノミネートされました。

例のカバーソングをコンサートで歌う(追記:2024/12/23)

公式の切り抜き動画が公表されるのを待っていましたが、まだ時間がかかるようなので、先に記事を更新してしまいます。)

2023年のクリスマスにセレン 龍月のチャンネルで発表され、すべての事件のきっかけとなったカバーソング「Last Cup of Cofee」を、1年後の2024年12月14日に行われた、Dokibirdとミント・ファントームの合同3Dコンサートで歌いました。

この案は、実は共演相手のミント・ファントームの提案だったのですが、ファンの間では、このパフォーマンスは一連の事件のすべての感情的な締め括りとしてハッピーエンディングの象徴として受け止められたようです。

実は、この歌はDokibirdがセレン 龍月になる前、Dokibirdが一度目に卒業をした時に歌ったでもありました。

つまり、この歌は、セレン 龍月/Dokibirdの節目に3回歌われた、非常に象徴的な歌となったのです。

その他の参考文献

ここまでの経緯をまとめるのに参考にした資料は、すでに本文中にリンクしてあるものもありますが、それ以外の資料としては次のようなものを参考にしています。

誰が悪かったのか?

誰が悪かったのかを確定することは、特に不十分な情報しかない状態では非常に難しいことですし、軽々しくしてよいことではないですが、それでも個別の事柄については、何が起きたかを推測するに足る情報があるものもあります。

法的な問題点については、タイ在住の米国法弁護士が7時間に及ぶライブストリームを始めとしたいくつかの配信で検討していて、海外ファンの中ではこの内容が専門家の見方として受け止められているようです。全てを見るのは長いのですが、こちらのクリップ動画が要点をまとめているのではないかと思います。

クリスマスのカバーソングのMVの許諾について

まず、発端となったクリスマスのカバーソングのMVについてです。

にじさんじが発表した契約解除の文書中で、MVの中に許諾確認が取れていないものが含まれているという説明がありました。

それに対し、オリジナルの作者が、カバーソングの発表の1年半近く前の2022年8月に、にじさんじに許諾を与えるとの連絡をしたという証言をしています。つまり、このカバーソングのプロジェクトには1年半の準備期間がありながら、にじさんじの運営は権利関係の許諾確認をサボっていたことが判明しました。

しかし、MVの他の権利関係については、アニメーションについてはセレン 龍月側から発注したもので、費用についても例によってセレン 龍月が支払っているので、問題はありません。残っているものは、にじさんじが保持している知的所有権のみとなります。それなのに、なぜ許諾が出せないのでしょうか?

セレン 龍月がクリエイターにオフレコで事情説明したメッセージがリークされていて、それによると、MVにはENグループ全員がカメオ出演していますが、MVが公開された後に動画に登場したくないと文句を言ったタレントがいたことが原因だということでした。しかし、これが本当ならば、問題は知的所有権の問題ではなく、にじさんじの内部ルールの問題であることになります。

セレン 龍月の契約解除について

契約解除が妥当であったかについての議論をすることは難しいですが、契約解除の書類をtwitter上に公開したことについては大いに議論の余地があります。

にじさんじが公開した契約解除の通知書類は3ページにも渡る内容で、契約解除に至るセレン 龍月の所業を細かく説明したものでした。しかし、上で説明したようにその内容には正しさの点で疑問のあるものもあり、また、正しい内容であったとしてもtwitterのような場所に公開することは、名誉棄損に該当する可能性があると指摘がされています。ただし、検討した弁護士は日本法の専門ではないため、可能性の指摘に留まっています。

例の真っ黒な動画について

エリーラ ペンドラのチャンネルに投稿された背景が真っ黒で声だけの動画については、にじさんじの側に大きな法的リスクがあることが指摘されています。

まず、セレン 龍月がにじさんじに送った文書は、弁護士以外に見せることを意図したものではないとセレン 龍月/Dokibirdによって説明されています。これは、つまりこの文書は弁護士の守秘義務に当たるのではないかということです。

しかし、動画では、にじさんじの所属vtuberであるヴォックス・アクマが、その文書に「徹底的に」目を通したと発言していて、にじさんじ側での守秘義務違反が起きたのではないかと強い疑いが起きています。ただし、ここでも検討した弁護士は日本法の専門ではないため、欧米ではアウトであっても、日本でどう判断されるかは分からないということのようです。

もっと大きな問題として指摘されているのは、その文書の中にセレン 龍月に関する健康状態を含む様々な個人情報が含まれていたことについてです。セレン 龍月はカナダ人であるのですが、カナダは個人情報の保護について非常に厳しい法律を持っています。そのため、その文書に含まれる個人情報を見るべきでない人が見たことについて、カナダの法廷に提訴すれば、にじさんじは負けるだろうと指摘されています。

最後に、セレン 龍月が電話の内容を無断で録音したという件についてですが、法的には、個人の場合、カナダでは電話で会話している当事者の一方が他方に無断で録音することは法律で認められていて、裁判の証拠とすることも可能です。

にじさんじの企業広報の失敗について

この事件は、法的な問題としては可能性が指摘されるのみで現実の問題とはなりませんでしたが、企業広報の面ではにじさんじの海外事業に壊滅的なダメージを与える結果となりました。しかし、具体的にどのようなところが問題だったのでしょうか?

このことについては、あるvtuberが知り合いの企業広報を専門とする大学教授(かつ、セレン 龍月のファン)をゲストに呼んで、専門家の立場からコメントをしてもらっています。

この動画の内容に加えて、twitterやredditのコメントやYouTubeの他の動画やコメントなどから、にじさんじの企業広報の失敗についてのポイントをまとめてみます。

にじさんじの運営はなぜ悪事を勝手に自白するのか?

最も大きな謎として語られているのは、にじさんじの運営が誰も何も言う前に自ら饒舌にしゃべりだして墓穴を掘っていくことでした。まるで、出来の悪いミステリーで犯人が追い詰められてもいないのに自分の悪事を突然話し出すような意味不明な状況のように見えていたようです。あまりの意味不明さに、こんなミームが作られたほどです。

これについて、日本のファンの側の反応を比較して、日本と海外(特に北米)では、企業広報に対するファンの反応が極めて異なるという結論に至りました。

日本のファンは、公式の発表を強く信頼しています。そのため、運営が毅然とした態度で発表すると、その内容に対する信頼感が高まるようです。にじさんじの広報戦略は、何かが起きる前に先手を打って公式から毅然とした態度で詳細な情報を出すことで、大衆を味方につけるということのように見えました。確かに、日本ではうまく行きそうな気がしますし、実際に、この事件について、日本のファンはにじさんじの運営を支持する声が圧倒的です。

しかし、海外のファンは、個々のクリエイターの声をより重視します。公式が発表した内容でも、個々のクリエイターが異なることを言えば、どちらの内容が正しいのかを吟味し始めます。結果的に、にじさんじの運営は、強圧的で嘘つきで、しかも無能であるという印象を与えることになったように思われます。

なお、少なくとも北米の企業広報の常識としては、このようなケースでは公には詳細な情報は出さず、関係者の間だけで粛々と物事を進めていくものだということのようです。

例の真っ黒な動画について

ここで、例の真っ黒な背景で声だけの動画について触れておきたいと思います。先に述べたように、この動画を見た後の日本語圏での反応は運営に対して同情的でセレン 龍月に対して批判的なものが多かったのですが、海外での反応は真逆でした。

まず、真っ黒な画面でvtuberの声だけが聞こえるという動画の構成がトラウマを引き起こすほどの恐怖動画に映ったようです。テロリストが公開した人質の動画を連想するというコメントを複数人が言っていました。

私がこの動画を見た時に思ったのは、スマップの謝罪会見に似ているな、ということでした。細かく見るといろいろと違う点もあるのですが、発想の根源は同じところから来ているのではないかという気がしたのです。スマップの謝罪会見は日本人にも受け入れられないものでしたが、海外ファンからすればそれに輪をかけて得体の知れない恐怖を感じさせるものであるということなのでしょう。

これも、やはり日本と海外の文化の違いということなのだろうと思いました。

なぜ他のタレントを次々と巻き込んだのか?

この動画については、法的な点でもいろいろと危ういところがあったのですが、企業広報の面から言えば、他の所属vtuberを事件に巻き込んだことが最大の失敗でした。そのせいで、本来ならばセレン 龍月のみで留まるはずだった被害が、他のタレントへと飛び火していったからです。

他のタレントを巻き込むという点では、最初の契約解除の発表から間違っていました。あの文書で、セレン 龍月が内部の関係者にハラスメントを行っていたというしなくてもよい主張をしたために、この問題がセレン 龍月とにじさんじ運営の間だけで起きたものではないということが公式な情報として拡散してしまったからです。

にじさんじの広報は、自らの首を絞めたと言うことができると思います。

なぜファンが軽視されたのか?

にじさんじの広報で次に目立ったのは、ファンの徹底的な軽視、あるいは、無視でした。NIJISANJI ENの運営にとって、ファンは自分たちの活動を支えているものではなく、敵対的で活動の妨害をしてくるものだという認識であったのではないかと感じられました。

この点に関連して海外ファンの間で語られている憶測に、NIJISANJI ENの運営は英語が堪能ではないのではないかということがあります。所属タレントの管理について、運営の英語力の不足を補うため、日本語に堪能な所属タレントに翻訳を任せることが常態化し、タレント間に非公式の上下関係が生まれていたのではないかという憶測があるのです。

事の真偽はともかく、もしNIJISANJI ENの運営が英語に堪能でなければ、運営が海外ファンの反応を大きく読み間違えてしまうことも、腑に落ちる点があります。(もし、海外ファンの事情を特定のタレントの情報のみに依存していたのなら、なおさらです。)

この事件が海外vtuber界にもたらしたもの

この事件は、海外のvtuber界に巨大な影響をもたらしました。その一部については、前回の記事に触れましたが、ここではそれ以外の事柄について触れておきたいと思います。

中の人がvtuberの主体と認知される

vtuberの文化は、その成立の経緯から、バーチャル世界の独立した存在であり、現実世界の人間が演技しているものではないという建前を重んじるものでした。しかし、このことは中の人がどれだけの情熱をその仕事に注いでも、その仕事に真面目であるほど、それを公表することができないという矛盾を孕んでいました。

しかし、セレン 龍月の事件で、セレン 龍月がDokibirdであることを語ることを止めるファンは誰もいませんでした。それどころか、積極的にDokibirdを支援するように宣伝されるほどでした。セレン 龍月と仕事で関わった他のクリエイターもDokibirdがセレン 龍月と同一人物であることを当然のこととして話をしました。

その結果、vtuberの中の人が、その仕事に対する見返りを一番に受ける立場だという常識が共有されるようになり、前世や転生について語ることがタブーではなくなりました。そして、企業勢vtuberが卒業するときには、姿を変えても中の人を支えていくとファンが宣言するのが定番となりました。

もちろん、前世や転生はvtuberの世界観に反するため、それについて語る場合にはTPOに注意しなければなりませんが、少なくとも以前のようなタブーではなくなりました。

運営によるやらせやなりすましを疑う

にじさんじの運営は、この事件を通して、タレントのtwitterアカウントからなりすまし投稿をしたり、例の真っ黒な動画でタレントに用意した原稿を読ませたりと、運営の力を使ってタレントを操るということをしました。(あるいは、したことをファンに強く疑われています。)

そのため、何か事件が起きた時、タレントが運営を庇うような発言をすると、それが本人の意見なのか運営の用意したシナリオなのかを疑うようになりました。

例えば、最近セレス・ファウナが卒業する発表を行ったことに対してオーロ・クロニーがコメントした時に、運営が用意した原稿を読んでいるわけじゃないとわざわざ説明をしています。

セレン 龍月/Dokibirdの人柄

ここまで読んだ人は、セレン 龍月/Dokibirdがどういうvtuberであったのか興味がわいてきたかもしれません。どのような外見をしているのか、どのような配信をするのか、などは少し調べれば簡単に分かると思いますので、ここではもう少し別の角度から、どのような人物であるのかを掘り下げてみたいと思います。

ファンに還元することを第一に考える

セレン 龍月はファンに還元することを常に考えているタイプのvtuberでした。そのことについて配信中に語った時の切り抜き動画があります。

ファンからただお金をもらっているだけでは自分が納得しないから、常に何かを返していかないといけないという強い信念を持っているようです。これは、この事件で自殺未遂をするほどの精神状態だった時ですら、同じことを言い続けています。

この時、Dokibirdは、カバーソングの損失を賄うために、エモートのイラストを描いてファンに売っていました。おそらく体調を心配したファンからエモートを受け取らなくてもお金を渡したいと言われたことに対して、お金をもらうだけなのは嫌で、必ず何かを返したいのだと答えています。

ホロライブの七詩ムメイとの友情

セレン 龍月とホロライブの七詩ムメイはデビュー前からの友人であったことが知られています。

この動画は、セレン 龍月と七詩ムメイがデビュー前に、お互いに自分が入る事務所に相手も入ることになったのだと勘違いしていて、しばらくの間その誤解をしたままだった、というエピソードを語っているところです。

2月6日、セレン 龍月がにじさんじから突然契約解除された翌日、Dokibirdがこのツイートをしました。

shachimuとは七詩ムメイの前世のtwitterアカウントとして知られていますが、契約解除をされた友人を心配して、所属事務所の枠を超えて、友人を支えるために自宅に呼んだというエピソードをDokibirdが語っているところなのです。

ミント・ファントームとの友情

ミント・ファントームは、セレン 龍月の契約解除とほぼ同時期に卒業した元NIJISANJI EN所属vtuberのぽむ*れいんぱふの転生です。

今では2人はコラボ配信もよく行い、今月12月には合同で3Dコンサートも開くほど親密にしていますが、転生後、しばらくの間は交流がなかったそうです。

この動画は、どうして交流がなかったのか、どういう経緯で再び交流が生まれるようになったのかを語っているところを切り抜いたものです。

ミント・ファントームの側はDokibirdがにじさんじ時代の交友関係とは距離を置きたいと思っているのではないかと遠慮していて、Dokibirdは事件のせいでにじさんじの関係者からは嫌われているのではないかと怖がっていたということのようです。

それが、ミント・ファントームがDokibirdのtwitterをフォローして、Dokibirdがそのフォロー返しをしたところを、Dokibirdのマネジメントが見つけて、ミント・ファントームを企画が進行中だったイベントに参加しないかと打診をしたところ、OKとなったことで交流が復活したそうです。

これがそのイベントで、2人が再会したシーンです。

【おまけ】ロマンチックな憶測

本記事の本編はここまでで終わりですが、ここから先は、少しロマンチックな憶測というか妄想というか二次創作の類のおまけの話になります。根拠がゼロのこうだったらいいなというレベルの話なので、この先は読まなくても大丈夫です。

ホロライブのワトソン・アメリアはなぜ卒業したのか?

9月30日にホロライブのワトソン・アメリアが卒業しましたが、この卒業は非常に謎に包まれたものでした。

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