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白日#1

誰だろう? 今日、世界が終わるんだなんて言ったの。現在、ミサイルが灰色の空を飛び交い、僕の家の窓ガラスには爆風でひびが入っている。僕はひびに粘着テープを貼り、部屋に入ってくる風をしのいでいる。
「ねえ。舞。窓のひび、どうにかしなくっちゃな」
舞はくすりと笑って、
「それ、今日に言う?」
と言った。
「今日だからこそ言うんだよ」
「なんで」
「最期の日なんてそんなものさ」
舞は、台所に立って、朝ご飯を作っていた。とんとんと一定のリズムで舞は大根を切っている。僕がリクエストをしたふろふき大根だ。僕が、
「今日の朝、ふろふき大根食べたい」
と言ったら、舞はため息をついて、
「大根を買うのも、スーパーマーケットは潰れてるし、そんなの簡単に作れるわけないでしょ」
僕がそれを聞いて、隣の農家のおじいさんの畑から、表面だけ焦げた大根を抜いてきた。おじいさんはもう死んでいる。
「ほら」
と言って、大根を舞に手渡した。舞は大笑いした。
「なんとかなるんだよ」
僕が言うと、
「貴方の言うことはなぜだか説得力あるのよね」と舞は大根の泥を払う。
「これならいけるっか」
「うん。ふろふき大根がいいな」
「いいわよ」
僕は爪先に挟まった泥を洗いに洗面台に向かった。石鹸でよく手を洗い、顔を上げて
、ふと、洗面台の鏡を見ると、僕の顔がいつもの僕でないような気がした。僕はじっと3分間、自分の顔を見つめた。僕は自分の顔を真正面から眺めたり、真横を鏡でうつしたりした。でも、僕の顔はこんなだっけと不思議な思いに囚われる。いつの間にかできた皺かなと思ったり、前髪が少し後退した髪を見たりした。
それでも、僕は納得できずに、台所で大根を切っている舞に聞く。
ねえ。僕の顔、変じゃない? 舞は大根を切るのをやめ、背中越しだった顔を、僕の顔に近づける。
「うーん。貴方の顔だと思うけど」
僕がその言葉にがっかりしていると、
「でも確かに違うような……」
と舞は言った。

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