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いつの日か #3
佳奈の心臓はやはり悪くなっていった。石化した心臓は血液を送る力を失っている。「佳奈」と言って、僕は佳奈の上半身を起こし、佳奈の顔を僕の胸にもたせかける。だらりと落とした腕を僕は持ち上げ、握る。「ねえ。佳奈」と言うと、佳奈の唇は微かに動く。
「好きよ」
佳奈は言う。僕だって。そうだよ。僕は言う。ねえ。結婚式しないか。と僕が言うと、佳奈は驚き、その後、微笑む。「あと、2分」僕が言うと、そうね、と佳奈は頷く。
カフェの椅子に座りながら、街を歩くムッシュやマドモアゼルにカメラを向け、僕は、シャッターを切る。僕はカメラの今撮った写真をウインドウで確かめる。悪くない写真だ。僕は、テーブルの上のカフェオレに手を伸ばす。カメラはCANONのR5だった。悪くないと僕は独り言を発する。
「あと1分」僕と、佳奈は手を取りあう。冷たい手。細い指。僕は泣いていた。佳奈は、ねえ、なぜ泣くの? 私は悲しくなんかない。だって、いつでもあなたのそばにいられるから。私は、あなたの傍にずっといる。いつでも思い出してね。浮気はゆるさないから。と佳奈は怒った振りをする。
そこで、僕は、病室の窓のブラインドを開ける。真夏の太陽が燦燦と輝いている。もう佳奈に泣いている姿を見せたくなくて、僕はそっと、ベッドに腰掛ける。するとさっきまで白かった太陽が黒く欠けていく。昨日の夜、テレビで皆既日食のニュースがテレビで特集が組まれていた。30年に一度の皆既日食が日本各地で見られます、とアナウンサーが言っていた。太陽が欠けていく。僕の輪郭も欠けていく。僕は佳奈の方を振り返る。佳奈は微笑んでいた。ねえ、30年に一度よ。次の日食まで私達、生きているわよね。と冗談を言う。うん。と僕は言う。
太陽と月が一直線上に並ぶ。太陽が君で、僕が月だ。太陽が輝きだす。ダイヤモンドリングだった。きらきらと輝く太陽の光は僕達の結婚指輪だった。私と結婚してくれてありがとう。と佳奈は言う。僕こそ。と言って、誓いのキスを佳奈にする。佳奈の目から涙が零れる。佳奈の息は次第に小さくなっていき、そして、消えた。僕はもう泣かないと決めたのに、涙が出てきた。泣き虫ね。と佳奈の声が僕の耳傍で聞こえた気がした。