胎動が少ないと心配の方へ
こんにんちは。
以下の様な症状がみられる妊婦さんに向けた記事なります。
この様なご質問にお答えします。
今回のテーマです。
胎動は産科医にとっても非常に重要な観察項目です。
この記事は胎動の基本から注意するべきポイントまでまとめています。
病院に勤務していると時折「胎動がない(あるいは少ない)のですが大丈夫でしょうか」という相談の電話があります。
今まで胎動を感じていたのに、急に胎動が少ないな、無くなったなと感じている方に向けた記事になっていますので、どの対応をすれば良いか心配な方は是非ご覧ください。
※ 2024/05/17 改訂
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胎動が少ないと心配の方へ
■ 胎動とは
胎動は、胎児の動きを指し、妊娠中に母体が感じる胎児の動きです。妊娠初期には胎動を感じることが少ないのは、胎児がまだ小さくその動きが弱いためです。
胎児は成長するにつれて、活動期と休息期を繰り返します。このため、活動期には明確な動きを感じることができますが、休息期にはほとんど感じられなくなります。これが、胎動が周期的に感じられる理由です。
【参考文献】
» Moore TR, et al.: A prospective evaluation of fetal movement screening to reduce the incidence of antepartum fetal death. Am J Obstet Gynecol 1989; 160: 1075-1080. PMID:2729383 【エビデンスレベルⅡ】
胎動の感じ方はママそれぞれですが、赤ちゃんが大きくなった妊娠中期の18週~22週頃から感じ始めます。
初めの頃はお腹がゴロゴロする様な感じで気づかない方もいます。
そのため、妊娠初期に胎動が少なくても心配する必要はありません。
また赤ちゃんもお腹の中で寝ることがあります。20分寝て20分起きて、という感じで赤ちゃんは寝たり起きたりを繰り返しています。
そのため寝ている20分間は動かずじっとしているのでママは胎動を感じません。感じたとしても頻度は非常に少ないです。赤ちゃんは起き出すと、また動き出します。
妊娠後期の胎動は非常に重要でして、私達産婦人科医も通常の健診で赤ちゃんの元気良さ(well beingといいます)を評価する際に、胎動が一つの判断材料になります。
そのため、「胎動が少ない」ということで病院にいらっしゃった方には必ず赤ちゃんの元気良さを評価します。
この元気の良さを確認する項目はどの病院でも決まっていまして、チェックする項目で評価するスコアを BPS(Biophisical profile scoring)と言います。
スコアの評価方法ですが、5項目あります。超音波で赤ちゃんの「呼吸様運動」「胎動」「筋緊張」「羊水量」の状態を確認します。
加えて胎児心拍モニタリングで赤ちゃんの心音を確認して、これらの合計5項目で赤ちゃんの元気良さを評価します。
超音波で胎動を確認する時には「30分間に手足や体幹の動きが2回以上」で正常としています。
この様に、赤ちゃんの元気の良さを評価する項目の中には「胎動の有無」が含まれているくらい、胎動は検査を行わなくてもわかる重要な項目です。
■ 自分で胎動を確認する方法
胎動カウント法といって、ママが胎動を数えることで赤ちゃんの元気良さを確認する方法もあります。
ポピュラーなもので「10カウント法」というものがあります。
10回の胎動を感じるのにかかった時間を計測するというものです。
妊娠後期では10回の胎動を確認するのに約20.9分と報告されています。
1日のうちで最も激しい時間帯では10回の胎動を感じるのに14.8分と報告されています。胎動が少ないと感じる方は10カウント法を用いて、この数を指標にしてみてください。しかし、胎動の感じ方には個人差があるため、過度に心配しなくても良いことを理解してください。
※ ただし、妊婦さんによっては差があるので分刻みで不安になりすぎる必要はありません。
最近の研究によると、専用アプリやデバイスを使用することで、胎動カウントがより正確になり、データの記録と共有が容易になります。これにより、妊婦本人だけでなく、医療提供者も胎児の状態をリアルタイムで把握することができるようになります。例えばアプリによると、ユーザーが毎日の胎動を簡単に追跡し、異常があれば速やかに医師に報告する機能を提供するものもあるようです。
【参考文献】
» 産婦人科診療ガイドライン 産科編
» Moore TR, et al.: A prospective evaluation of fetal movement screening to reduce the incidence of antepartum fetal death.Am J Obstet Gynecol 1989; 160: 1075-1080 PMID:2729383(Ⅱ)
» Daly LM, et al.: Mobile health technology for prenatal monitoring: A systematic review of efficacy trials. Women and Birth, 2021; 34(3):209-216.
■ 臨月になると胎動が少ないと感じる理由
臨月に入ると、胎児の大きさや位置が変わり、特に胎頭が骨盤に固定されることにより、胎動の感じ方が変わることがあります。しかし、赤ちゃんは産まれるまでずっと動いています。胎動が完全になくなることはありません
これは非常に重要はポイントで、体動が少ないからといって、赤ちゃんが全く動かないという訳ではありません。赤ちゃんは産まれる前まで動き続きますので、妊娠後期に赤ちゃんが全く動かない時間が2時間程度続く場合には病院を受診しましょう。
※ この点に関しては色々な医学書籍や妊婦さん向けの書籍でも間違った内容が書いてることがあるので注意が必要です。
赤ちゃんは産まれるまでずっと動いていますが、赤ちゃんは動き続けているにも関わらず、時に胎動を感じにくくなくなる時があります。
話は逸れますが、赤ちゃんの頭が下がってくると同時にリラキシンというホルモンが分泌されます。
リラキシンは恥骨を緩ませて骨盤を広げる作用があるため、赤ちゃんの頭が下がってくことで、ママの恥骨を圧迫して恥骨付近が痛くなることがあります。これが恥骨周辺の痛みと関連していると考えられています。
妊娠中腰痛や恥骨に痛みを感じるのは、このリラキシンというホルモンが関係しているんですね。
【参考文献】
» Aldabe D, Ribeiro DC, Milosavljevic S, Dawn Bussey M. Pregnancy-related pelvic girdle pain and its relationship with relaxin levels during pregnancy: a systematic review. Eur Spine J. 2012 Sep;21(9):1769-76. doi: 10.1007/s00586-012-2162-x. Epub 2012 Feb 4. PMID: 22310881; PMCID: PMC3459115.【エビデンスレベル I】
» MacLennan AH, Nicolson R, Green RC, Bath M. Serum relaxin and pelvic pain of pregnancy. Lancet. 1986 Aug 2;2(8501):243-5. doi: 10.1016/s0140-6736(86)92069-6. PMID: 2874277.【エビデンスレベル II】
ただ、分娩前であっても胎動が少ないと感じても、完全に無くなる訳ではありません。臨月になると胎動が無くなると間違った風潮が流れていることもありますが、注意してください。
臨月に入ると、胎児の大きさや位置が変わり、特に胎頭が骨盤に固定されることにより、胎動の感じ方が変わることがあります。しかし、胎動が完全になくなることはありません。胎動が顕著に減少した場合には、胎児の健康を確認するために医療機関を訪れることが推奨されます。
【参考文献】
» Obstetric and neonatal outcome among women presenting with reduced fetal movements in third trimester
» Tveit, J.V.H., Saastad, E., Stray-Pedersen, B. et al. Reduction of late stillbirth with the introduction of fetal movement information and guidelines – a clinical quality improvement. BMC Pregnancy Childbirth 9, 32 (2009). https://doi.org/10.1186/1471-2393-9-32
» Jakes, A., Whybrow, R., Spencer, C., & Chappell, L. (2018). Reduced fetal movements. British Medical Journal, 360.
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病的意義のある「胎動がない時」
■ 私が経験した「胎動がなかった方」の体験談
少し怖いエピソードをお話しします。
妊娠末期に本当は異常な原因のある胎動減少なのに、友人から「臨月だから胎動は感じなくても良いよー」と聞いて受診せず、結果的に死産になったという報告があります。非常に悲しいエピソードです。
私自身も「胎動が無くて2時間経過したので気になって受診しました」という方を診察して、結果的に死産であったケースを経験したことがあります。
ちょうど医者3年目の若手の頃で、すぐ心音が確認できるだろうと思って超音波をママのお腹に当てました。
すると、赤ちゃんの心音が止まっていました。私の頭も真っ白になりかけましたが、必死にその場で出来ることを行いました。
病名は常位胎盤早期剥離でした。
常位胎盤早期剥離の多くの症状としては、板状硬と言われるようにおなかがカチカチになったり、腹痛や出血が見られる事があります。
このケースでは、まず胎動がないなと思って1時間ほどすると腹痛が少しずつ出てきたようです。若手だった私は初めての経験で、もっと早く来てくれれば、と非常に悔しい思いをした気持ちをまだ覚えています。
” 妊娠末期に胎動を10回カウントするまで2.3分の延長をみとめることがある。“
という報告があります。この論文ではさらに、数分の延長であれば何ら問題はない、とも言っています。しかし、胎動がない、と感じる時は要注意です。
26週で胎動が少ないと感じたことをキッカケに病院に受診して「双胎間輸血症候群」が診断された方もいます。
他にも常位胎盤早期剥離や脳性麻痺は出血や腹痛に先駆けて胎動減少があるという報告があります。
病院によっては「2時間以上胎動が無い時には来てください。」と案内している施設も多いですが、今までお話ししたように「2時間胎動がなくても大丈夫」というわけではありません。
産婦人科学会のガイドラインに準拠すると
ことをオススメします。
要するに2時間待たなくてもママが「胎動の感じがあれ、おかしいな」と思ったら連絡して受診するのが良いと思います。
大事なことですので何度も言いますが、胎動が全くなくなった時には要注意です。
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まとめ:胎動を感じない時は医師に相談を。
この記事の重要なポイントのまとめです。
世の中には妊娠末期の胎動について間違った情報が溢れています。
胎動が少なくなった時の対応について少しでも理解して頂ければ幸いです。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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